黄金戦争(17)(黄金攻撃作戦)(1)
俺の名は、ブレド。
5大ギルドの一角、『黒鉄』の直列ギルド『黒き暗器』の中でもいわゆる幹部だが、今はこうして『襲名戦争』に攻撃側として参加している。
普段ならこんな『黒鉄』の利益にならない仕事はしないんだが、今はちょっとした理由で少しでも金が必要だったから、こうして『中小ギルド連合』に雇われて傭兵みたいなことをやっている。
俺の役割はこの森にある拠点を制圧すること。
俺は『Sランク』冒険者だから参加するだけで100G貰えるし、拠点一つ突破ごとに追加で1万G。
これだけで借金返済ができるわけではないが、臨時報酬としては悪くない。
今から攻略するのはあのクガネチシロがいるギルドでもあるらしいから、うまくいけば再戦の機会もある。 その点からしても俺にとっては都合のいい『クエスト』ということになる。
ということで、その拠点があるという森の手前までやってきたわけだが・・・。
「ドリャー! セリャー! クラエー!!!」
「クソッ・・・これでもか!? これでもダメなのか!?」
「あ! ブレドさん、お疲れ様っす!」
「・・・お前ら、何やってんの?」
先に向かわせた部下たちが森に入る手前で何やらもがいていた。
準備運動をしているのかとも思ったが、森に向かって全力で魔法をぶっ放しているあたり、どうやらそういうわけでもないらしい。
というか、よく見れば森の手前の道路はすでに焦土とかしているのだが、森の中は至って平穏なようだ。
どうやらこの森自体に何らかの仕組みが施されているのだろう・・・。
「お前ら、なぁ・・・。 こういう場合は力押しじゃダメなんだよ。
いいか? この森の魔力は、見るからに『森属性』を帯びているだろ? だから自分の魔力を意図的に『海属性』にすることで・・・ほらな?」
「ブレドさん、さすがは『Sランク』っす! 俺たちがどれだけ粘っても入れなかった森の中に、いとも簡単に!?」
「よっしゃ、俺たちもやるぞ! えっと、魔力を『海属性』に・・・これって、いうほど簡単なことじゃない!?」
「な、なんとかこれで・・・、おお! 入れた! 森の中に入れたよ!!」
陸地では『森属性』、海などでは『海属性』の魔力を使うのが一般的で、多くの人は無意識にこの切り替えを行なっているのだが、何事にも例外はある。
例えば今回のように強力な『森属性』の結界があるような場合は逆に、『海属性』の魔力を放出することで中和することができるのだ。
とはいえこれは、それほど簡単な事ではない。
『黒き暗器』では暗殺訓練の一環として『魔力の調整』を日常的に行なっているから、少し苦労するだけで『属性転換』を行えたのだが、普通の冒険者では『Sランク』でも一握りの者にしか扱えない高等技術だったりする。
どうやら結界は森の表面だけに展開されていたようだから、森に入れば魔力は元に戻しても大丈夫なようなのだが・・・。
「ブレドさん、あれは、熊・・・でしょうか。 『魔獣化』はしていないようですが・・・」
「ブレドさん! お気をつけください! あの熊、魔力量が異常です!」
「お前ら、気をつけろ! どうやらこの森、まともじゃないぞ!」
森に入って最初に発見したのは野生の熊・・・らしき謎の生物だった。
向こうはまだこちらに気づいていないようだが、森を断続的に攻撃され続けたせいか気が立っているようだ。
魔力量的には『Sランク相当』に違いない。 俺ならなんとか倒せるかもしれないが、それでも際どい戦いになりそうだ。
できれば避けて通りたいところだな・・・。
「いいかお前ら、森の中では気配を消して行動するぞ。 出来るだけ魔力の放出も抑えるんだ・・・」
「「「了解っす!」」」