黄金戦争(5)(戦争四日目)(2)
アウラは「それじゃあ、車は私が出すね!」と言ってカードを破って高級そうな自動車(飛ぶ)を取り出した。
精霊車と違って二人乗りな上に燃費も悪いんだけど、こういう車が最近のトレンドで、例えば精霊車なんかに乗って移動しているところを見られら敵からは「なんだあの古臭いギルドは」と舐められることもあるらしい。
そう。 あまりにも平和だから忘れがちなんだけど、今って実は戦争中なんだよね・・・。
自分の『妖精の羽』も同じ理由で今回は使わないことになった。 というか、さっき鱗粉で城を支えた時の疲れのせいか、うまく精霊力を練ることができなかったので、どちらにせよアウラの車に乗せてもらうことになったんだろうけど・・・。
「チシロさん、すいませんがチシロさんは変装して運転席に座ってもらっても良いですか?
どうせこの車は自動運転なので、運転はしてもらわなくても良いんですが、形式だけでも整える必要がありまして・・・」
どんな高級車を使っていても「ギルマス自ら運転するようなギルド」と思われては威厳は薄れてしまうし、いかにも冒険者な格好な自分が運転していても格下に見られかねないのだとか。
まあ自分が変装するのは「アウラを下ろした後で潜入調査をするため」という理由もあるのだが。
ということで、アウラが用意してくれた高級そうな燕尾服に着替え、転生者のローブは車のトランクにしまっておくことにした。
「それじゃあ、キューちゃん、お留守番よろしくね」
「オンちゃん! ちゃんとした格好も似合ってるでち!
留守の間の城の守りは私に任せるでち! とは言っても今の所やることがなくて困っているぐらいでちが・・・」
「ベルンさん、先ほどライアから『魔力制御のためのトレーニングメニュー』が送られてきましたので渡しておきますね」
「マテラ、ありがとうでち!」
「マテラちゃーん!!! さあさあ! 早速街に向かって出発しましょう!!!」
「・・・・・」
マテラがキューちゃんにトレーニングメニューが書かれた紙を渡し、フードに戻ろうとしているところをアウラに拉致されてしまった・・・。
アウラはマテラを逃さないように抱きかかえたまま精霊車の助手席に飛び込み、マテラは「油断しました・・・」と呟きながらどこか遠いところを見ている。
この温度差・・・。 どうやらアウラとマテラの和解の日はまだ先になるかもしれない・・・。
アウラが乗り込んだのとは反対側の座席に乗り込み、扉を閉めると自分が何も触れなくても車が浮かび上がり、街の方向に向けて方向転換をした。
城の上ではキューちゃんがこちらに手を振っているので、手を振り返したのだが、その瞬間に車が発進してしまったので向こうが気づいたかどうかはわからない。
まあ良いや。
「チシロさん、今は別に良いですけど、街に近づいたらハンドルを握って『運転をしている振り』だけでもしてくださいね。
あと、あとマテラちゃんを、街に着くまでの間はマテラちゃんをおかりします。 ね、マテラちゃん!」
「・・・街に着くまで・・・ですか。 それぐらいなら・・・。 チシロさま、街までは全速力でお願いしますね」
「チシロさん! 街までは別に急がなくても良いから、ゆっくりと安全運転でお願いね!」
「いや、だから自分は運転していないから! アウラが自分で言ってたんだけどこの車、完全自動運転だから?」
ちなみに、運転席に座っている自分がハンドルを切れば手動で運転することもできるらしいが、あいにく自分が持っているのは普通自動車の免許だけで、空飛ぶ車は運転できないので遠慮しておくことにした。