黄金戦争(2)
地図に従って目的地まで移動すると、そこは一言で表せば『山』だった。
いや、高さ的に山というほどでもないから、丘と言ったほうが正しいかもしれない。
周りより少し小高いこの場所は平坦な森の中に立てるよりは守りやすいのかもしれないけど、丘の上にも木々がびっしり生えているわけで・・・。
「え? なに、どういうこと? 今から森林を伐採して土地を確保して、それから拠点を作れってこと? それも半日で!?
それとも場所間違えたかな?」
「オンちゃん、落ち着くでち。 きっと何か考えがあるはずでち! まずはカードを確認するでち!」
「ああ、なるほど。 チシロさま、見てください。
どうやらこのカード、すべての建造物に『空中浮遊』の術式が使用されているようです。
そうですね・・・、まずは試しにこのカードを発動してみましょうか」
マテラがフードから取り出して手渡してくれたのは、『拠点』とだけ書かれた一枚のカードだ。
今までのカードには少なくともそれっぽいイラストが描かれていたのだけど、このカードに至っては文字だけ。
急造で作ったから不要な部分は手を抜いたとか、そういうことだろうか。
とりあえずモノは試しと、小高い丘の上空でカードを破ってみる。 すると・・・
ゴゴゴゴゴ・・・。
と、鈍い音を立てながら一瞬のうちに空中浮遊城が一つ誕生した。
上半分は西洋風の城で、下半分は三角形に削り取られた地面で、出現した瞬間からパラパラと土がこぼれ落ちている。
・・・よくみたら少しずつ高度が落ちていっているような気がするんだけど、本当に大丈夫?
「チシロさま、大変です! どうやらあの雑巾、私たちに不良品を渡してきたみたいです!」
「オンちゃん、大変でち! このままじゃ10分も経たないうちに地面に激突しちゃうでち! どうするでち!?」
「やっぱり!? ってか、いや、どうする?って聞かれても・・・。 マテラ、魔術で補強したらどうにかならない?」
「試してみます! ・・・魔法陣を準備しますので、チシロさまとベルンさんは時間稼ぎをお願いします!」
やっぱり、少しずつ地上に向かって落ち始めているのは自分の気のせいではなかったらしい。
マテラはフードの中に潜って魔法陣を準備してくれるらしいが、やはりあれだけ巨大な城を安定させるものとなると時間がかかるのだろう。
ということで、自分とキューちゃんで時間稼ぎをする必要があるわけだけど・・・。
「えっと・・・、時間稼ぎをしろって言われても・・・」
「そうだ、オンちゃん! 試しにオンちゃんのその『鱗粉』を浮遊城にぶっかけてみたらどうでち!?」
「・・・、まあ、一応試してはみようか」
確かに、人間の体重を軽々と持ち上げることができるこの鱗粉の力を使えば、多少の時間稼ぎにはなるかもしれない。
ただ、重さが何百トンもありそうな城を持ち上げるほどの力があるとは思えないんだけど・・・。
<<妖精の鱗粉!!>>
自分の背に生えている羽に精霊力を込めて、強く羽ばたく。 すると、鱗粉が自分のイメージした通りに拡散し、城全体を包み込んだ。
大量の精霊力を使用したためか、軽い目眩が自分を襲ったのだが、こんな上空で気絶するわけにもいかないのでグッとこらえて、城の周りを漂っている精霊力にさらに力を込める。
すると・・・。
ゴゴゴ・・・ゴ・・・ゴゴ・・・・・。
なんとか浮遊城の落下が止まり、高度を安定させることができた。
しかも、自分が撒き散らした精霊力は城の丁度真下あたりに集まって、黄金に輝く巨大なリングになっていた。
どうやら、精霊力があのリング状に循環しているようで、より強い力を、より長時間発動し続けることができるようである。
ただまあ、リングが不完全なせいなのか、流石に城を支えるのには無理があったのか、時折パチパチと火花が散って少しずつ精霊力が消耗されているので、今はなんとか持ちこたえているけれどあまり長くは保たないだろう。
「やったでち! さすがはオンちゃんでち!」
「うん・・・、なんとか。 うまくいってよかった・・・」
「お待たせしました。 魔法陣と超濃度の魔水を用意しました。
というわけでチシロさま、最後に一仕事、魔術の発動をお願いします! ベルンさんは、この濃度の魔水を浴びると危険なので、少し離れていてください!」
「わ、わかったでち!」
「マテラ、ありがとう・・・。 それじゃあ発動するね・・・って、あれ?いつものとは違うんだね」
マテラがフードから取り出したのは、今まで見てきた魔法陣と比べると偉くシンプルな図形で、正方形の紙に円と三角形が描かれていただけだった。
どうやらマテラとライアの魔法陣研究は、様々な効果を足し合わせるだけの段階から、逆に不要なものを取り除いて効果を高める段階に進んだ・・・のだろうか。 知らないけど。
しかも魔水が入っているという容器も今までの試験管ではなくスポイトのような形になっている。
「チシロさま、こちらの三角形の内側に、魔水を一滴だけ垂らしてください。 ・・・それでは私はフードの中に避難します!」
「え? 避難って、なんで・・・?」
マテラに言われた通りに、魔法陣の三角形の内側に魔水を垂らすと、魔水は紙全体に染み渡った。
そして次の瞬間、魔法陣の書かれた紙が『ポン』と軽い音を立てて爆発し、自分の手を離れると空中で勝手に折りたたまれていく。
というかこの折り方の手順・・・。 数秒後、目の前には日本人なら誰でも折れることで有名な折り鶴が浮遊していた。
「え? なんで折り鶴? いや、確かにすごいけど、なんで?」
「チシロさま、ただの折り鶴ではないので安心してください!」
「マテラ、これはなんでち? 紙を折るだけで鳥?を作るなんて、すごいでち!」
いやまあ、そういうことじゃないと思うんだが・・・。
まあ確かに、精霊力のリングから散っていた火花は収まっているから、浮遊能力を取り戻すことに成功しているようには見えるが・・・。