アルツナイ(三日目)(8)(移動中)(1)
「どうも、お世話になりました」
「はい、またのお越しをお待ちしております」
自分たちは宿に別れの挨拶をして、そのまま『黄金』の拠点に向かって移動を開始した。
とは言え街中で『妖精の羽』の高速飛行をするわけにもいかないので、2〜3時間かけてアルツナイの郊外まで移動し、街道上を移動するときも速度は抑えめの安全運転で移動することにした。
やろうと思えば今の3倍以上の速度で移動することもできるんだけど、そうすると騒音問題や、同じく飛行魔法で移動している人や馬車との交通事故になる可能性もあるし、何よりアルツナイで試してみてわかったんだけど、全速力の移動は思った以上に体力を使うみたいなのだ。
だから結局、全速力で移動して休憩して・・・と繰り返すぐらいなら、これぐらいの速度を維持し続けた方が長距離の移動には向いているっぽい。
まあそもそも、そこまで急いでいるわけでもないんだけどね。
「チシロよ、ベルンシュタインが目を覚ましたようである」
「チシロさま、日も暮れかけてきましたし、ちょうどいいです。 今日はあの高台でキャンプすることにしましょう」
「そうだね。 既に先客がいるみたいだし、ちょうどいいかもね」
マテラが指をさす高台の上では、すでに他の旅人たちが何組か、テントの設立を始めていた。
距離的にはちょうど、アルツナイから『黄金』の拠点までのちょうど五分の一ぐらいになるのだが、今日は出発したのも午後だったし、アルツナイでの移動に時間がかかったのもあるので、総合的に見れば順当な移動距離なのだろう。
というか、地上を移動していたらここまで来るのに多分三日以上かかっていたと思うので、それを考えればむしろ上出来だ。
「チシロさま、流石に真ん中のあたりは既に埋まっているみたいです。 袖の下を渡せば場所を譲ってもらえるかもしれませんが、どうしますか?」
「うむ。 しかしここは人通りが多いようである。 まだ続々と人が集まっておる故、そこまで必要とも思えぬが・・・」
「そうだね。 今回はライアの言う通り、端っこの方で我慢しようか。
これだけ人が集まれば多少の魔物ぐらいなら大丈夫でしょ」
多くの人が集まってテント群を作るのは、急な魔物の襲来などに備える目的が大きい。
だから当然、中心地に近いほど比較的安全度は高く、端の方にテントを構える人は見張り役などを買って出る必要がある。
まあその分、中心地の人たちは食事を振舞ったりするなどして機嫌をとる必要があり、出費が多くなると言う欠点も存在するのだが・・・。
ということで、地上のちょうど空いている位置を見つけて、そこでアウラのカードを破って即席テントを作り出した。
周りを見ると自分たちと同じように『カード』からテントを取り出している人はちらほらみられたのだけど、それでも自分がカードからテントを取り出すと「お? 新作か?」とか「この、ブルジョアめ・・・」とかの声が聞こえてきた。
まあこのテントはアウラからの貰い物で、新作というかむしろ試作品な訳だけど、わざわざ話して自慢する必要もあるまい。
「チシロよ、メリアとアウラから緊急連絡があるらしい。
テントの中に入ったらベルンも交えて『会議魔法』を発動しようと思うのだが・・・」
「ライア、わかりました。 チシロさま、覗き見防止の魔法は私の方で発動しておきますね」
「了解。 それにしても、緊急連絡って一体なんだろう・・・。
『買い忘れたものがあるからアルツナイに戻れ』とかじゃなきゃいいんだけど・・・」