マテラ(1)
日が落ちて間もないというのに、チシロさまはすぐに寝てしまいました。
転生の手続きや森の散策で疲れたのでしょう。
ぐっすりと眠っています。
チシロさまは眠ってしまったのですが、私はどうにも眠くありません。
そもそも、お守りの私に睡眠は必要なのでしょうか。
・・・そこらへんのシステムも色々と調べてみる必要がありそうですね。
そうそう、システムといえばそういえば。
チシロさまがどうして転生システムで『やさしさ』のステータスに30も割り振ったのでしょう。
チシロさまが転生システムを使っている間はまだ、私は前世からの転移(チシロさまによる召喚)を完了していなかったので、どういった意図で現在のステータスに決定したのか、私には推測しかできません。
ですが普通は、生まれ変わりと聞いて一番に求めるのは「生き残るための強さ」のはずです。
サポートブックの『転生手順』の項目を見る限り、担当者からも「体力・魔力を中心にステータスを振ること」を推奨されるようです。
それなのに、チシロさまが割り振っているのは『想いを伝える力』と『やさしさ』の二つだけ。
おそらくチシロさまは、『暴力による解決』や『与えられた力に依存する』といったことを避けたかったのでしょう。
サポートブックの推奨構成を無視して。
担当者の助言にすら聞く耳を持たず、己の信念をひたすらに貫き通すチシロさま・・・
ああ、そんな凛々しいお姿を直接目にできなかったことが悔しい!
「こほん」
危ない危ない。
危うく、致命的なキャラ崩壊を起こすところでした。 どうやら私もこの世界に生まれたばかりで、人格がまだ不安定なのかもしれませんね。
私はマテラ。 チシロさまをサポートする、優秀で有能なお守りです。