街(6)
「え、ああ、事務職員ですか。 事務職員・・・、それ自体はいくらでも紹介できるのですが、『黄金に』となると・・・」
情報屋のお兄さんは『黄金』の名前を出して渋そうな顔をしているけれど、別に特に「『黄金』が過去に問題を起こした」からとか、そういうわけではないらしい。
話によると以前、『とある有力なギルド』に適当な人材を紹介したことがあり、その時は方々から「なぜ自分をそのギルドに紹介しなかったのか」との声が上がったらしい。
話だけ聞くと「なんて自分勝手な」と思うところもあるけれど、情報屋の人材リストに載せてもらうために大金を払っている人からすると、確かに不公平と捉えることもできなくはないか。
その時は、たまたま選ばれた人が所属後のギルドで大活躍したので、結局「情報屋が選んだ人選は正しかった」と無理やり情報操作することができたのだが、それ以来この情報屋では有名ギルドや大ギルドへの人材紹介には慎重な立場になったのだとか。
『黄金』の場合、現在の所属人数は極少人数だけど、過去には実績がありギルドランクも『ゴールドランク』なので、普通にメンバーを募集すれば応募が殺到するぐらいの人気はあるらしい。
というか、「『黄金』が活動再開した情報」や「『黄金』が人材募集を始めた情報」だけでも数千G以上の価値を持つ情報だったらしい。
情報屋には「情報の押し売りを防ぐため」という名目で『あらかじめ手順を踏んで買い取った情報以外は換金できない』という決まりがあるため、情報量を支払うことはできないらしく、情報屋のお兄さんは「だめだ・・・、負債が増えていって手に負えない・・・」と絶望しかけている。
いや別に、こっちとしては「特にお金には困ってないですし、損得はあまり考えなくても良いんじゃないですか」って説得しているんだけど、お兄さんの『情報屋としてのプライド』が一方的にぼろ儲けする状況を許せないらしい。
それはさておき
「それじゃあお兄さん、えっと・・・、具体的にどうすればいいんでしょう。
この街にはそこまで長く居座るつもりもないので、できれば手っ取り早く決めてしまいたいんですが」
「そうですか、でしたら通常は『ギルドの拠点』などで採用試験や採用面接を行うのが一般的になります」
「なるほど。 確かにそれなら効率的、というか、よく考えたらそれが当たり前ですね」
(ですがチシロさま、そうすると面接やら試験やらは雑巾さんに押し付けることになるので本末転倒な感じがあります)
「では、そのように手配しましょう。 まずはお客さんのギルド、『黄金』の拠点の場所を・・・」
「あ、ちょっと待ってください、やっぱり今の無しで。
それによく考えたらまだ黄金の拠点は建造中だったはずです」
「だから、ですね。 お客さん!
新拠点の情報は、情報屋の前では軽々しく口にしないほうがいいです!
いえ別に、情報屋の前に限った話でもないですけど!!」
怒んなくてもいいじゃん・・・。
それにしても、どうにも上手くいかないなぁ・・・。
とはいえ、今更ここまできて「面倒なのでやめました」というのでは面目が立たないし、何より頑張っているアウラに申し訳ない。
(チシロさま、ここはもう、地道に直接見て選んだほうが、良さそうですね)
(そうだね。 つまり、採用活動を他人に任せるという発想がそもそも間違ってたってことなんだろうね)
「というわけなので、人材探しは自分たちの目で見て進めようと思います。
なのでせめて、人材が集まる場所の情報だけでも教えてもらえませんか?」
「いや、『というわけ』って、どういうわけ?
まあ、人材を直接探すという方針には賛成です。
人が集まる場所としては、『ギルド』のクエストボードの周りや、あとは酒場なんかでもよく名刺を配っている冒険者を見かけますね。
あとはそういえば、例えば『冒険者ランク』なんかの試験会場には、そこそこの実力を持った人が集まるので実は隠れた穴場らしいです。
まあ実際は、試験会場に入り込むのも難しいですし、現実的とは・・・」
「それだ! それです、それですよ。 ありがとうお兄さん!」
ちょうど自分は『Aランク冒険者』の試験を受ける資格があるので、まさに渡りに船とはこのことだ。
お兄さんは「それ? それって、どれ? これから酒場に入り浸るってことですか?」と、混乱しているけど、なんか「自分はAランク冒険者の受験資格がある」っていう情報を教えるとまた「気軽に情報を教えないでください」って怒られそうだし、黙っておこう。
「『それ』が何かは、そう、秘密です。 自分だって、学習しているんです」
「はあ、そうですか。 そういうことなら仕方ありませんね。
では、私の方でも紹介できる人材の中から優秀な人を絞り込んだリストを作成しておきますので、連絡先を交換しておきましょう。
『黄金』で採用する人が決まったら、是非その情報を私たちに提供してくださいね? その時は色をつけて買い取りさせてもらいますよ」