街(3)
情報屋のお兄さんは引き出しの中から、この街の地図が載っているパンフレットを取り出しておすすめの宿について話し始めた。
「まず、宿を選ぶ際の基準ですが、まずは何をおいても『安全性』が重要だと、私は思っています。
確かにサービスの良さや部屋の快適さも重要ですが、どれだけ綺麗な部屋でも安全性が確保されていなければ安心して休むことはできませんからね。
そういう意味で、このあたりの地区は都市部から少し離れていますが、『白騎士』という大手ギルドの拠点もあって治安が良いのでオススメです」
ん? 『白騎士』って、どこかで聞いたことがある気が・・・。
そういえば、シロヒメさんが所属しているギルドも確か『白騎士』だった気がする。
そんな有名なギルドだったのか。 と一瞬驚いたけど、よく考えればあれだけ強い人が所属しているギルドなのだから大手ギルドなのは当たり前か。
近いうちに挨拶に伺ってもいいかもしれない・・・、いや、いきなり来られても迷惑だろうし、やっぱりやめておこう。
情報屋のお兄さんの情報が指差している地区は地図上でも薄い青色で表記されていた。
逆に、背景色が薄い赤い色で表記されている地区はスラム街だったり犯罪多発地区だったりするので近づかない方がいいということだ。
「ということで、私としては正直、『この辺りの地区の宿でしたらどこでも良い』と思うんですが、まあそれでも『安さ』と『快適性』のバランスが取れているオススメの宿はこちらになります。
まあぶっちゃけると、ここの店からは多額の寄付を受け取っているのもあるんですけどね。
ですがまあ、悪い噂をほとんど聞かないのもまた事実ですし。 あ、あとクーポン券もあるので、後でお渡ししますね」
お兄さんはやたらとパンフレットに載っている一つの宿を推してくる。
というかこれ、完全に宣伝だわ。
あれか、「なんだかんだ言って、お金の力は偉大」ってことなのか。
黙って聞いていると最終的に「よかったら今ここで、予約までしていきますか?」とまで言い出してしまい、逆に怪しくなってきたので「いえ、いいです。 クーポン券だけください」と言って話を切り上げることにした。
まあ、わざと断りやすいように露骨にに宣伝している感もあったので、情報屋にも何かと事情があるのだろう。
例えば「お金を受け取っている手前宣伝はするけど、最終的には自分で判断してほしい」とか。
このお兄さんの場合、露骨すぎるぐらい分かりやすく宣伝してくれたおかげで「これは宣伝である」って気づけたけど、逆に自分のことを騙そうとするような人だったりしたら簡単に騙されていたかもしれない。
つまり自分は幸運にも、このお兄さんから「『情報屋』から仕入れた情報すら信頼できるとは限らない」ことを教えてもらったことになる。
その勉強代だと思えば3000円なんて、安いものだ。
そういう意味も込めて「ありがとうございました。 お兄さんの言う通り宿は自分の目で見て選ぶことにしますね」と言って席を立とうとしたのだが、立ち上がる直前に「ちょ、ちょっと待ってください」と、慌てた様子で引き止められた。
ん? なんだろう。
もう宿の情報は聞いたし、あとは・・・あ、そういえばクーポン券を受け取ってないや。
「3Gを受け取ったのに、こんな宣伝行為だけして客を返したとあっては情報屋の名折れです!
何か、何か聞きたい情報はありませんか? 大抵どんな情報でもお伝えできますよ」
「えぇ〜・・・。 いや、いいよ別に。 今の所、特に聞きたいこともないし・・・」
「そう言わずに! 噂話とかこの町の有名人とかの裏情報も提供できますし、調査の依頼も受付けています!
なんだったら、情報操作の協力もできますよ! ・・・まあ情報操作は流石に3Gでできることとなると限られてしまいますが・・・」
『情報屋』の決まりとして、受け取ったお金を返金することは禁止されているし、次に用事があった時もまた3G払う必要があるらしい。
こちらとしては「別にそれでも構わない」けど、『信頼第一』の情報屋としてはしこりが残ってしまうのかも知れない。
ただ、考えてもこれ以上聞きたいことが思いつかない。
仕方がないので、「そこまで言うなら・・・、少し考えるので待ってもらえますか」と言い、考えるふりをしながら『通話魔法』を起動して、フードの中のマテラに相談することにした。