出発の朝(2)
目を覚ました二人に「マテラとライアも寝るんだね」みたいな話をすると、
「はい、寝てみたら、寝れました」
「うむ。 我の『存在』には睡眠など必要ないのであるが、この『実体』には休息が必要なようである」
ということだった。
二人とも、その気になれば「数日間は不眠で活動できる」とのことだったが、睡眠を取ることでエネルギーの節約になり、その分の魔力を体内に溜め込むことができるらしい。
また、傷を負っていた場合などはその傷の回復力も大幅に上がるらしく、体の半分が消し飛ぶぐらいの傷なら、半日も眠れば回復できるのだとか。
そんな事態に陥らないのが一番というか、体の半分が消し飛んでも死なないのか・・・。
そもそも、自分の戦闘力皆無のせいで、『戦闘系冒険者』の路線からは外れていることもあるから、二人が傷を負うこと自体滅多にないと思うけど。
まあ、あくまでも目安というわけだ。
とにかく、このまま部屋でのんびりしていると、うっかり二度寝してしまいそうだったので、身支度を整えて部屋を出ることにした。
部屋を出ると、おやっさんから「おうチシロさん! 朝食は用意してありまっせ」と声をかけられたので、食堂に向かい、そのまま朝食をとることにした。
ちなみに、アウラは徹夜で書類を一通り片付けていたらしく、今は部屋で寝ているらしい。
そっとしておいてあげよう。
おやっさんによると、『ギルド』などから届いた書類で新たな山が築かれているらしいけど・・・。
休憩は必要だし、いつかやる必要があるとはいえそう急ぐ仕事でもないらしいからね。
そっとしておいてあげよう。
朝食を食べ終わると、村人たちも『黄金の拠点』の建築を再開したようで、村全体が活気付き始めた。
アウラはまだ寝ているようなので、おやっさんに「アウラによろしく言っといてください」とだけ伝言を残し、村を出発することにした。
まあ、ステータスカードの通信機能を使えばいつでも連絡は取れるし、わざわざ起こす必要も、起きるのを待つ必要もないだろう。
「さて、それじゃあそろそろ出発しようか。
マテラとライアも、忘れ物とかはないよね?」
「はい、私は大丈夫です。 というか、荷物は全部チシロさまのフードの中にあるので、忘れ物をしようと思ってもできません」
「う、うむ。 そのことなのであるが、我は『妖精遣いの試練』の続きを進めるゆえ、ともに行動は出来ぬ。
念のために我の分身はフードの中に残しておくが、それに話しかけても反応できるかどうか・・・」
なんでも、昨日の『試練』はいわば前哨戦で、本番は今日から始まるらしい。
『試練』を完了するには短く見ても半月かかるらしく、しかも今度は気軽に戻ってくることもできない内容になる。
なぜ『妖精使い』の試練を『妖精』本人であるライアが行うことになっているのかは未だによく分かっていないけど、何か言えない理由でもあるのか、それともそんなもんなのか。
ライアは「己の我が儘のためにチシロには迷惑をかけてしまうが、どうか大目に見て欲しい」などと言っているけれど、どう考えても『迷惑』なんてことはない。
むしろ、今までライアがついてきてくれていたことの方がありがたいぐらいなのだから。
「迷惑なんてことはない」こと、「ライアならなんとかなるって信じてる」こと、「無理はしないように、ライア自身のことを一番に考えてほしい」ことを話すと、ライアは「うむ。」と、気持ちの良い返事をしてフードの中に飛び込んだ。
分身体をフードの中に残し、本体はどこか別の場所に向かったのだろう。
「チシロさま。 結局またチシロさまと私の二人きりになってしまいましたね」
「まあ自分は、マテラさえいれば大丈夫だと思っているんだけどね」
「チシロさま・・・、ありがとうございます。 期待に添えるように精一杯努めますね」
「まあ、お互いあまり無理はしないように、それこそボチボチ頑張っていけばいいんじゃないかな」
こう言っては「命を軽んじている」と取られるかもしれないけれど、『転生者』であるという時点で既に『一度失った命』なわけだから。
この世界では『転生者』の大半が『冒険者』になるらしいけど、その理由はやはり『自分の命』よりも『冒険』を重視するからなのかもしれない。
・・・よく考えたらそんなことはない気もしてきた。