出発の朝(1)
窓から差し込む朝日で目が覚めた。
寝るときは「マテラとライアが戻ってくるかもしれない」と思って鍵を開けたままにしておいたのだけど、いまは鍵が掛かっていている。
部屋に戻ってきたマテラかライアが鍵をかけておいてくれたのだろう。
部屋を荒らされた様子はないし、というかそもそも、荷物は全部ローブのフードの中に入れているので、このローブさえ無事なら大丈夫・・・だと油断していたけど、よく考えたら、そのローブを盗まれてしまったら一巻の終わりだったのか。
次からは気をつけないと・・・。
マテラとライアを探して部屋の中を見渡すと、机の上に二人が折り重なるように眠っていた。
手のひらサイズの小さな二人が寝ている様子はなんというか幻想的というか、一言で表すとするならば「かわいいの権化」だろうか。
できることなら写真に撮ってスマホの待受にしたいところだけど、残念ながらこの世界にスマホはないし、少なくとも手元にはカメラもない。
残念で、仕方がない・・・。
というか、マテラもライアもちゃんと睡眠は取るのね。
全くもって『妖精』の生態はよく分からない。
というか、ライアはともかくマテラは実際に妖精かどうかもよくわからない。
ライアに関しては「妖精使いの試練を受ける」みたいなことを言っていたから『妖精』なんだろうけど、じゃあ試練を受ける必要がないマテラは妖精ではないということになるのか?
マテラが妖精じゃなくて、ライアが妖精だとすれば、その違いは?
もしくは、実はマテラも妖精だったのか? 考えれば考えるほど、分からん。
分からないことをいつまでも悩んでいてもしょうがないので、これぐらいで考えるのはやめておこう。
そんなことより、
いや〜、なごむわ〜。
丸くなって眠っているライアと、そのライアを枕のようにして眠っているマテラ。
なんだったらこのまま『平和』とか適当なタイトルをつけて、額に入れて飾っておけば、「芸術的」と表現しても許されるレベルだと思う。
それこそ一日中眺めていても飽きないような光景だった。
しかしまあ、当たり前だけどいつまでもこの状態が続くわけではない。
しばらくの間まったりと二人の様子を観察していると、ライアが目を覚ましてムクリと起き上がった。
ライアが起き上がったので、必然的にマテラはライアの上からずり落ちることになる。
しかも、運悪く(?)二人が寝ていたのはテーブルの端だったせいで、マテラはそのままテーブルからずり落ちてしまう。
落ちる前に受け止められればよかったのだけど、とっさのことだったので間に合わず、マテラはそのまま地面に激突して「ふぎゃ!」という声をあげて目を覚ましたようだ。
というか今、顔面から地面に激突したように見えたんだけど大丈夫だろうか。
「マテラ、ライア。 おはよう」
「うむ。 チシロよ、早いの。 何か重いと思ったら、マテラが乗っておったのか・・・」
「いつつ・・・。 チシロさま、おはようございまふ」
マテラは、鼻っ面を抑えながらふわふわと浮かび上がるけど、大事では無いようだった。
というか、想力的に『痛い』というよりは『恥ずかしい』という感じだったので、怪我自体を心配する必要はないだろう。