山龍討伐二日目(蛇足)(解決編)(1)
会議が始まって初めのうちは、お互いのギルドが持っている情報を交換し合う形で順調に進んでいたのだが、一通り情報が出尽くしたタイミングで『赤き農民』の幹部から「人質の身柄をこちらに譲ってくれませんか」という意見というか、要請が出た瞬間から会議の歯車が狂い始めた。
当の自分はというと、やはり自分が『人質』であるという実感が足りなかったのかもしれない。
だから、「自分を人質として再度確保する」という意見が出ることを想定すらしていなかったので、つい間の抜けた感じに「ふぇ?」みたいな声を出してしまった。
しかも、アウラやテンキさんは『赤き農民』の一言に(何言ってんだこいつら・・・)みたいな顔をして黙っているし、『赤き農民』の方も、『黄金』のメンバーの返事を待つ形で口を閉ざしている。
結果的に、自分が最後にはなった間の抜けた一言が強調されてしまう。
やめてー、黙らないでー。
誰かなんかはなして。 そして、さっきの一言を水に流してー。
「「「・・・・・・・」」」
うん。 もういいや。
気持ちを切り替えていこう!
冷静になって考えれば、人質を拘束しておきたい。 あるいは拘束しておくべきだという『赤き農民』側の考えは、理解できないこともない。
というのも、自分は現在、「なぜ『人質』状態として認められているのか、誰にもわからない」ような不安定な状態で、このままだと、何がきっかけで『人質状態』が解消されてしまうかわからないからだ。
自分が人質から解放されてしまうと、例えうまく解決できる方法が見つかったとしても『赤き農民』には『魔術契約違反』のペナルティが降ってしまうことになってしまい、それまでの努力は全て無駄になってしまう。
ただまあ、ギルドマスターであるディーノさん自身は「やっぱりんなこと頼める立場じゃないよなぁ・・・」と尻すぼみに付け加えていて、あまり乗り気ではないようにも見える。
幹部達が暴走しているだけか、あるいは「無理だとは思うけど一応駄目元で言ってみよう」みたいなつもりだったのかもしれない。
どちらにせよ今更自分が拘束されるようなつもりもないし、そんな必要性もないでしょ。
『赤き農民』と平和的に解決したいというのも、そもそもは自分の趣味というか、自己満足のために過ぎないのだから。
そもそも仮に『赤き農民』が潰れたとしても多少の罪悪感を感じるだけで自分たちや『黄金』に損害はないわけだし、そのために自分たちを危機に晒すつもりは全くない。
というか、自分が拘束されちゃったら何もできなくなっちゃうじゃん。
それはつまんないから嫌だな。
少し自分勝手かもしれないけれど、この話は聞かなかったことにして、とっとと次の話、本題に移ることにしよう。
「ま、まあまあ。 それはさておk・・・」
「チシロさんとアウラちゃんをまた人質に取るつもりですか!? あなたたちは。
立場をわかっていないのですか? 何様のつもりですか?」
「「「んだと!」」」
「やっぱりテメェらは、俺らと対等に話し合いをするつもりがなかったってことなんだな?」
「だったらこっちにも考えがある! おいそこの、双子の傭兵!
今すぐその人質を拘束しろ!」
「え? そんなの嫌だぞ☆ お断りだぞ☆」
「そもそも〜、あなた達には私たちに申請はできても、命令することはできないんです〜。
まあ〜、そうでなくても『気に入らない』命令に従うつもりはありませんが〜」