山龍討伐二日目(幕間4)(4)
「隊長! 山龍消滅の勢いが落ち着いたようなので報告します!
現在、残りの山龍は約100体ほどです!」
「そうか、もっと早く落ち着くと思ったが、思ったよりも時間がかかったな。
それにしても、山龍を100体も消滅させるとは、思ったよりも数が多いな。
確かに、あれだけ派手な魔法陣を・・・、おい、もしかして今、残りの山龍が100体って言ったか?」
「は、はい! 現時点でこの山に存在する山龍の数は、残りおよそ100体になります。
正確にはもう少し多いですが、少なくとも150には届きません。 地図で確認しますか?」
そう言って広げられた地図には赤い点がポツポツと散らばっている。
何も知らない状況でこれが山龍のいるポイントであると聞けば、「まあまあ多い方ですね」となるかもしれないが、ついさっきまでは山龍の反応で地図自体が真っ赤に染まっていたことを考えると、これは、逆の意味で異常だ。
確かに、『周囲の魔力を吸い上げて山龍が消滅する原理』は理解できる。
だが、それで影響を受けるのはせいぜい数十体か、それこそ多くても数百体といったところになるはず・・・。
「それと、『結界』が突如消滅した件ですが、『赤き農民』の側も困惑している様子でした。
そこで『結界消滅』の原因を調べて見ると、こちらもおそらく『妖精使い』が発動した『魔力吸い上げ魔法』が原因のようです。
魔法の影響で『結界』内の魔力濃度が急激に低下し、魔力バランスが崩壊したのが原因と考えられます」
「そうか・・・。 それで、結界の修復は可能そうか?」
「いえ、それは少し、難しそうです。
今の結界を修復するのはまず不可能ですし、同等の結界でも展開するのに10年はかかる見込みです」
「なるほど。 まあ、さすがの妖精使いも、結界の消滅は計算外だったのかもしれないな。
まあ、『結界の破壊』は状況によっては犯罪にもなり得るが、さすがに今回の場合は『事故』ってことで済まされるだろうな」
「はい。 そうでしょうね。
結界の魔法陣に対して直接攻撃したわけではないですし、『魔力濃度の変化によって結界を破壊する』という前例もありませんから。
それにそもそも、この森に展開されていた『結界』自体、明確には禁止されていないですがかなりグレーなものだったようなので、この山や森のことを考えると、案外これで良かったのかもしれませんね」
そう言えば、そんな報告も受けていたな。
確か、この森全体に展開されていたのはいわゆる『旧式』の魔力結界で、結界としての効果は高いが副作用として内部に魔力を溜め込んでしまうという特性が・・・
「それか!?」
「? 隊長? 突然叫びだして、どうかしたんですか!?」
「ああ、山龍が大量消滅した理由がわかった。
チシロさんは『結界』を消滅させて、充満している魔力を一気に外に流し出したんだ!
その結果、森全体、山全体の魔力濃度は一気に引き下がり、魔力の影響を受けやすい山龍を次々と消滅していったということだ!」
「と、いうことはもしかして、『結界の消滅も妖精使いの計画の一部だった』ということに!?」
「ああ、その可能性も・・・いや、おそらく十中八九、計算通りなんだろう」
「だ、だとしたら、恐ろしいほどの発想力と計算力です」
「ああ。 しかも、それに加えて『実現できる手段』と『実行できる勇気』までも持ち合わせていることになる」
ある地方では『妖精使い』は『神職』としても扱われるらしい。
その話を聞いたときは単に「珍しい職業だからだろう」という程度に考えていたのだが、どうやら考え方を改める必要があるのかもしれない・・・・・。