ロボットのお勉強1
「あの子が操縦者よ。どう思った?」
星井は若桜知科を見送るとヒュウマに尋ねた。
「どうって、ガキだなとしか」
「それに彼女、ロボット操作技術選手権の本戦に出ただけなんだろ?」
「そうよ、チカちゃんは本戦に出ただけ。本戦は3回戦敗退よ」
ロボット操作技術選手権の本戦に出ることは難しい。
だがあくまでアマチュアの大会なのだ。
日本のプロロボットボクシングの第一線で活躍している人たちは皆、本戦で優勝、準優勝など結果を出していた。
それも1年ではない。数年に渡って結果を出し続けていた。
それでようやく一流の企業とスポンサー契約を結ぶことができる。
しかし若桜知科は違う。たった1年、本戦に出ただけなのだ。
中学生としては快挙かもしれないが、それで即プロデビューとはならないはずだ。
あのスーパースターの風河朝日ですら、3年連続優勝の快挙を果たし、初めてYAMATO自動車と契約できたのだ。
「それなのにYAMATO自動車からプロデビューするなんてあり得ないな」
「まさか彼女が中学生だから、話題性で契約した?」
「そうよ。世間は天才中学生のプロデビューで話題騒然。広告効果も期待できるわ」
ヒュウマは聞いておきながら、その可能性はないと思っていた。
いくら話題になっても勝てなければすぐに忘れ去られて、広告効果が期待できるのも一瞬だ。
もしかしたらバッシングで話題になることを期待してるのかもしれないが、中学生には余りに酷だ。
「話題性って……勝つ気なかったのか」
散々ヒュウマのことを最強のロボットと呼んでおいて、実は中学生のおもちゃだったなんてショックで電源が落ちそうだ。
「勝つ気あるわよ」
「じゃあなんで操縦者が半人前なんだよ」
ヒュウマは消え入りそうな声で言う。
「最強のロボットなんだから操縦者が半人前だろうと3分の1人前だろうと勝てるわよ」
星井は至って真面目に言う。
「最強のロボットっていうのは操作の要らないロボットのことを言うの」
「つまりこういうことか。俺が勝手に戦うから、彼女が操作する必要はないと」
「YES」
しかしヒュウマは自身にそんな力があるとは到底思えなかった。
「いくらなんでもロボットが操縦者抜きで戦うのは無理があるだろ」
「何のために操縦者がいると思ってるんだ。戦術の策定、緊急時の動き、それらをするためにわざわざ優秀なロボットを優秀な操縦者が操作しているんだろ」
「なぜあなたは人間の記憶を持つロボットになったと思う?」
「それは最強のロボットを作るため、としか……」
そうとしか答えられない。
恐らく、人間の記憶を持ったロボットが最強である理由を聞いているのだろう。
だがそもそも最強の理由を聞いてないのだ。
「質問が悪かったわね。じゃあ、なぜ高校生のあなたを被験者に選んだと思う?」
「それは俺が交通事故で死にかけだったのがちょうど良かったんだろ」
「別に死にかけの人間だけなら病気で死にそうな人が病院には幾らでもいるわ」
ヒュウマの見当違いな回答にも星井はイラつくことなく笑顔で答える。
星井も教えてないことを正しく答えられるとは思ってないのだろう。
「でも病気で弱って死ぬ人間ではロボットボクシング用ロボットのAIには向かないのよ」
「そして頭の凝り固まった人間もね」
星井はヒュウマと呼ばれる高校生を被験者に選んだ理由について解説する。