ロボットミーツガール
「喧嘩をさせるために会わせた訳じゃないのよ」
星井はヒュウマと女の子を諭した。
「これから一緒に戦う訳なんだから。仲よくしなさい」
「こんなロボットと?」
「こんなガキと?」
お互いを指差し不満そうに言う。
「今更変更できないわよ」
「変えようとすれば、あなたはプロデビューできなくなるし、あなたはデータを消される」
星井は笑顔のままだが、少し厳しい口調になった。
「大人なら仲よくしなさい」
今度は元の優しい口調だ。
その言葉を聞き、2人は押し黙った。
「自己紹介したら?」
2人が落ち着いたのを見て、星井は切り出す。
その言葉を聞き女の子が自己紹介を始める。
「私の名前は若桜知科。中学2年生よ」
「去年のロボット操作技術選手権ロボットボクシングの部で全国大会本戦に出場した期待の新人よ」
若桜はそう言って胸を張る。
ヒュウマもこれには感心した。
ロボット操作技術選手権はアマチュアの全国大会で、学生のみならず社会人も参加して様々な競技が行われる。
それぞれの競技で使われるロボットは全て統一規格で、機体の性能ではなく純粋に操縦者の腕だけを競う。
中でもロボットボクシングの部は競技の人気から参加者も多く、予選を勝ち上がるのも至難の業だ。
そんな全国大会の本戦に中学生で出場するなんて余程の才能の持ち主だ。
世間でも、若桜知科の活躍は「ロボットボクシング界にスーパー中学生現る」と話題になっていた。
ヒュウマはプロのロボットボクシングにしか興味がなくて知らなかったが。
「私は100年に1人の逸材。そんな私に操作されるんだから、あなたは大船に乗ったつもりでいいのよ」
若桜の自画自賛を聞いてむしろ不安になったが口には出さない。
もっともロボットでなければ表情には出ていた。
「あなたの機体名は何?」
若桜はヒュウマに尋ねる。
「俺は日馬って名前、らしい」
「らしいって何よ。名前をインプットされてるのに……」
若桜は怪訝な顔をする。
「なんかこのロボット変じゃない? 本当に大丈夫なの?」
「大丈夫。このロボットのAIは既存のものと大きく違うだけ。だからこそ最強のロボットなのよ」
星井は言い切る。
「じゃあ、その最強のロボットは操作できるの?」
「調整段階だから、まだ無理よ」
「それで本当に日本選手権に間に合うの?あと3週間しかないわよ」
変だと思った。
確かロボットボクシングの日本選手権は夏休み明け最初の日曜日。
今日は夏休み前日だから1ヵ月以上はあるはずだ。
しかし疑問を持っているのはヒュウマだけのようだ。
「まぁ1週間もあれば調整できるわ。練習には2週間もあれば十分でしょ?」
星井が聞くと
「私には十二分な時間よ」
若桜は自信たっぷりに答えた。
「私は帰るわ。操縦もできないんだったらここにいる意味ないし、学校のロボットボクシング部もある」
「わかったわ。ここに呼んだのはチカちゃんへ日馬をお披露目するためだったし」
「じゃあね、日馬。次会う時までに口の悪さ直すのよ」
早く部活へ顔を出したいのだろう。若桜はそう告げると出口まで走り去っていった。