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俺の名は

 白衣の女性は語った。


 女性の名前は星井ほしい哲子てつこ。日本の大手自動車メーカー、YAMATO(やまと)自動車に勤める研究員だ。

 星井は機械の思考をより柔軟なものにしようと、生物の脳から出ている電気信号を解析してAIに応用する研究をしていた。

 研究を続けていた2年前、生物の記憶を丸ごとAIに移す技術を発見する。

 

「最初、私は健康なマウスで実験を行った」

「ただ理論通りにはいかなかった。記憶の転送中に大量のノイズが入ったの」

「そこで健康なマウスではなく死にかけたマウスで実験を行った。するとノイズが減り、記憶が損傷することなく転送されたわ」




 様々な動物実験の後に、彼女は新たな研究を始めた。

 人間の記憶をAIに移す研究である。

 

 このロボットはギョッとした。

 ロボットに人間の記憶を移す行為はヒトクローンや様々な兵器技術と共に国際法で禁止されている。

 生命倫理の観点からも軍事転用の危険性からもタブー視されていたのだ。




「私はYAMATOの上層部から、ロボットボクシング用ロボットのAIへ人間の記憶を移し、最強のロボットを作ることを命じられた」


 YAMATO自動車はロボットボクシング用ロボットの開発兼スポンサーをしていた。

 日本のスター選手、風河ふうが朝日あさひのロボット開発も担当している。


「上層部は法を犯してでも、YAMATOのロボットが日本のみならず世界で活躍することが必要だと判断した。企業宣伝のため、そしてロボット大国日本の威信を取り戻すためにね」


 日本最強の選手は風河朝日だったが、世界ランキングは32位と世界に通用しているとは言えなかった。

 ロボットボクシングのみならず、日本は21世紀前半のロボット開発をリードしていたが徐々にその差を縮められ、現在では欧米諸国の後塵を拝している。

 



「そのために俺をロボットにしたと」


 このロボットは自らの体の変化と星井の話から、そう判断せざるを得なかった。


「そう。あなたは我が社(ウチ)の自動車に轢かれて、この大和やまと総合病院に運ばれてきた」

「自動車事故で死人が出れば企業責任が大きく問われる。我が社(ウチ)の病院も全力を尽くしたわ」

「でもあなたは現代の医学を以てしても助けられる状態じゃなかった」


 治療を施そうにも内臓の損傷が酷く手遅れだったらしい。


「だからあなたは私の研究に回された」

「本技術の被験者には、突然死直前の高校生が最適だったから」

「そして記憶の転送は成功し、あなたは人間だった時の記憶を持つロボットになった」


 説明はひとまず終わった。



「それで俺はロボットにされたことを感謝すればいいのか?」


 このロボットは戸惑っていた。

 YAMATOの無人車に轢かれた上、勝手にロボットにされたことは腹だたしい。

 しかし今こうやって話せているのは、この研究者がAIに記憶を移したおかげなのだ。


「別に慈善事業じゃないから感謝なんていらないわよ」

「これからロボットボクシング用ロボットとしてYAMATOわたしたちにちゃんと協力してくれるかどうかの方が大事」


 星井は笑顔ながら冷たい口調だ。


「協力しないと言ったら?」


「その場合はあなたのAI情報を抹消して、新たなAIを作るわ」


 そう言いながら、ボタンが幾つもついた小さな機械の箱を左指でつまんでチラつかせる。

 なるほど、あれを押されると本当の死が訪れるのか。


「とはいえ俺が元々人間だったことって、すぐにばれるんじゃないのか?」


 このロボットは計画そのものに疑問をぶつける。


「そもそもAIに人間の記憶が入っているなんて、入れた技術者と入れられた被験者以外は普通分からない」

「とても優秀なロボットがあったとして、それが元人間のロボットだとは誰も思わないでしょ?」

「自分から話さなければ分かりようないし、話したからって誰も信じないわ」


 星井の話はもっともだった。

 このロボットも今日この部屋で目覚めるまで、人間がロボットになることなどあり得ないと思っていたのだから。


「わかったよ、協力する」


 このロボットは自らの存在する世界から消えたくなかった。

 それにこのロボットはロボットボクシング好きだった。

 ロボットボクシング用のロボットになって世界を見るのも悪くないと思っていたのだ。




「ところで俺の機体名って何なんだ?」


日馬ヒュウマ

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