夏休みは危険
男子高校生はうだるような暑さの中をひたすら歩く。
学校から家は近い。ゴールまでもうすぐだ。
この高校生は気持ちを切り替え、大通りを右に曲がった。曲がった先も同じような道である。
この高校生はすれ違う車の運転席を見る。
今走り去っていった沢山の車のそれぞれに人が乗っていて、自分は沢山の人とすれ違っている。
この高校生はそんな当たり前のことが急に不思議に思えてきたのだ。
運転席に乗っている人たちは、本を読んだり、端末を弄ったり、寝たりと皆思い思いの過ごし方をしていた。
自動で運転するから人間はただ乗っているだけでいいのだ。
10m程前を走る車にも目を向けた。白い軽トラックだ。
しかしその軽トラックには人が乗っていなかった。
そうか軽トラックは物を運ぶのが仕事だから、人を乗せないのが主流だよな。
さっき不思議に思ったのは無人車が少ないことに対してかと、この高校生は納得すると今度は不思議な光景が目に飛び込んできたのだ。
その無人の運搬車が車道から歩道へせりあがっていた。
突然のことに思考が止まった。歩みも止まった。
しかし車は止まろうとすることなく自分へ迫って来ていた。
一体全体どういうことだろうか。無人車なんて安全な車の最たるものなのに。
怖い、どうしよう、怖い。体が動かない。
鉄の塊は止まった。
緊急時のブレーキが作動したのだ。
一人の男子高校生を下敷きにして。