借金の返済と夏休みの宿題は計画的に
――人工知能つまりAIの進歩によって私たちの暮らしは大きく変化しました。
自動車はその最たる例です。
道路交通法によって自動車全てに自動運転技術の搭載が義務付けられていることはみなさんもご存じだと思います。
同法は、人間が運転するよりもAIに自動車の運転を任せた方が遥かに安全になったため、2050年に改正されました。
これは21世紀に入りAIが発達するまで考えられないことでした。
つまり私たちの暮らしとAIは切っても切れない関係ということです。
そこで夏休みの宿題では、AIの進化とそれに伴う社会の変化について、400字詰め原稿用紙8枚分のレポートを書いてもらいます。――
大都会の大通りを一人歩いて帰る男子高校生。
明日から夏休みだというのにその足取りは悲壮感を漂わせていた。
何も夏休みが嫌いな訳ではない。
夏の熱気の中を一日の疲れと共に歩かなければいけないことがこの高校生の気分を暗くさせているのだ。
暗い気分の時は辛いことを考えてしまう。
この高校生も夏休みの宿題のことを考えてしまうのだった。
――AIの進化とそれに伴う社会の変化――
この高校生は普通にやっては原稿用紙8枚分を埋められないと思った。
何か書きやすい、AIが使われているものはないか。
そこで思いついたのは、大好きなロボットボクシングのことだった。
ロボットボクシングとは人間がロボットを操作し戦わせる、世界中で行われているスポーツのことだ。
1対1でどちらかのロボットが壊れるまでリング内で戦わせる。
ロボットは決められた大きさ以内なら、どんな形状でもいい。
また人間のボクシングと違い、殴り合うのではなく剣や銃なんかで攻撃し合う。
何でもありなのだ。
ロボットボクシング用のロボットにもAIは使われている。
そしてAIが進化するにつれ、ロボットは人間の命令なしでも自動で戦うようになった。
強いロボットほど試合中に人間の命令を必要としないのである。
昔はロボットの操作技術がプレイヤーの大きな指標になっていたが、今は弱いプレイヤーほど操作し、強いプレイヤーほど操作しない。
ロボットボクシングはAIの進化によってゲーム性が大きく変わったスポーツなのだ。
この高校生はレポートをロボットボクシングで書こうと決めた。
今まで活躍したロボットの特徴を年代ごとに纏めるだけでレポートは完成するに違いない。
だがロボットボクシングの歴史では、宿題の社会の変化というテーマにそぐわない。
そのことにこの高校生は気づいていなかった。