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※注意!!※

 今回と次回、両親から主人公姉妹に対する虐待の描写があります。

「育児放棄・暴力・経済的虐待・姉妹間の過度な待遇差・優しい虐待・イジメ・子供の美容整形」

 これらの要素に嫌悪感のある方は、読み飛ばしていただいてかまいません。

 次々回(第8話)の冒頭にあらすじを載せますので、そちらをお読みいただければ話がわかるよう対策いたします。

 すぐに玲一が店員をつかまえて、個室に移動させてもらえるよう頼んだ。


 店側に迷惑をかけて申し訳なかったが、どうやら玲一は店主と懇意で、なにかと融通がきくらしい。


 とはいえ、なにも頼まないのはまずかろうと、さきほどオススメされたケーキセットを注文する。玲一も「いつもので」とオーダーすると、さっさと店員を下がらせた。



「……それで、さっきの話だけど」


「うん。なにから話せばいいかな……。和泉くん、わたしに妹がいたこと、知ってた?」


「え? いや……今回、初めて知ったよ」


「そうだろうね。歳も離れてるし、同級生だってほとんど知らないと思うよ。……わたしも、知らなかったし」


「え?」


「中学卒業するまで知らなかったのよ、自分に妹がいるってこと」



 物心ついたころから、幸恵は両親に育児放棄されていた。


 まともな食事を与えられず、風呂にも入れられず、衣服も洗ってもらえない。新しい洋服なんてもちろん買ってもらえなくて、ずっと同じものを着回し、冬でもTシャツに短パンだった。


 とうぜん、臭いし、汚い。歯ブラシも与えられないから、虫歯だらけで口臭がする。


 そうなると、いじめの対象になるのは時間の問題だった。そもそも保育園にも幼稚園にも入れてもらえないから、友達ができない。近所の子供たちには避けられた。


 彼女の境遇を哀れんだ近所の住民が家に入れてくれたり、食事や風呂を与えてくれたこともあったが、それも回数が多くなると嫌がられる。


 そのうちに児童相談所に通報されて、そこから祖父母に連絡がつくまで、そう時間はかからなかった。


 生まれて初めて出会った父方の祖父母は、ガリガリにやせ細った幸恵を見て、泣きながら抱きしめてくれた。



「ごめんね、ごめんね……バカ息子が、本当にごめんね……」



 その言葉に、幸恵はなにも返せなかった。


 積極的に虐待してきたのは母親だが、父親はなにもしなかった。


 幸恵が食事を抜かれても、真冬に外に締め出されても、風呂に入れなくても、暴力を振るわれても。


 本当に、なにもしなかった。


 時折、「母さんの言うとおりにしなさい」と声をかけられて、



(この人、しゃべれたんだ)



 と驚くくらいには、なにもしない、なにも言わない人だった。


 たしかに父親から暴力をふるわれたことも、暴言を投げかけられたこともなかったが、彼もまた虐待を容認していたことは事実だった。


 幸恵は、母親だけでなく、父親も大嫌いだった。だから、とっさに祖父母の言葉を否定できなかった。――事実だと思ったからだ。


 彼女の両親は、間違いなく最低だった。


 幸恵はその後、父方の祖父母の元で育った。学校もそこから通ったから、実家の周辺に知り合いは多くない。彼女の地元は祖父母の邸周辺で、育ての親も彼らだ。


 両親は、一度も顔を出さなかった。時折、祖母が電話越しに言い合う声だけが、両親の記憶だった。


 その両親が、とつぜん家を訪れたのは、幸恵が中学を卒業する直前のことだった。


 母親は見知らぬ女児を引き連れて、こう宣言した。



「この子はあんたの妹よ。この子のために、高校には進学しないで、中学卒業したら就職しなさい。あんたはお姉ちゃんなんだから、この子を育てる義務があるのよ!」



 ――クズである。


 妹は当時まだ四歳。しかし、両親の「優しい虐待」という洗脳と英才教育により、立派な暴君と化していた。


 妹の成長を心配した幸恵は、祖父母の反対を押し切り、実家へ帰ることになった。


 ただし、進学費用は祖父母が出してくれることになったため、高校へは行けることになった。――幸恵の代わりに、祖父母が妹の養育費を支援することが、高校進学の条件だった。


 申し訳ないと謝る幸恵に、祖父母は「あの子も孫には違いないから」と言ったが、負担をかけてしまったことには変わりない。社会人となった今は、妹に支払われた養育費を含め、祖父母に仕送りしている。


 さて、両親や妹と暮らすようになって、幸恵は再び搾取される日々を送ることになった。


 祖父母から送金されてくるおこづかいで買ったお菓子や、かつて誕生日にもらったゲームを奪われるのは序の口だった。


 せっかく頑張って授与された表彰状やメダルが取り上げられたのは、さすがにつらかった。


 バイト代は搾取されるので、通帳をわけることで、どうにか対応した。


 文化祭や体育祭に両親が参加することは期待していなかったし、むしろこなくてよかったと清々したくらいだった。代わりに祖父母が見にきてくれたので、いい思い出になった。



 ――目が覚めたのは、幸恵の誕生日の時だった。



 プレゼントなど最初から期待していなかったが、両親の発想は彼女の想像を上回っていた。


 いわく、



「今日、あんたの誕生日でしょ。あんたはお姉ちゃんなんだから、おこづかいからショコちゃんにプレゼントを買ってあげなさい」



 なんでそうなる、と思った。


 同時に、ここにいたらダメだ、と感じた。


 ここにいても、妹を甘やかす人間が増えるだけだ。それでは彼女の教育によくない。事実、すでに妹は姉を自分に都合のいい存在と見なし、増長している。



 ――妹の成長を見守るために帰ってきたはずが、これではただ両親の片棒をかついでいるだけだ。



 そう気がついた幸恵は、すぐさま祖父母に連絡を取った。一度は反対を押し切った彼女を、彼らは温かく迎えてくれた。



「……偉そうなこと言っておいて、けっきょくなにもできなかった。わたしは妹を見捨てたんだわ」


「見捨てるだなんて……高校生にどれだけのことができるんだ? キミはできることをやったじゃないか」


「そりゃ、口では叱ったりしたわよ。でも、わたしが家族に踏みにじられる姿を見せたことで、妹は最低の学習をしてしまった。……それに、話はこれだけじゃない。あの日、妹が決定的に道を踏み外してしまった日、わたしはなにもできなかった。……ううん、違うわね。わたしが、背中を押してしまったのよ」


「え……?」


「わたしが祖父母の家に戻った後、ショコラは小学校に入学した。そこで彼女はいじめられたの。――顔と名前が似合ってない、って言われてね」



 わがまま放題だったショコラは、学校でも同じことをして、周囲から孤立した。


 そして、当時彼女が気になっていた男子生徒から、こう言われたのだという。



「おまえ、『聖恋蘭(ショコラ)』って顔じゃないじゃん。地味だし、似合ってねー」



 その瞬間、教室中がどっと沸いたらしい。


 それがきっかけで、彼女へのイジメが始まった。


 と言うより、ショコラがなにかわがままを言うと、相手が「その名前、似合ってないよ」「地味顔のくせにお姫様のつもり?」などと反論するようになった。



「そうして顔にコンプレックスを抱いたショコラは、やってはいけないことに手を出した……」


「やってはいけないこと?」




「あの子はね――整形したのよ。たった十歳で」


 祖父母が姉妹を両親から引き離せなかった理由は、のちのち本編中にて明かす予定です。

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