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社畜の叫び

 試作です。

 生暖かく見守って上げてください。

 一撃で仕留めるか、それとも真綿で首を絞めるかのようにじわじわと追い詰めるか。

 狩りの方法を大雑把に二分化すると、このようになる。

 獲物によって、狩人によって、武器によって、場所によって、環境によって、天候によって、様々な要因で変わる選択肢だ。

 そして俺は、今回前者を選んだ。

 理由としては、今俺がいるのは暗い森の中で視界の不自由さが目立つ事と、俺には一撃高火力の切り札があるからだ。

 


 前者を選んだとしても、当然一撃で仕留めきれない事だって沢山あるし、後者を選んだとしても、思わぬ反撃で痛手を負う事だってある。

 だからこそ、必要になるのは備える事だ。

 敵についてよく学ぶ。

 自身について把握する。

 最悪の事態を想定する。

 そして、退路を複数用意する。

 


 そして俺は全てを実践している。

 これだけしておけば大体上手くいくし、死ぬことはない。

 多分。

 ………死にたくないなあ。

 あー、娘に会いたいなあ。

 もう2年も会ってないし。

 手紙は毎月届くけどさあ。

 忙し過ぎて読めてないしさあ。

 娘に会う前に死ねないよなあ。

 あああああああもうつかれたああああああ。

 寂しいよおおおおおおおおおおおおおおお。

 何より暗い森がこわいよおおおおおおおお。

 はあ、まあ、これが終わったら王都に行こう。

 もうちょっとだ、頑張ろう。

 


 ………なんか面倒臭くなってきた。

 俺のシリアスモードは何故こうも続かないのか。

 それにしても、『奴』はまだ来ないのかよ。

 いい加減に帰ってこないかなあ。

 


 ………はあ、帰りたい。

 どうして、こんな事になったのか。


 







 

 …………………………。

 ……………………………………。

 ………………………………………………!!!!



 「………………来たか………!」



 俺が思考を停止してから約1時間。

 俺が周囲4kmに張っていた電磁レーダーもどきに、高速飛行物体が引っ掛かった。

 てか本当に早い。

 俺を中心に4km、つまり直径は8kmの大規模なものなのだが、あっという間に俺との距離を2kmまで縮めている。

 ………まあ、この作戦に俺と奴との距離は余り関係ない。

 大事なのは、"あの地点"との距離だ。

 


 俺と"あの地点"との距離は500メートル。

 そして『奴』は間違いなく"あの地点"に降り立つ。

 ならば、そこを狙い撃つ。

 相手は多くの人間を殺してきている。

 躊躇う道理は、微塵もない。

 油断しきっている所を、死んだ事にすら気づかせず消し飛ばす。



 「………………」



 あと、1500メートル。


 

 つ、と頬を汗がつたう。

 『奴』は強力だ。

 一撃で殺せなければ、手痛いしっぺ返しを食らうのは間違いあるまい。

 負ける事はないと思うが、必ず五体満足で帰ってこれる自信はない。

 ………まあ、退路は複数ある。

 殺せればそれで良し。

 殺せなくとも、ダメージを与えられればトドメを刺しに行く。

 何も出来なければ、迷わず撤退。

 方針としてはこんなものか。



 あと、1000メートル。



 『奴』は今の俺から見て、背後から飛んできている。

 そして俺を通り越し、さらに500メートル先の"あの地点"に着陸するだろう。

 だから俺はその一点のみを見つめ続ける。

 他に集中する余裕はない。

 こういうのを、専心と言うのだったか。



 今、俺の上を通り越した。

 あと、500メートル。



 ポケットから、一つの大きめの鉄球を取り出す。

 なんの変哲もない、廃材から作った鉄球だ。

 前世の記憶で言う、弾丸に形を似せている。

 それを右の握り拳の側面に置き、親指で弾き出せるようにする。

 今更外すわけがない。

 この技を使い始めて20年以上経っているのだ。

 ましてや、こんなにも安定した状況下だ。

 


 そして、何時でも魔法を使えるように、魔力を引き出し───


 

 あと、───



 『奴』は、グリフォンは、"あの地点"、自分の巣に飛び降りるかのように着陸し───







 ───スパークと共に、音を置き去る速さで撃ち出す。



 ───0メートル。



 ───着陸したと同時に、体に開いた大穴によって死亡した。



 「………………外すわけがない」









 命名、レールガン………………もどき。

 面倒なのでレールガンと呼んでいる。

 随分前に、前世の記憶から引っ張り出したものだ。

 魔法とはイメージ次第とはいえ、まともに理屈すら知らないものが使えるようになるとは思わなかった。

 


 結果だけ言うと、俺が射出した弾丸によってグリフォンは死亡。

 無事、任務完了というわけだ。

 ………良かった。

 ようやく終わった。

 


 ………………終わったよな?



 グリフォンの巣まで歩き、グリフォンの遺体(のはず)まで近づき、詳しく調べる。

 ………脈は、測り方が分からん。

 えっと、血は無茶苦茶出て、内臓は無茶苦茶。

 ………死んでるよね?

 そっと手で触れて、指輪型のアイテムボックスに………



 ………仕舞えた。

 死んでた!

 良かった!



 ………………なんか馬鹿みたいだな。

 何やってんだか、俺は。



 まあいい。

 そんな事はどうでもいい。

 これでようやく全ての依頼が終わったのだ。

 何故か知らんが、各地から謎の集団のせいで集められた上、王都を中心にバラ撒かれた高ランクの魔物達をはした金で倒さなくてはならない作業もこれで終わりだ!!



 ハッハッハッハッハッハ!!!

 やった!!!

 終わった!!!

 娘に会える!!!



 ………………。

 ………………………これ訴えたら勝てるんじゃないか?

 え、ちょっと待って、これおかしくない?

 いやいや、他の人は普通にお金を貰ってたじゃん。

 え、何で俺だけなの?

 しかも俺だけこの2年間休みなしだし。

 ひょっとして我がギルドではイジメが横行してるの?

 凹むわ………。

 ギルマスったら純真な顔してホンマかいな………。



 うわー今まで忙し過ぎて考えてなかったけど、これはおかしい。

 あれだぜ、一体で騎士団の精鋭達と、つまり人外集団と渡り合うAランクの魔物を30体は倒してるぞ。

 なのに貰った金は最低限の食費。

 え、イジメじゃね?

 いや、気づけよ俺。

 2年間何やってんだ俺。

 豊富な貯金のお陰で助かってるけどさあ。



 あれ、しかも依頼の代金はまあいいとして、素材の代金さえ貰ってない?

 ………。

 ………………まさか、うちのギルドはブラック企業だったのか。

 そんな、俺は前世の経験によってブラック企業を見分ける事が出来るのが密かな自慢だったのに………。

 すごくかわいい上に、純真かつ、料理、掃除、洗濯も完璧なギルマスがブラック経営者だったなんて………。

 


 クソっ! あんな物凄くかわいい顔してこんな………!

 ま、まさか、俺に対してこの2年間、俺のお弁当を作ってくれたり、家の管理をしてくれたり、洗濯をしてくれたり、夜はマッサージをしてくれたり、朝ごはんを作ってテーブルに置いてくれたり、武器防具の手入れをしてくれたり、俺が育てている庭の花や野菜の管理もしてくれたり………etc。

 これら全てが計画の内だったと言うのかぁ!! ギルマスゥ!!



 ………あれ、やっぱりギルマスっていい人?

 あれ?



 ………ま、まあ帰って直接聞こうじゃないの。

 とりあえずアレだ。

 どっかの馬鹿がぶっ放したレールガンのせいで、目を覚ました魔物がこっちに向かってきてる。

 まあ凄い音だったしね。

 そりゃ起きるよね。



 ………さて、逃げるか。

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