3過去
『ねえよかったら今日は皆と遊ばない?』
『ごめんね今日はピアノのお稽古があるから…』
『そっかーお嬢様だもんね』
あたしは友達と遊びたいのに許されない。
生まれた時から“お嬢様”だから―――――
物心ついた時には無駄に期待されていた。
皆親がお金を持っているだけですりよって来て、何の取り柄もないあたしに失望して去っていく。
親が一流シェフに用意させた料理はもう食べたくない。
普通の人、自由に生きる権利を持った人はそんなもの食べてない。
なのにどうして親や兄は家柄に縛られているの?
どうして豪華な物を平気で食べることができるんだろう。
小学生時代、そんなことを考えて歩いていたら
いつの間にか雨が降って来た。
傘を持っていない私は、近くの蕎麦屋で雨宿りをさせてもらうことにした。
『お嬢さん、よかったら店内にどうぞ』
優雅な立ち振舞いの男性コックが店に通してくれた。
定休日と看板に書いてあったから他の客がいない。
『いいんですか定休日なのに?』
『いいんだここは個人店だから』
彼は経営から調理、接客を一人でこなしているという蕎麦屋の店長、健康を害するんじゃないか心配になった。
『あのお水ください!』
『お嬢さん、クロワッサンみたいな頭してるから飲み物はスープパスタでいいかな?』
『ええっお蕎麦は!?』
というか普通の水を頼んだのにどうして麺類になったんだろう
『オヤジ、早急にカルボナーラをくれ!!』
『ここは蕎麦屋だクソボウズ!!』
さっきの優しいお兄さんから態度が一変した。
『驚かせちゃってごめんこれは家の息子だよ』
蕎麦屋の店長は中学生のお兄ちゃんを指さした。
『…どうも』
『こっこんにちは!』
お兄さんにこんな大きな子供がいたなんて…
『仕方ない自分で作るから厨房を貸してくれ』
『材料ないけど』
『大丈夫。持参している。問題ない。』
そういってお兄ちゃんは手早くペペロンチーノを作った。
『食べるか?』
お兄ちゃんがフォークに巻き付けてスパゲッティを差し出してきた。
『まてまてお嬢さんには辛いだろ…てかなんでカルボナーラじゃねえんだよ!』
『そういう気分だったからだ』
対抗意識を燃やしたお兄さん?は蕎麦を作った。
『どっちがうまい?』
『どっちも美味しいです!』
同じ麺類といっても別物なんだからどっちが美味しいと聞かれても困る
比べるならせめて蕎麦とうどんじゃないかな。
『アンタの将来は悪女だ…』
お兄ちゃんが言った
『悪女?』
『子供になんてこと教えてんだ』
あれから雨が止んで、ようやく家に帰った。
二人がいた蕎麦屋にはあれっきり行かなくなった。
――――
最近家の近くに小さなレストランが出来た。
店を開いたのはあのお兄ちゃんだと風の噂で耳にした。
行くかいかないか迷っていたら―――――
『新しく出来たレストランは知っているか?』
『ううん知らないよ?』
とっさに嘘をついてしまった。
『ならいいんだが、最近近くに小さなレストランがオープンしたんだ』
『そっそうなんだ』
丁度行こうとしていた所である。
『あの店には絶対行くな』
『なんで!?』
お兄ちゃんはどうしてそんな事をいうの?そう言いたくても声にならなかった。
兄に言われた事を無視し、オープンから3ヶ月後に彼の店へ足を運んだ。
そして今にいたる―――――