2客人は
「大変おまたせしました当店オススメメニューです」
あれからダッシュで材料を買いに行って、直ぐに料理をした。
お客を待たせてしまった事は申し訳ないのだが、材料が無くては料理を提供出来ないんだから仕方ない。
「うわぁすっごく美味しそう」
実を言うと見た目だけは美味しそうなパスタなんだが残念な事に俺の料理はゲキマズになったらしい。
コンテストで優勝して依頼、自信がついた俺は店を開いたんが、客はまったくこない。
正直作った自分で食べてみても美味い。
という事は気がつかないうちに舌が馬鹿になっていたのか――――
直接不味いと言われたわけではないが、リピーターがいないし一度来たら二度と来ないレベルだ。
他のレストランより俺の料理のほうが美味しい気がするが
客からすれば俺の料理が不味くて気に入らないんだろう。
というわけで最近は胃薬と謝礼金をポケットに用意してから
客がフォークを投げつけるくらい怒り出すのを待つようになった。
「美味しい!」
おかしい、今度こそ幻聴が聞こえた。
「これすごく美味しいです!」
作った自分が言うのも難だがこの少女、舌が馬鹿なんだろうか
結局胃薬と謝礼金には出番がなかった。
一体どうなっているんだ―――――?
あれから彼女は毎日昼食をここで取るようになり
店の唯一のリピーターとなった。
もちろん客は彼女一人である。
欲を言えば友人と一緒に来て貰えたらとは思うが、二兎を狙うものは一兎も獲ず。
これでも一歩前進、満足である。
「あのー迷惑じゃなかったら私とお話しませんか?」
は?何故そうなるんだ?
俺なんかと話してもつまらないだけだぞ?
と喉まで出かかたが、ギリギリひっこめた。
「『はい、私でよければお付きあいしますよお嬢様』」
何を口走っているんだろう俺は
今朝のテレビで流れたCMでそういう感じの事を言っていたからつい言ってしまった。
彼女はどちらかと言うとお嬢様というよりドジっこメイドだ。
現実的に考えて皿を割られたら迷惑じゃないだろうか俺はまったく好きじゃないタイプだ。
暫く会話を楽しんでいると―――――
「「すみませーん」」
店は閉めているのだが、それを気にも止めずに入ろうとしている男女の声が聞こえた。
今日は客が多いな。
「はいいらっしゃ…!」
扉を開き、目の前の女性客に驚愕する。
「!」
同様に少女も男性客を見て焦り始めた。
「何もこんな客足のない店で食べなくても…帰るぞ」
客がいないのは事実なので怒る気にもなれない
「でも…!」
知り合いらしい男は反論を無視して少女の腕を引いて黒塗りの車に乗せた。
「何かしらあれ…」
このセクシーな女性客は俺の母親である。
有名会社の社長で金を持っているので盛大な若作りも可能なので見た目は若いが結構年だ。
もしかすると少女に誤解されている可能性もあるが―――
複雑ではあるが別に困らない。
あの少女は恋人でも何でもないんだから