第七話
二階の奥の宿の一室に案内されると、なかなかに手狭でした。そこにベッドを二つ並べられ、小さなテーブルが一つ。その上には水差しとコップが二つ、それと蝋燭立が乗せられていました。本当は一人部屋なのに無理矢理、二人部屋にされた感じなのですが、掃除とシーツなどの洗濯は綺麗にされてそうなので、贅沢は言えませんよね。
サービスでお湯の入った桶を三つとタオルを四枚持ってきてくれるそうです。トイレは別で一階の奥だって説明されました。もちろんお風呂なんてありません。
後、今晩の食事は、堅いパンと肉や野菜を煮込んだシチューを後で持ってきてくれるらしいです。明日には出るつもりなので、椅子は不要と断ったけど、早まったかもね。
なんでも、普段はもう少し部屋に余裕があるらしいけど、今日は、たまたま混んでいるんだって言っていました。兵士さんが知ったら怒られそうだけど、そこは気にしても仕方ないしね。
二人の装備は、テーブルの下に置いて、僕はぼろぼろの鎧も外すと、開放感を感じながら軽く伸びしちゃいました。
エルヴィーラも靴とズボンを脱いで、かなり大きめだったシャツをワンピースみたいにして開放的かつ刺激的な姿で、奥のベッドに横になって体を休めています。
いや、今までの経緯を考えると気持ちは分かるけどさ……この後の食事や桶の受け取り、僕に任せるつもりでしょう?
すっかり暗くなっているので、蝋燭の明かりだけで照らさせた室内で、ぼんやりしていたら、エルヴィーラが話しかけてきました。
「ねぇ、これからどうするつもりなの?」
あぁ、明日からの予定ね。そっか、半日ぐらいの短い付き合いだけど、道連れだったし、同罪でもあるわけだから気になるよね。売られたりしないかとか、まだ心配しているのかも……さすがに、そんな悪党にはなれないよね。
だから、背中を向けたままでも笑みを浮かべながら、正直に答える事にしました。
「今晩ゆっくり休んだら、明日は、剣や素材なんかを売って、そのお金で新しい装備を買うつもりだよ。服や旅に必要な物も買いたいしね。その後は……時間があったら、冒険者として登録しようかと思っているんだよね」
僕の説明を静かに聞いているけど、背中越しなので顔は見えないのです。でも、気配から動く様子は感じないし、きっと色々と考えているのですよね。
「……そう。なら、私も買い物を一緒にしてもいいかしら?女のダークエルフ一人だと、足元見られる可能性もあるのよ」
あぁ!なるほどなのです。確かにありそうだし、エルヴィーラ、装備ないしね。傭兵するにしても、旅に出るにしても最低限の装備は必要だよ、こんな世界じゃ。
了解の言葉を告げると、安心したような溜息を零すのが聞こえたよ。ここまで縁を結んだんだから、無下にしないのにね。まぁ、美人さんと一緒に買い物なんて、魂でも肉体でも今まで経験ないので、僕も嬉しいってのが本音なのです。
会話が終わると扉をノックされたので、僕が対応。最初に料理が運ばれてきたので、テーブルに乗せると、同じベッドに腰掛けて食べました。
久々のごはんは美味しいです。小さいテーブルなので、エルヴィーラと密着するように座るから、最初はバラみたいな香りするとか、雑念混じって凄く緊張したけど、空腹と人間の手料理に、いつしか夢中になっていました。
食事が終わると、エルヴィーラは、そのまま奥のベッドに戻っていきました。はぁ、また僕に押し付けるんですね。仕方ないと思っても苦笑が零れてしまうのです。
食後、やっぱりする事がなくなったけど、元々、娯楽なんて、そんなにない世界だしね。覚悟はしていました。早寝早起きが基本なんだよね。だから、明日も朝から、店もやっていると思うけど、違ったら外周区画の探索してもいいかも。
明日の予定を考えていると、再度ノックの音がしました。料理のお皿は下げて貰って、水差しには新しい水の補給。そして待っていたお湯の入った桶が4つとタオルが4枚。これで店の人、今晩はもう来ないそうなので、体を綺麗にして寝るだけなのです。
さすがに意識してないけど、疲労は溜まっているだろうしね。なにより、この世界に再誕して初めてのベッドでの睡眠なのです。
さっと乾いたタオルのうち、三枚はテーブルの上に乗せて、手に持っていたお湯に浸けて強めに絞るのです。これで体を綺麗に拭いていって、乾いたタオルで湿気を取るつもりなのです。
エルヴィーラも動き出す気配を背後に感じたけど、僕は床に並べられた桶の一つに、ベッドに座ったまま足を突っ込んで、上着を脱ぎました。男だし、あんまり恥ずかしがってもね。そのままタオルで体を拭いていると、隣に座ったエルヴィーラもお湯に浸けた艶めかしい足を拭き始めています。そりゃ、僕がいたら上半身は拭けないですよね。
「あぁ……久々で気持ちいいわね。昼に水浴びしたけど、それとは別の気持ちよさがあるのよね」
それには同意見なので大きく頷くと、髪も濡れたタオルで思いっきり拭いておくのです。しっかりと頭の汚れを落としていると、衣擦れの音がして、横を見ると全裸になったエルヴィーラがいました。あれ?目の錯覚じゃないよね。
大きな小麦色の膨らみの頂点に、桜色で小ぶりな果実が見えるのですけど、けど。
「……え?」
はい、思考停止状態の僕を気にした様子もなく、体をぬぐい続けるエルヴィーラ。腕が動くたびに、たわわに弾む乳房……って、この健康体が反応していても怒られないよね。そんな僕を見て、小さく悪戯な笑みを浮かべるの辞めてくださいなのですよ。
「別に怒らないし、これ以上を求めても……ちゃんと言ってくれるなら拒まないわよ」
なんて事を!でも、その後、少し説明されたのですが、長く傭兵なんかしていると、一夜の恋なんて経験もあるそうなのです。それに女性にも性欲は存在するし、僕、顔は良くないけど悪くもない普通らしいので問題ないレベルだそうです。
駄目押しに、命を助けたお礼も込みだって言われたら、ねぇ。
こうして蝋燭の弱い明かりが作り出す二人の影は、どちらからともなく重ると、僕にとっては忘れられない夜になっていったのでした。
この後、滅茶苦茶セクロスした!