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ある妙な冒険者の手記  作者: 秋山秋
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第五話

やっと主人公の名前が出てきます。

 うん、落ち着くために状況をまとめようかな。水浴びして休憩していたら逃げてきたダークエルフさんを助けました。


 まったく落ち着けないんですけどね!そのダークエルフさんの質問に、なんて答えていいのか迷って答えられなかったんだよね。何だろうね、僕って。そんなに哲学的な意味合いじゃなくて存在的な意味合いでね。


 別の世界で死んだ魂が、こっちの世界の死体と融合して生まれた者です、なんて説明しても、意味が分からないだろうし、僕も理解できないよ。


 答えに詰まっているとダークエルフさん、溜息を零した後、泉の方に入って体を洗いはじめました。一応、背中を向けてだけどさ、引き締まった小ぶりなお尻がセクシーですね。


 ……って、見ちゃいけない気がして慌てて背中を向けて、男たちの死体を漁るのです。


 肩まで水面に浸かっていくまでは振り向く前に確認したけどさ、その後に聞こえてくる水の跳ねる音の激しさで凄く念入りに洗っているみたい。時折、艶めかしいと思える声すら聞こえるのですけど、何をしているのかは考えないようにしますです。

 

 男たちは身ぐるみ剥いで、死体は茂みの奥に投げ捨てときました。きっと夜には獣のえさになってくれるでしょう。


 比較的に血で汚れていない衣服を一着、後ろ向きにダークエルフさんに近づいて、そっと置いておきました。いや、いつまでも裸だとね、僕が辛いのですよ。


 その後、荷物を漁ってみると、何と金貨をゲットしました。あれれ?もしかして貴族さんですか?そう言えば、一人、装備が立派だった気もします。それに動きも正式な訓練を積んだみたいだったし……まぁ、今更だから考えない。


 後は、剣も立派だし、壊れた長剣(ロングソード)の代わりに貰っておくとして、変な鍵を見つけました。何だろう?半透明な水晶製の鍵みたいだけど、陽光に反射して綺麗なのです。


「あっ!ちょっと。その鍵、貰えないかしら?」


 鍵を眺めているとさ、ダークエルフさんから声が掛かりました。大丈夫かな?とゆっくり振り向くと、下半身を泉に浸かったまま、右手を突き出すダークエルフさんがいました。一応は左腕で大きな胸を隠していたけどさ、逆に柔らかく潰れてたり、谷間が深くなったりして破壊力が凄いんですけど!


「はい。な、投げるから受け取ってくださいね」


 真っ赤になっていると思うけど、冷静に……ちょっと言葉に詰まったけど気にしないで、小さな放物線を描くように鍵を投げ渡すと、ダークエルフさん、受け取った鍵を、首輪の鍵穴に片手で差し込んだんだよね。


 するとビックリ!外れるだけかと思った首輪は、煌めきながら細かい粒子になるように消えていったんだよね。小さく水面に落ちた破片が、更に弾けてね、その中心には癖の全くない腰まである長く、神秘的な赤紫色をした髪をした、褐色の美女なんだよ。我を忘れて見惚れても仕方ないよね。


「ふぅ、これで自由になったわ。本当に、ありがとう」


 ダークエルフさんは、その深紅の瞳を細めて微笑んでくれたのですが、破壊力が凄すぎです。これ以上は危険だと、慌てて背を向けてしまいました。


「あっ!僕、ちょっと焚き火の為の枯れ木を集めるから、服は適当に使ってください」


 これ以上、一緒に居るのは危険だと思って、理由を告げてその場を離れました。いや、これで帰って来た時、僕の装備なくなっていたら仕方ないよね。上半身、裸のままだけど男だし、街も近いし何とかなるでしょう。


 両手いっぱいに乾いた枝を集めて戻ってくると、ダークエルフさん、なぜか僕の半乾きの上着を着て、男たちの衣服を泉で洗っていました。あれ?


「え、えっと……僕はヴァイデ。少し前の帝国と蛮族との戦争で、帝国兵として参加したけど、部隊が全滅して逃げている途中です」


 焚き火の準備をしながら、色々と疑問に思ったけど、今更の自己紹介。だって、会話をどう繋げていいかなんて分からないよ。


「帝国兵だったの?意外というか、納得というか……判断に困るわね」


 洗濯を終えたのか僕が焚き火の準備で枝を並べていると、正面にしゃがんできたダークエルフさんの言葉に、顔を上げたらさ、深い胸の谷間が目に飛び込んできました。いやぁ、窮屈そうですよね。まだ少し服が濡れているから、張りついた布地越しに体のラインが良く分かるんですけど。


後、僕の視線に気付いているでしょ?悪戯な笑みを浮かべて、腕で胸を寄せないでください。ありがとうございます!


「私は、エルヴェーラ。その戦争に蛮族軍の傭兵として参加していたわ」


 おや?実は元々、敵同士だったのですね。でも、今更なんだよね。兵隊は辞めるつもりなのですよね。そこは、ちゃんと笑顔で説明しないとトラブルの元になるそうだからね。


「そうなんですね。でも、僕は兵隊を辞めるつもりだし……戦場で会わなくてよかったと思うべきですよね」


 うん、笑顔で説明できていると思うけど、自信はないかな?


 ダークエルフさん改めエルヴェーラの説明によると、最初は押していたけど、数の暴力で部隊ごと包囲されて、結局捕まったんだってさ。その後も色々とあったみたいだけど……まぁ、女性の捕虜の色々の部分は精神衛生上、深く聞かない事にしました。


 そうそう、エルヴェーラ、精霊魔法――それも火の魔法が得意でね、焚き木に火を点けてくれたのも彼女なんだ。これで衣服が早く乾きますね。


 お礼に干し肉と、森で採取しておいた、そこそこ美味しい草をお裾分けしました。一緒に草巻き干し肉を軽く火で炙って、二人で齧りながらお話し中なんだよね。前世でも経験してないから、内心では凄く緊張してましたです。


 で、さっきの男たち、どこかの地方領主の三男だか四男だかの騎士と従者のトリオで、戦利品として持って帰られる途中に、街が近いから油断していたところを逃げだしたら、偶然、僕と遭遇。


 さっきの戦闘になるんだけどさ、僕、貴族さまを殺しちゃったよ。物品の回収は怖いからしないでおこうと心に決めました。


 逃げるために相手を油断させる事もしていたけど、結局は首輪の鍵は奪えなくて逃げるしかなかったって愚痴も零されました。詳しく説明を聞くとあの首輪、精霊魔法を封じるマジックアイテムだったみたい。それで最大の力を封じられていたんだって。苦労していたみたいです。


 深くは聞かないし、街で奴隷として売られる予定だったのも想像できたけど、それは回避できたみたい安心したように、僕から受け取った干し肉を対面に座って齧って説明してくれたけど、美人はなにしても絵になるって本当なんだね。


 これも何かの縁と、都市まで一緒にって提案もされたけどさ、そこまで信じていいのかな?ちょっと不用心すぎる気がして、何か裏があるんじゃと考えちゃったよ。それが顔に出ていたんだろうね。


「何かするなら、もうされてるし……私の魔法も復活しているけど、安全を優先したいのよ」


 あぁ、考えすぎだったみたいだし、やっぱり顔に出ていたみたいで恥ずかしいのです。確かに一理あるかな。精霊魔法は使うまでに、そこそこ時間が掛かるらしいしね。それまで僕が壁になったりすれば、お互いリスクなしで街までは行けるよね。


 その後まで一緒じゃないだろうけど、まだ追手が来るかもだし、安全を考えて、最悪、僕を囮にして逃げることも出来るだろうしさ。


 都市までここから半日ほどだしね。その間、利用されていても、いっか。隙を見せなければ問題ないだろうしさ、その提案に頷いて了承の意思を伝えたよ。


 こうして少しの休憩の後、僕とエルヴェーラの旅が始まったのです。

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