文字を書くこと。
『群青シリーズ』、序章。
嫌いなこと。
例えば、
出来もしない体育の跳び箱だとか
しつこくつきまとう友達だとか
才能って言葉だとか
大してアタマも良くない癖に偉ぶっては、物に当たったり怒鳴ったりする馬鹿だとか。
転じて、好きなもの。
夕日。
雨。
それから、本。
坂の上から街越しに見る海も
図書室の一角から見下ろす景色も。
そんな気持ちを
刹那刹那の感情を
私はきっと文字に託してる。
ローマ字のキーボードを叩く度に
あるいは
ルーズリーフの上をなぞる度に
私の思いは文字になって
小さな羅列が意味を持つ。
まるで昔の文豪が
自分の世界を紙に写したように。
あるときはあり得ない世界を
あるときは何処かの学校を
あるときは、小さな世界の片隅を
私が欲しかった理想郷を作っては
平面上で踊らせる。
そこに私の嫌いなものは無い。
体育の授業も、
友達じゃない“友達”も、
生まれ持った才能の差も、
思春期反抗期真っ最中な、無意味で無価値な皆々様も。
あるのは私の好きなものばっか。
青と茜の混じった空。
傘を叩く透明な雫。
どこまでも続く群青の海。
登場人物一人一人の物語。
それは私の世界。
私だけの、閉じられた世界。
この鍵はあげない。
開けられたら終わってしまうから。
でも少しだけ見せてあげる。
見て、感じて、憧れて。
私の作った世界なの。
「素敵だね」って笑ってよ。
でも、私は其処の住人じゃない。
私のいる世界は、理不尽だ。
才能と努力は同格じゃなくて
運動嫌いに運動を強いて
友達ぶった知り合いとナカヨクして
今日も“イイコ”な私を脅かしては、ワルイコな彼らが元気に闊歩してる。
こんな世界が一番嫌いだった。
早く逃げ出していきたかった。
「来世に賭ける」って
それ本気で言ってるの?
こうして少女はまた文字を書く。
意味のない羅列に逃避する。
少女の空想世界は何時迄も
彼女一人の終わった世界。
少女はきっと
誰より言葉を信じてた。




