今更手のひら返されても
友人曰く僕は優良物件なのに何で振られるかねぇ。らしい。
いや、そんな事はこっちが聞きたい。優良物件かどうかは知らないけど、一応見た目はそこそこだし成績や運動神経だって良かった。長年の努力の結果騎士として王宮に勤めている。
自分でも悪くはないと思っているのに、昔っから振られてばかりだ。
最初は婚約者だった彼女。家柄もそれなりだったのだけど、それよりも祖父達が親友同士で出来れば子供同士を結婚させようと言う約束。それが色んな事情で巡り巡って僕と彼女とに来たのだ。
無論、実の子だった父さん達の時とは違い孫の代だと婚約とは言葉の綾で、あくまで小さい頃から仲良くして上手く行けばと言うものだったのだけど。当時の僕はそれはそれは純粋に信じ込んじ、ならば彼女を大切にしようと精一杯頑張った。
勿論子供の頃だから喧嘩もしたのだけど、イタズラしたり一方的に悪口を言った事なんかなくて、今思えば刷り込みもあったのだろうけど、純粋に好きだったから好きだよとちゃんと口にして態度にも示していた。
ところが、15歳の時貴方は優しいし誠実なのだけど、やっぱり子供だしつまらないと言って振られたのだ。
言われた日は見習い騎士として大変な時期でもあったが、それでも週1は最低でも時間を作って会いに行っていた時だったか。その時も時間がなくて汗だくで会いに行った僕は呆然と彼女を見つめ、グッと涙を堪えながら本当にダメなのか? と聞いたところ女々しい男ね、気持ち悪いと言われる始末。今までのプレゼントもいいお金になったわと捨て台詞も貰ったんだっけ。
それでも彼女の事が好きだった僕は、心の傷が癒え諦めが付くまでに2年の時を使ってしまった。
それは女々しい事なのかもしれないけど、それだけ彼女が好きだったって事だろうし、次こそはもっと好きになった女性を大切にしようと改めて決意するきっかけになれたから良かったのだけど。
次に好きになった女性は確か娼婦の娘だったっけ。18になったばかりの僕は健気に頑張る彼女を応援したいと、せっせと通いつめたのを覚えている。
ようやく1人前の騎士になれた頃で、自由に出来るお金も増えたから色んなプレゼントを贈ったし、街にデートもお店のオーナーにも話をつけて何度も行った。仲間に馬鹿にされた時は怒りのあまり殴ってしまったんだっけ。普段温厚な僕が怒った事に皆が驚いたが、それだけ本気ならと最終的にはいい酒の肴にされたんだっけか。
で、ある日突然ドロン。
真っ青になったオーナーから事情を聞けば、ある日客として来たその男に惚れ込んだ模様で、僕が送ったプレゼントも1つを除き全て売り払い全部貢いでいたとか。
それに、1度も抱かない僕に不信を抱いていたらしく、自分が汚いからだと蔑んでいたらしい。
彼女が大事だから結婚するまで抱かないけど、僕と結婚してくれないか? とは既に聞いた後だったのに……あの時頷いたのは何故だろう?
色々疑問があったのだけど、オーナーやこちらを気まずそうに見る娼婦達になんの責任もある訳もない。彼女の本当の気持ちを見抜けなかった僕が浅はかだったのだと本心を告げ。なんだかんだ我が儘を聞いてもらったそのお店には未だに見回りのついでに護衛の意味を含めて偶に立ち寄らせて貰っている。
あのお店は本当優良なお店だし、仲間の騎士が戦や血での昂ぶりを収める場合に紹介させて貰ってるくらいだ。
その次は商家の娘だったな。
21になった年、ゴロツキに絡まれていたところを助けたのがきっかけで知り合い、その時は僕からじゃなく彼女から押せ押せだった。
好意を向けられて悪い気はしないものの、やはり誠実に答えないといけないだろうと、好きだと確信するまで待って欲しいと言ったのを覚えている。
で、好きになって告白したら、手に入ったら満足したって振られたんだっけ。
いやー、実は彼女とは途中で途切れず未だに付き合いがあるのだけど、サバサバした彼女は良い飲み友達だ。
ただ、うわばみで僕以外の人間は酔った事を見た事がないと言われるほど強い彼女が、僕と飲むと比較的早く酔っ払い、いつもおぶって帰らなきゃいけなくなる。で、眠ったまましまったなぁ、失敗したなぁといつも寝言を言っているなぁ。
僕でよければ相談のるよって飲みに行っても、いつも同じ展開だし。うーむ、僕じゃぁ頼りにならないかもしれないけど、友達の助けには精一杯なりたいって常々口にしているのに寂しいものだ。
そうそう、別れた後しばらくして突然家に押しかけてきた彼女の半ば強引な誘いで飲みに行く数日前、最初に僕を振った彼女が僕のところに来たんだっけか。
もう思い出す事すら殆どない程過去の人になったのに、他人の僕に何事だろうと要件を聞いてみればやり直せないか? みたいな事を言われたはず。
ピーンと来て、君のご両親には未だにお世話になっているし、お金なら多少ならなんとか出来るよと笑顔で言ったらその場に崩れ落ちて泣き始めたのには正直困った。
最早許嫁でも恋人でもない人に手を貸すのは躊躇したけど、声をかける分には誰でもやっている事なので声だけかけ続けたのだけど、より泣き声が酷くなるんだもんなぁ。
で、明日も仕事だからこれ以上騒がれると迷惑になるからって半ば無理矢理立たせて、同じく無理矢理お金を握らせて、もし本当に困ってるなら話を聞くだけなら出来るからまたおいでって近くの宿に送り届けたんだっけか。
あっ、そう言えば何故か商家の彼女が酒の肴にしたこの話を聞き終えるなりガタガタ震えていたなぁ。まだ暑い位の時期だったのに風邪かと聞いても違うと言うだけだし。うーん、あれも不思議だったな。
その次は男爵家の令嬢で、仕事に打ち込もうと意気込み28を過ぎても所帯を持たない僕を心配した隊長の心遣いだった。
その心遣いは余計なものだった。無論彼女にとって。
そりゃぁもうお見合いの時から凄い凄い。不機嫌に染まった彼女に周りが慌てる事慌てる事。それでもなんとか頑張って話を繋ぎ、とにかく2人で話してみようと2人きりになったところで詳しく話を聞けば、恋人が別にいる模様。
ならばと、両家の人間に隊長が戻ってきたところで僕がなんとか説得を試みた事を今でも思い出せる。
無事説得も成功し、何故か僕が監視役として付きまとう事になったのは予想外だったけど、結果相手の男は純粋な彼女をただ騙していただけで、連れ去ろうとしたところに助けに入れたし結果よければなんとやらって奴だ。
ほんと大事にならなくて済んでホッとしたもんなぁ。
ただ、彼女の落ち込みようは過去の自分を見ているようで、立ち直るまでずっと傍にいてあげたんだっけ。なんとか笑顔を見せてくれるようになったのだけど、気付けば30。予定では可愛いお嫁さんと子供が何人かいるはずだったのだけど、どうしてこうなったのだろう?
ただ、お陰様でと言うのもおかしいが無事出世もしているし蓄えも十分出来た。家だって将来を見越して立派なものを建てたし使用人も5人ほど雇って皆が優秀だ。
その使用人達ですら、早く奥様とお子様の姿を見たいのですが、旦那様の女難はどうにかなりませんか? と話し合ってるらしいし。
気遣いは嬉しいのだけど、精神的ダメージ受けてるからね、それ。
ああ、そう言えば娼婦の娘がつい最近貧民街で衰弱しているのを見つけ、家に連れて帰った時は仲間達も使用人達も経緯を知っているから憤慨していたなぁ。
とは言え、とてもじゃないが見捨てれないじゃないか。拾った以上最後まで責任も見るつもりだし。
話を聞いた限り、僕を捨てて逃げるきっかけになった男にはすぐ捨てられたらしく、かと言って戻れない事は分かりきっていたので今まで貧民街でなんとか生きてきた模様。何度も謝罪されたけど、既に過去の事として処理出来てる上彼女の体を見ればどれだけ苦労してきたかも分かるので、それもすぐ受け入れた。何故かすごく泣かれたけど。
うーん、止めは先日色んな事情で4人が僕の家で鉢合わせる事になったのだけど、……あの雰囲気はなんだと言うのだろう。
いや、流石に考えまい考えまいと避けてきたけど、今更やっぱり本当は好きですとか言わないよな?
折角また好きな人が出来て今度こそって意気込みを入れているのに、勘弁してくれよ。
いかがでしたでしょうか?
補足ですが、コンセプトとして何故か俺様だったり何で最初はと付こうと好きな人を大切にしないようなキャラクターが多いのだろうと思い、ならばそうじゃない主人公で書こう言うものです。
作中でそこそこと言っていますが、実際は街を歩けば男女問わず8割の人間が振り返ってしまう美男子だと思って下さい。能力は万能型ですが、武の方に若干寄ってる感じですね。
性格としては、基本お人好しだけど何を優先するかはきちんとわきまえている性格と伝わっていれば嬉しく思います。勿論優先順位は色んな事情があれど好きになった女性を1番上に置けるタイプです。もし伝わらなかったのであれば、ただただ私の力不足ですすみません。
後、ざまぁ系と言うか、そういう系もちらほらと見かけ楽しく読ませて頂いたのですが、ただ性別が逆なのはないのか? ならば、書いちゃえってなったのもあります。
あ、私ツンデレとかも好きなのであしからずです。あくまでちゃんと彼女を愛し慈しめる男性を書きたかっただけですので。
ではでは、最後にご閲覧頂き誠にありがとうございました。
追記
後日談その1・http://ncode.syosetu.com/n7737bv/