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日比谷公園

メガネを外し黒いジェットヘルメットをかぶると美咲の声がする。

いつもの事だが大まかな情報しか教えられない、守秘義務と言えば聞こえはいいがあえて伏せていると言った方がいいのかもしれない。

美咲の口癖は『先入観を持ってはいけない臨機応変に』だった。

裏稼業の俺らの所に回ってくるようなミッションだ、情報を簡単に流せないのも良く判るし言われた事をただ完遂するのが僕の役割だ。

今回のミッションは令嬢の護衛で期間は2週間、2週間後に成田にて引き渡し。

そして気難しい令嬢を退屈させ無い事と俺の専門外のミッションが含まれていた。

都内では車を使用しての逃走は困難を極める。

一応、治安大国なんて言われている日本だ。

余程の事がない限り昼間から発砲なんて事態にはならない事が予想できる。

地下駐車場から白いカラーリングのベスパGTS 300ieで都内に飛び出した。


日比谷公園に到着すると直ぐにスマートフォンで彼女の所在を確認する。

野外音楽堂の入り口付近で沢山の風船を売っているのが目に入る、何かイベントをしているのかもしれない。

大量の風船を大人買いすると売り子は目を丸くして驚いていたが売り上げが一気に上がり深々と頭を下げていた。

追い詰められたのか彼女の動きは第一花壇と呼ばれている広場で止まっていた。

慌てず急がず広場に向かう、只でさえ大量の風船を持っているので人目を引く。

目の前が開け第一花壇に出ると昼休みは終わっている時間とは言え木陰にはのんびりしているサラリーマンがベンチに腰掛け。

広場では親子連れが遊んでいるのが目に入る、そんな親子連れの子どもが風船を見て駆け寄ってくる。

母親が慌てて制しながら追いかけてきた。

その向こうには2人のダークなスーツ姿の男に腕を掴まれている彼女の姿が見える。

彼女は観念したのか抵抗しようともせずに男の顔を睨みつけている。

その彼女の栗毛色の綺麗な長い髪は無残にも切られていた。

彼女が逃げ回っている間に相手の目をかく乱する為に自分自身で切ったのだろう。

相手は2人、仲間がいるとすれば車で待機しているであろう運転手だ。

風船を持つ手を緩めると無数の色とりどりの風船が青空に舞いだす。

周りの視線が風船に集中する。

俺は彼女に向い走り出し2人の男の首筋に手刀を軽く打ち込む。

映画などで出てくるあれだ。

しかし、実際にあの通りにやれば失神をするかもしれないが頸椎捻挫などを起こし相手に大けがを負わせる事になる。

そんな怪我を負わせる訳にはいかない、例え相手が犯罪者であっても。

それに俺は彼女を襲う組織について何も聞いていない。

男は瞬時に意識を失い芝生の上に崩れ落ちる。

俺は彼女の手を取って平然とした態度で歩きだし広場を後にする。

ほんの一瞬の出来事で周りに居た人々の視線は空に舞い上がった風船に釘づけになり、視線を広場に戻すと男2人が広場の真ん中でスーツを着たままお昼寝をしていた。


第一花壇から大噴水広場にでると彼女が俺の手を振りほどいて俺の顔を怪訝そうに見て立ち尽くして動こうとはしなかった。

当たり前の反応だろう、助けてもらったとは言え彼女は俺の素性を知らないのだから。

噴水から大きな水柱が上がる。

ここは有名なスポットでテレビや雑誌では撮影スポットとして知られ度々メディアに登場する。

それなりに人がいて彼女を拉致しようとしていた男達もこれ以上は騒ぎを起こさないだろう。

万が一、騒ぎを起こせばすぐに通報され表の連中がなだれ込んでくるのが目に見える。

そんな事はどうでも良くなり、移動販売しているアイスクリーム屋に足を向けた。

ソフトクリームを2つ購入して1つを彼女に渡し噴水の淵に腰を掛けてソフトクリームを口にする。

緊張し続けるのは体に良くないし判断を鈍らせる。

彼女は不機嫌そうに俺と少しだけ間を開け座ってソフトクリームを食べ始めた。

食べ終わる頃を見計らって声を掛ける。

「Andiamo.」(行こう)

「あなたは誰?」

出会いがイタリア語だったのでイタリア語で声を掛けると綺麗な日本語が帰ってきた。

「日本語が喋れるのか。俺は皇 八雲だ」

「ヤクモ?」

「ミス美咲に君を守るように言われた」

「そう。それじゃ私の名前も知っているの?」

「リーナだろ」

まだ、表情が硬い。

仕方なくクセ毛の前髪をおろし黒縁のメガネをかけると彼女がハッとした表情になった。

「朝の人だったの、ありがとう。私の父は日本が好きで私にも日本の事を色々と教えてくれたの」

「そうだったのか。それじゃ行こうか」

「ええ」

その時、微かに可愛らしいお腹の虫が鳴く音がした。

腹が減っては、か…… レストラン、定食屋にそば屋。この界隈の食事が出来る所が頭の中を駆け巡っていく。

若い子ならと言う事で公園に程近い大きなМの字が目印のファーストフードに来ていた。

どこかのフレンチかイタリアンも考えたが彼女の今の身なりでは嫌がるだろうと思った。

場所柄かサラリーマンが多い。

彼女を連れてカウンターに向かと彼女は物珍しそうにキョロキョロしている。

「食べたい物を注文して」

「え、ええ」

彼女が戸惑っている。

日本語は喋れるが日本語を読むのは難しいのかもしれないと思い、カウンターの上のシートを指さしながら簡単に説明をする。

外国の人間にとって日本語は難解だ。

英語なんて26文字のアルファベットで全てだが、日本語は漢字仮名交じりでそのうえ片仮名まで入り乱れ表現の仕方も多様で日本人である本人でも誤解を生むことが多々あるし、勘違いをして使っている事もある。

彼女が指をさして注文したのはフィッシュバーガーとイタリアンチキンサンド、それにサラダとアイスティーのセットだった。

ドリンクはアイスキャラメルラテとアイスティーをどちらにするか悩んでいたが食事と一緒だと言う事を考慮してのチョイスなのだろう。

俺はベーコンレタスにチーズバーガー、ポテトにアイスティーのチョイスだった。

食事を済ませ、カウンターに向いホットとアイスキャラメルラテを購入して彼女の前にラテをおく。

ポケットからスマートフォンを取り出し美咲に『確保』と簡潔なメールを送信する。

すると直ぐに着信を告げる。

美咲が返信をしてくるような事は非常時以外にあり得ない、スマートフォンには菜々海の文字が浮かんでいた。

『今日から試験勉強で可奈の家に泊まるから』

『追伸、独りでもちゃんとご飯食べなさい』

俺の方から菜々海に頼もうと思っていたので手間が省けたし、要らない言い訳を考えずに済みそうだ。

彼女の方を見ると美味しそうにキャラメルラテを飲んでいる。

とりあえず彼女の髪の毛を何とかして着替えを買うのが先決だ。

美容室に洋服となると近場の銀座や有楽町ではなく反対方面が良いだろう。

この界隈では彼女を探しているに違いない。

ファーストフードを出てベスパが置いてある日比谷公園脇の歩道に向かう。

シート下からヘルメットを取り出し彼女に渡し、タンデムステップを引き出す。

俺がシートに座ると躊躇いもなく後ろに乗ってきた。

美咲が言っていた気難しい女の子とはイメージがかけ離れている。

何処かの令嬢には違いないのだがとても素直な感じを受ける。

世間一般的な事は疎そうだがそれはハンバーガーを食べている時に気が付いた。

ファーストフードで不思議な顔をして何かを探している。

仕方なく俺はバーガーに被りつくと彼女も恐る恐る小さな口を大きく開いてバーガーに噛り付いた。

ファーストフードなんて来た事がないのだろうと言う事が想像できる。

それならば菜々海に散々連れ回された渋谷や原宿&表参道なんかが喜ぶかもしれないと思いベスパを走らせた。



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