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貧乏男爵令嬢に転生した私が、元ギャルの幼馴染の現代用語を解説したら、第二王子が暴走し始めました

貧乏男爵令嬢に転生した私が、元ギャルの幼馴染の現代用語を解説したら、第二王子が暴走し始めました ~チャッピー男爵の誕生~

作者: 豆柴の旅々
掲載日:2026/11/01

 私の名前は、フローリア・ベルネット。


 貧乏男爵家の令嬢だ。


 ただし、一つだけ秘密がある。


 私は、前世の日本で暮らしていた記憶を持っている。


 そして、どういうわけか。


 前世の幼馴染まで、この世界に転生していた。


 現在の名前は、カトリーナ・グランヴェール。


 名門侯爵家の令嬢で、第二王子ラインハルト殿下の婚約者である。


 前世のカトリーナは、いわゆるギャルだった。


 勉強嫌いで、自由奔放。


 そして、その性格は転生してもまったく変わっていない。


 問題は、前世の言葉を平然と使うことだ。


 この世界には、スマホもインターネットも存在しない。


 当然、現代日本の言葉など通じるはずがない。


 それなのに、カトリーナは意味を尋ねられると、決まってこう言う。


「えー、フローリアなら分かるっしょ!」


 ……分かるよ。


 分かるけど!


 どうして私が説明しなきゃいけないの!?


 しかも、ラインハルト殿下は、とても真面目な方だった。


 私が苦し紛れに説明すると、なぜか真剣に受け止めてしまう。


 先日も、カトリーナが殿下を「社畜」と呼んだことで、大騒動になった。


 私が名誉ある称号だと説明した結果、現在、王宮では大勢の文官たちが立派な社畜を目指して働いている。


 ……この国、本当に大丈夫なのかしら。


 そんなある日のこと。


 私は、またしても王宮へ呼び出された。


 理由は、もちろん。


 カトリーナである。


 ◇ ◇ ◇


 王宮の執務室。


 今日も大きな机には、書類が山のように積まれていた。


 その向こうでは、ラインハルト殿下が真剣な表情で仕事をしている。


 一方。


 豪華なソファには、カトリーナが寝そべっていた。


「フローリア、やっほー!」


 ……やっほー、じゃない。


 あなた、王子の婚約者でしょう。


 もう少し令嬢らしくできないの?


「すまないな、フローリア。また呼び出してしまって。」


「いえ、殿下。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「実は、カトリーナが……。」


「あー、もう! マジめんどくさい!」


 殿下の言葉を遮って、カトリーナが声を上げた。


「LINEがあればさ、わざわざフローリアに来てもらう必要ないんだけどね!」


 ……えっ?


 今、何て言った?


「……ライン?」


 殿下が顔を上げた。


「カトリーナ。そのラインとは何だ?」


「え? LINEはLINEじゃん!」


「……それでは分からないだろう。」


「えー、フローリアなら分かるっしょ!」


 ……来た。


 いつもの丸投げである。


「フローリア。君は、そのラインというものを知っているのか?」


「えっ? 私ですか?」


「ああ。カトリーナは、君なら分かると言っている。」


「…………。」


 ……知っています。


 もちろん、知っていますとも。


 でも、この世界にスマホなんて存在しないでしょう!


 どう説明すればいいの!?


「……コホン。」


 私は小さく咳払いをした。


「確か……ものすごく足の速い飛脚に、ラインさんという方がいると聞いたことがあるような……。」


「……飛脚?」


「は、はい。遠く離れた場所にも、あっという間に手紙を届けてくださるそうです。」


「何と! それほど足が速いのか!」


「え、ええ……。」


「では、王都から辺境まで、どれほどかかるのだ?」


「そ、それは……。」


 ……知らないよ!


 そもそも人間じゃないんだから!


「おそらく、ほんの一瞬かと……。」


「一瞬!?」


 殿下が勢いよく立ち上がった。


「それは人間の速さではないぞ! まさか、転移魔法の使い手なのか!?」


「そ、そうかもしれません……。」


「何と! それほどの人物が、飛脚をしているとは!」


 ……何でそうなるの!?


「えー、マジ?」


 カトリーナが目を輝かせた。


「こっちのLINE、魔法使えるんだ! 超便利じゃん!」


 ……あなたの知ってるLINEも違うから!


「素晴らしい! ぜひ王宮の通信業務にも協力してもらいたいものだ!」


 ……やめて!


 架空の飛脚を国家事業にしないで!


「それよりさぁ。」


 カトリーナは、またソファに寝転がった。


「ラインハルト、まだ仕事終わんないの?」


「当たり前だ!」


 殿下が堂々と胸を張った。


「私は、立派な社畜を目指しているのだからな!」


 ……まだ言ってる。


「ほんとマジ、社畜の鑑じゃん!」


「ははは! そんなに褒められると、照れるではないか!」


 ……褒めてないと思います。


 いえ、カトリーナの場合は褒めているつもりなのかもしれないけれど。


「でもさぁ、そんな仕事、AIにやらせればいいじゃん?」


 ……ぶっ!


 私は危うく吹き出しそうになった。


 今度はAI!?


「……えーあい?」


 案の定、殿下が首を傾げた。


「カトリーナ。そのエーアイとは何だ?」


「え? AIはAIじゃん!」


「……だから、それでは分からないのだが。」


「ほら、チャッピー的な?」


「……ちゃっぴー?」


 殿下の眉間に皺が寄った。


「それは、何だ?」


「えー、フローリアなら分かるっしょ!」


 ……やっぱり!


 絶対にそう言うと思った!


「フローリア。君は、そのチャッピーというものを知っているのか?」


「…………。」


 ……知っています。


 ものすごく知っています。


 前世では、私も勉強の相談をしたことがある。


 でも、どう説明すればいいの!?


 何でも相談できる、ものすごく物知りな人工知能です?


 人工知能って何だと聞かれたら?


 人間が作った、考える機械です?


 機械って何だと聞かれたら?


 ……終わらない!


「……コホン。」


 私は、もう一度咳払いをした。


「確か……チャッピー男爵という、大変物知りな方がいらっしゃると聞いたことがあるような……。」


「……男爵?」


 殿下が身を乗り出した。


「はい。あらゆる分野に精通しており、どのような相談にも的確な助言をくださる、大変博識な方だとか……。」


「何と!」


 殿下の目が輝いた。


「そのような素晴らしい貴族がいたとは!」


「え、ええ。噂で聞いただけですが……。」


「それはぜひ、お会いしてみたいものだ!」


 ……えっ?


「チャッピー男爵は、どちらにお住まいなのだ?」


「えっ!?」


 ……住所!?


 そんなもの、あるわけないでしょう!


「そ、その……かなり遠くの辺境にいらっしゃると聞いたような……。」


「なるほど! 辺境に隠れ住む賢者というわけか!」


 ……賢者!?


「素晴らしい! そのような方が王国にいらっしゃるとは、実に心強い!」


「は、はあ……。」


「よし!」


 殿下が勢いよく立ち上がった。


「早速、部下に命じてチャッピー男爵を探してもらおう!」


「お待ちください、殿下!」


「どうした、フローリア?」


「い、いえ! その、チャッピー男爵は大変お忙しい方だそうで……!」


「もちろんだ! それほど博識な方ならば、各地から相談が寄せられているに違いない!」


 ……ダメだ。


 完全に逆効果だ。


「カトリーナ! 君もチャッピー男爵に会ってみたいだろう?」


「えー、マジ? リアルチャッピー? 超ウケるんだけど!」


「ははは! 楽しみにしていてくれ!」


 ……お願い。


 これ以上、話を大きくしないで!


 そのとき。


 コンコン。


 扉が叩かれた。


「殿下。お呼びでしょうか。」


 入ってきたのは、殿下の側近だった。


「ちょうどよいところに来た!」


 殿下が嬉しそうに手招きした。


「実は、王国内に大変博識な男爵がいるそうなのだ!」


「……男爵、でございますか?」


「ああ! その名も、チャッピー男爵!」


「……チャッピー男爵?」


 側近が不思議そうに首を傾げた。


 ……当然です。


 私が今、適当に考えた名前ですから!


「聞いたことがないか?」


「申し訳ございません。存じ上げません。」


「そうか。だが、辺境に隠れ住む賢者だそうだ。知られていないのも無理はない!」


 ……違います。


 隠れ住んでいるわけではありません。


 そもそも、いないんです!


「よし! 王国中の貴族名簿を調べ、チャッピー男爵を探し出すのだ!」


「はっ!」


 側近が勢いよく頭を下げた。


 ……えっ?


 ちょっと待って。


「殿下! そこまでなさらなくても!」


「何を言う、フローリア! これほど博識な人物を埋もれさせておくわけにはいかん!」


「い、いえ! その方は、人前に出ることを好まないと聞いておりますので……!」


「なるほど! 名声を求めぬ、真の賢者というわけか!」


 ……違います!


 そもそも存在しないんです!


 すると、側近が申し訳なさそうに口を開いた。


「殿下。一つ、確認させていただいてもよろしいでしょうか?」


「何だ?」


「もし、貴族名簿に該当する男爵が見つからなかった場合は、いかがいたしましょう?」


 ……そう!


 そうです!


 その場合は、諦めてください!


「ふむ……。」


 殿下が腕を組んだ。


「その場合は、爵位を隠している可能性もあるな!」


 ……えっ?


「平民の賢者まで調査範囲を広げるのだ!」


「承知いたしました!」


 ……違う!


 捜索範囲を広げないで!


「必要ならば、各地の領主にも協力を要請しよう!」


「はっ! 直ちに手配いたします!」


 側近が足早に部屋を出ていった。


 ……ああ。


 もう止まらない。


「やば! リアルチャッピーに会えるじゃん!」


 カトリーナが楽しそうに笑っている。


 ……会えないから!


 絶対に会えないから!


「フローリア!」


「は、はい!」


「君のおかげで、また素晴らしい人物を知ることができた! 本当に感謝している!」


「い、いえ……。」


「これからも、分からないことがあれば君に相談してよいだろうか?」


「えっ?」


 ……またですか!?


「フローリアなら分かるっしょ!」


 カトリーナが満面の笑みで言った。


 ……あなたは少し黙ってて!


「頼りにしているぞ、フローリア!」


 ラインハルト殿下も、爽やかな笑顔を向けてくる。


「…………。」


 ……どうしてこうなったのだろう。


 私は、ただの貧乏男爵令嬢なのに。


 前世の言葉を適当に説明しただけなのに。


 今度は、王国中で架空の男爵を探すことになってしまった。


「よし! チャッピー男爵を探すため、早速、捜索隊を編成するぞ!」


「はっ!」


 側近の返事が、廊下から聞こえてきた。


「フローリア! 安心してくれ! チャッピー男爵は、必ず見つけ出してみせる!」


「りょ!」


 カトリーナが親指を立てた。


 ……いや。


 いないんだってば!


 そんな男爵、どこにもいないんだってば!


 探すなぁぁぁぁぁぁー!!


 ――おしまい――

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


フローリアたちの勘違いだらけの騒動を楽しんでいただけましたら、とても嬉しいです。


本作は『元ギャルの幼馴染』シリーズの第二作です。


第一作では、カトリーナの「社畜」という一言から、とんでもない騒動が巻き起こります。こちらも独立した短編として楽しめますので、よろしければぜひお読みください!


また、ほかにも異世界恋愛やファンタジーなど、さまざまな短編シリーズや長編作品を執筆しています。


気に入っていただけましたら、ほかの作品ものぞいてみてください。


面白かったと思っていただけましたら、評価やブックマークで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります。


これからも、どうぞよろしくお願いいたします!

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