貧乏男爵令嬢に転生した私が、元ギャルの幼馴染の現代用語を解説したら、第二王子が暴走し始めました
貧乏男爵令嬢に転生した私が、元ギャルの幼馴染の現代用語を解説したら、第二王子が暴走し始めました ~チャッピー男爵の誕生~
私の名前は、フローリア・ベルネット。
貧乏男爵家の令嬢だ。
ただし、一つだけ秘密がある。
私は、前世の日本で暮らしていた記憶を持っている。
そして、どういうわけか。
前世の幼馴染まで、この世界に転生していた。
現在の名前は、カトリーナ・グランヴェール。
名門侯爵家の令嬢で、第二王子ラインハルト殿下の婚約者である。
前世のカトリーナは、いわゆるギャルだった。
勉強嫌いで、自由奔放。
そして、その性格は転生してもまったく変わっていない。
問題は、前世の言葉を平然と使うことだ。
この世界には、スマホもインターネットも存在しない。
当然、現代日本の言葉など通じるはずがない。
それなのに、カトリーナは意味を尋ねられると、決まってこう言う。
「えー、フローリアなら分かるっしょ!」
……分かるよ。
分かるけど!
どうして私が説明しなきゃいけないの!?
しかも、ラインハルト殿下は、とても真面目な方だった。
私が苦し紛れに説明すると、なぜか真剣に受け止めてしまう。
先日も、カトリーナが殿下を「社畜」と呼んだことで、大騒動になった。
私が名誉ある称号だと説明した結果、現在、王宮では大勢の文官たちが立派な社畜を目指して働いている。
……この国、本当に大丈夫なのかしら。
そんなある日のこと。
私は、またしても王宮へ呼び出された。
理由は、もちろん。
カトリーナである。
◇ ◇ ◇
王宮の執務室。
今日も大きな机には、書類が山のように積まれていた。
その向こうでは、ラインハルト殿下が真剣な表情で仕事をしている。
一方。
豪華なソファには、カトリーナが寝そべっていた。
「フローリア、やっほー!」
……やっほー、じゃない。
あなた、王子の婚約者でしょう。
もう少し令嬢らしくできないの?
「すまないな、フローリア。また呼び出してしまって。」
「いえ、殿下。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「実は、カトリーナが……。」
「あー、もう! マジめんどくさい!」
殿下の言葉を遮って、カトリーナが声を上げた。
「LINEがあればさ、わざわざフローリアに来てもらう必要ないんだけどね!」
……えっ?
今、何て言った?
「……ライン?」
殿下が顔を上げた。
「カトリーナ。そのラインとは何だ?」
「え? LINEはLINEじゃん!」
「……それでは分からないだろう。」
「えー、フローリアなら分かるっしょ!」
……来た。
いつもの丸投げである。
「フローリア。君は、そのラインというものを知っているのか?」
「えっ? 私ですか?」
「ああ。カトリーナは、君なら分かると言っている。」
「…………。」
……知っています。
もちろん、知っていますとも。
でも、この世界にスマホなんて存在しないでしょう!
どう説明すればいいの!?
「……コホン。」
私は小さく咳払いをした。
「確か……ものすごく足の速い飛脚に、ラインさんという方がいると聞いたことがあるような……。」
「……飛脚?」
「は、はい。遠く離れた場所にも、あっという間に手紙を届けてくださるそうです。」
「何と! それほど足が速いのか!」
「え、ええ……。」
「では、王都から辺境まで、どれほどかかるのだ?」
「そ、それは……。」
……知らないよ!
そもそも人間じゃないんだから!
「おそらく、ほんの一瞬かと……。」
「一瞬!?」
殿下が勢いよく立ち上がった。
「それは人間の速さではないぞ! まさか、転移魔法の使い手なのか!?」
「そ、そうかもしれません……。」
「何と! それほどの人物が、飛脚をしているとは!」
……何でそうなるの!?
「えー、マジ?」
カトリーナが目を輝かせた。
「こっちのLINE、魔法使えるんだ! 超便利じゃん!」
……あなたの知ってるLINEも違うから!
「素晴らしい! ぜひ王宮の通信業務にも協力してもらいたいものだ!」
……やめて!
架空の飛脚を国家事業にしないで!
「それよりさぁ。」
カトリーナは、またソファに寝転がった。
「ラインハルト、まだ仕事終わんないの?」
「当たり前だ!」
殿下が堂々と胸を張った。
「私は、立派な社畜を目指しているのだからな!」
……まだ言ってる。
「ほんとマジ、社畜の鑑じゃん!」
「ははは! そんなに褒められると、照れるではないか!」
……褒めてないと思います。
いえ、カトリーナの場合は褒めているつもりなのかもしれないけれど。
「でもさぁ、そんな仕事、AIにやらせればいいじゃん?」
……ぶっ!
私は危うく吹き出しそうになった。
今度はAI!?
「……えーあい?」
案の定、殿下が首を傾げた。
「カトリーナ。そのエーアイとは何だ?」
「え? AIはAIじゃん!」
「……だから、それでは分からないのだが。」
「ほら、チャッピー的な?」
「……ちゃっぴー?」
殿下の眉間に皺が寄った。
「それは、何だ?」
「えー、フローリアなら分かるっしょ!」
……やっぱり!
絶対にそう言うと思った!
「フローリア。君は、そのチャッピーというものを知っているのか?」
「…………。」
……知っています。
ものすごく知っています。
前世では、私も勉強の相談をしたことがある。
でも、どう説明すればいいの!?
何でも相談できる、ものすごく物知りな人工知能です?
人工知能って何だと聞かれたら?
人間が作った、考える機械です?
機械って何だと聞かれたら?
……終わらない!
「……コホン。」
私は、もう一度咳払いをした。
「確か……チャッピー男爵という、大変物知りな方がいらっしゃると聞いたことがあるような……。」
「……男爵?」
殿下が身を乗り出した。
「はい。あらゆる分野に精通しており、どのような相談にも的確な助言をくださる、大変博識な方だとか……。」
「何と!」
殿下の目が輝いた。
「そのような素晴らしい貴族がいたとは!」
「え、ええ。噂で聞いただけですが……。」
「それはぜひ、お会いしてみたいものだ!」
……えっ?
「チャッピー男爵は、どちらにお住まいなのだ?」
「えっ!?」
……住所!?
そんなもの、あるわけないでしょう!
「そ、その……かなり遠くの辺境にいらっしゃると聞いたような……。」
「なるほど! 辺境に隠れ住む賢者というわけか!」
……賢者!?
「素晴らしい! そのような方が王国にいらっしゃるとは、実に心強い!」
「は、はあ……。」
「よし!」
殿下が勢いよく立ち上がった。
「早速、部下に命じてチャッピー男爵を探してもらおう!」
「お待ちください、殿下!」
「どうした、フローリア?」
「い、いえ! その、チャッピー男爵は大変お忙しい方だそうで……!」
「もちろんだ! それほど博識な方ならば、各地から相談が寄せられているに違いない!」
……ダメだ。
完全に逆効果だ。
「カトリーナ! 君もチャッピー男爵に会ってみたいだろう?」
「えー、マジ? リアルチャッピー? 超ウケるんだけど!」
「ははは! 楽しみにしていてくれ!」
……お願い。
これ以上、話を大きくしないで!
そのとき。
コンコン。
扉が叩かれた。
「殿下。お呼びでしょうか。」
入ってきたのは、殿下の側近だった。
「ちょうどよいところに来た!」
殿下が嬉しそうに手招きした。
「実は、王国内に大変博識な男爵がいるそうなのだ!」
「……男爵、でございますか?」
「ああ! その名も、チャッピー男爵!」
「……チャッピー男爵?」
側近が不思議そうに首を傾げた。
……当然です。
私が今、適当に考えた名前ですから!
「聞いたことがないか?」
「申し訳ございません。存じ上げません。」
「そうか。だが、辺境に隠れ住む賢者だそうだ。知られていないのも無理はない!」
……違います。
隠れ住んでいるわけではありません。
そもそも、いないんです!
「よし! 王国中の貴族名簿を調べ、チャッピー男爵を探し出すのだ!」
「はっ!」
側近が勢いよく頭を下げた。
……えっ?
ちょっと待って。
「殿下! そこまでなさらなくても!」
「何を言う、フローリア! これほど博識な人物を埋もれさせておくわけにはいかん!」
「い、いえ! その方は、人前に出ることを好まないと聞いておりますので……!」
「なるほど! 名声を求めぬ、真の賢者というわけか!」
……違います!
そもそも存在しないんです!
すると、側近が申し訳なさそうに口を開いた。
「殿下。一つ、確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「もし、貴族名簿に該当する男爵が見つからなかった場合は、いかがいたしましょう?」
……そう!
そうです!
その場合は、諦めてください!
「ふむ……。」
殿下が腕を組んだ。
「その場合は、爵位を隠している可能性もあるな!」
……えっ?
「平民の賢者まで調査範囲を広げるのだ!」
「承知いたしました!」
……違う!
捜索範囲を広げないで!
「必要ならば、各地の領主にも協力を要請しよう!」
「はっ! 直ちに手配いたします!」
側近が足早に部屋を出ていった。
……ああ。
もう止まらない。
「やば! リアルチャッピーに会えるじゃん!」
カトリーナが楽しそうに笑っている。
……会えないから!
絶対に会えないから!
「フローリア!」
「は、はい!」
「君のおかげで、また素晴らしい人物を知ることができた! 本当に感謝している!」
「い、いえ……。」
「これからも、分からないことがあれば君に相談してよいだろうか?」
「えっ?」
……またですか!?
「フローリアなら分かるっしょ!」
カトリーナが満面の笑みで言った。
……あなたは少し黙ってて!
「頼りにしているぞ、フローリア!」
ラインハルト殿下も、爽やかな笑顔を向けてくる。
「…………。」
……どうしてこうなったのだろう。
私は、ただの貧乏男爵令嬢なのに。
前世の言葉を適当に説明しただけなのに。
今度は、王国中で架空の男爵を探すことになってしまった。
「よし! チャッピー男爵を探すため、早速、捜索隊を編成するぞ!」
「はっ!」
側近の返事が、廊下から聞こえてきた。
「フローリア! 安心してくれ! チャッピー男爵は、必ず見つけ出してみせる!」
「りょ!」
カトリーナが親指を立てた。
……いや。
いないんだってば!
そんな男爵、どこにもいないんだってば!
探すなぁぁぁぁぁぁー!!
――おしまい――
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
フローリアたちの勘違いだらけの騒動を楽しんでいただけましたら、とても嬉しいです。
本作は『元ギャルの幼馴染』シリーズの第二作です。
第一作では、カトリーナの「社畜」という一言から、とんでもない騒動が巻き起こります。こちらも独立した短編として楽しめますので、よろしければぜひお読みください!
また、ほかにも異世界恋愛やファンタジーなど、さまざまな短編シリーズや長編作品を執筆しています。
気に入っていただけましたら、ほかの作品ものぞいてみてください。
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これからも、どうぞよろしくお願いいたします!




