欲しがり義妹蕎麦
「欲しーの。欲しーの。お客様、欲しーの!」
散歩をしていたら、白人の幼女が叫んでいた。ピアノの発表会で幼女が着るようなドレスの装いだ。
何だ。ここは・・・ソバ屋の前だ。
「あっ、お客様なのん♪」
「おい、手を引くなよ」
強引に店内に入れられた。
ここは、老店主が引退して空き店舗になった蕎麦屋だ。
「一日10杯限定のエビ天がお薦めなのん♪」
「いらないよ。帰る・・・」
帰ろうとしたら見上げて青い目をウルウルしている・・・
「頑張って作ったのに・・・」
「分かった。分かった。エビ天をもらおう・・」
俺はこう見えてもソバ通だ。
まあ、早く食べて帰ろう・・・
と思ったが。
「う、美味い!」
何だ。この腰のあるソバに、崩れない衣のエビ天、しかも、汁が絶品だ。
「店主、鰹の香りがほのかに出ている・・・」
「えへん!」
胸を張って誇らしげにしている・・・
「1280円なの~」
「はい、どうぞ」
気に入ったので毎日来るようになった。
お客さんも大勢来るようになった。
そんな中、また、新しいソバ屋が開業した話を聞いた。
「え、ヒロインソバ?」
「そうなのよね。変わった名よね。外国人の中世ラブロマンス風の10代かな。やっているよ」
行くとガラス張りのショーウィンドウで、令嬢がソバを打っていた・・・
「らっしゃいませ~!」
「ソバを・・・かき揚げソバを一つ」
「毎度ありですわ」
これは美味しいのだろう。と思ったが・・・
「お客様、如何ですか?」
「ええ・・・」
一言で言えば不味い。
どう言えばいいのか?
「まあ・・普通かな」
すると、令嬢は泣き出した。
「グスン、グスン、お客様がリピーターになりません。皆様、苦笑いをして出ていきます。このままでは義妹に家を乗っ取られます・・・」
話はこうだ。
父親が義妹を溺愛して爵位を継がせようとしている。
ならばと異世界に行き。チートを見せろと言われたそうだ。
「この世界は文明が遅れていますわ。やたら無駄な交通手段、エネルギーの損耗が大きすぎますわ。
庶民でも出来る事を魔道具に頼っています。ですから、総領娘ならチートを簡単に披露出来るはず・・・」
父は言いました。
『ソバという野蛮な料理で勝負しろ』
「そうか・・・実は不味い。すまん!腰がない。汁も市販の物が美味いと感じる・・・」
そして、俺は経営コンサルタントみたいなことを始めた。
「いいか?手打ちにこだわるな。業者から買え」
「はい・・・でも、いくら野蛮人相手でもそれは不誠実だと思いますわ・・・」
「いいから、ラーメン屋だってほとんど麺は外の業者だ」
汁も自家製だったが・・・・
「何を見て作っているの?」
「美味しんぼですわ・・」
「素人にはハードルが高すぎる。買え」
「はい・・・ですわ。では私は何をすればよろしいのですか?」
「天ぷらだ。これが勝負だ」
「はい・・・」
かき揚げ、エビ天の特訓を始めた。
それは母にお願いした。
「まあ、聡、外国人のお嫁さん?」
「母さん。ややこしくなるから、彼女に天ぷらを教えてくれ」
彼女は一生懸命に頑張った。
町内会の面々も好意的だ。
「リターンさんか。よし、協力してやろう」
「外人の綺麗な姉ちゃんがいたら町おこしになるぞ!」
そして、遂に彼女の天ぷらはカラッと仕上がり。
「「「美味い!」」」
となったが、ソバに乗せると・・・
「・・・・何だかな」
「単品で食うと美味いのに」
別の皿で出してお客様が自由に出来るようにしたが・・・
「いらっしゃいませなのん♪」
「「「美味い!美味い!美味い!」」」
義妹の方に客足が遠く及ばない。
何故だ?
義妹の方がムラがない。毎日同じ味だ。
ソバ屋って日によって出来の良い悪いがある。ラーメン屋だって同じだ。
俺は毎日通った。毎日ソバばかりだ。義姉妹のソバばかり食べて健康的になった。
主食がソバのようだ。
そうだ。スーパーに行こう。この時間は半額セールになっているだろう。
近所の上げ底という名のスーパーに行った。
「たまには肉を食いたいな・・・」
選んでいたら、蛍の歌が流れてきた。もう閉店時間間際か・・・
その時、まるで隠れるようにほおかむりをかけた幼女が店内に入ってきた。義妹だ。
悪いと思ったが跡をつけた。
店長がもみ手で幼女に愛想笑いをしていた。上げ底さんだ。
「上げ底しゃん。いつもの~欲しーの、欲しーの!」
「はい、メリー様、用意しております」
店長の上げ底さん。直々の対応だ・・・
「エビ天50に、かき揚げ50,それと冷凍ソバ100と生ソバ100ですね。明日の朝、届けさせますが・・・わざわざ来られなくても・・・」
「品質なのん♪ここの天ぷらは衣が厚くて身が薄くてソバに最適なのん♪
変にやる気になって美味しくされてはたまらないのん♪」
「メリー様も悪ですね」
「グシシシシなのん♪」
店長と義妹の会話を聞いてしまった。
早朝、ゴミ出しの時間に、
幼女は、周りをキョロキョロして業務用ゴミ箱に多量の冷凍ソバと生ソバの袋を捨てて・・・
「おっちら、おっちらなのん♪」
リヤカーに何かを載せて・・・近所の釣り堀に向かった。
「冷凍ソバなのん♪」
「はいよ。砕いて魚の餌にするよ。助かっているよ」
「どうもなのん♪」
「しかし、悪ですな。冷凍ソバの汁に、麺は生ソバを出しているなんて・・」
「これが一番美味しいのん♪」
幼女の悪巧みを聞いてしまった・・・
俺は姉の方に行き。全てを話した。
「まあ、メリー、前から要領だけは良いと思ったのに・・・許せないわ。あなた。写真とやらを撮ってきて下さいませ。アップをしますわ」
いや、しかし、悪い事をしたのだろうか?
こちらも麺と汁は業者から買っている。
企業のスパイまでは良い。
そしたら、真似るべきだ。良い方に・・・
「あの、天ぷらを改良しましょう。衣は厚く身は薄く。そうしたらソバに合うでしょう」
「ダメですわ!あの子はざまぁされるべきですわ!」
「正当に戦ってざまぁを、君の力でやるべきだ!」
その時、男が入って来た。これも中世ラブロマンス風の男だ。
「ソシリア、頑張っているね。でも、もう大丈夫だよ。僕が総領娘は君だと訴えたよ」
「まあ、マキシム様・・・」
何か手を取り合ってキャハウフフフしている。
俺は去った。
彼女にとってソバ屋は家を継ぐ手段だったようだ。
俺はヒーローになれなかった。静かに去った。
その後・・・
「欲しがり義妹ソバ、って店名になったのよ・・・」
「あ、そう・・・」
町内会の支持を取り付けて・・・幼女であることを考慮して土日のみの営業になった。
レシピの公開を頑なに拒否している。当然だな。
そして、現在もあの幼女は営業している。
「いらっしゃいませなのん♪」
最後までお読み頂き有難うございました。




