この世界で何ができるのか ~曲者公爵に拾われて溺愛ののち、暖かな家族が出来ました ~
読んでいただきありがとうございます。
「ところで、どうしてお前は、道の真ん中に倒れていたんだ」
「んー。わかりません、そしてここは何処ですか?」
「俺が質問している」
「わからないと答えました」
「それにその服はなんだ、どこの国の服なんだ」
「それよりも、そこにあるクッションを、お借りすることはできますか?」
正面に座る、大柄な中世騎士みたいな格好をした男性が、シートの隅にあるクッションに眼を向ける。
「これか?」
ぶっきらぼうなのに、優しいのよね。
「はい。ありがとうございます」
私はクッションを受け取り、お尻の下に敷く。
「おい、尻の下敷きにするのか!」
「はい。貴方も敷いてみてください、おしりが痛くなりませんよ、そうだ!お名前は何というのです?」
「人に名前を聞く時は、自分からだろ」
そう言いながら、男性はクッションをお尻に敷いている。
ふふ。
やってみるんだ。
「私は、剛力 小春です」
「ゴウリキ…………お前は男なのか?」
「違います!それは苗字……えっと、ファミリーネーム?名前は小春です」
「コハル」
男性は、改めて私の頭の先から、足の先までゆっくりと視線を移動させる。
やや。こっちはジャージとTシャツなんだから、ジロジロ見ないでよ。
私が頬を膨らませると、男性はハッとして頭を下げた。
「他国の女性を、眺めまわしてしまいすまない」
「あの、その傷はもう痛まないのですか?」
男性が頭を下げた時、顔の半分を隠していた髪が揺れて、左目にかかる大きな傷が見えた、まだ赤みがあったように見えたけど…………。
男性は慌てて、左手で傷を覆う。
「これは古い傷だ…………。」
私はグイっと男性に近づいて、手をどけてそっと傷に触れる。
「ああ。晴れては無いけど、赤みがあるからケロイドっぽいのかしら?眼は、問題なく見えるのですか?」
「お前、この傷を見ても怖くないのか?」
「はい。痛かっただろうな~とか、もう少し綺麗に縫ってあげて、ちゃんとケアすれば、傷も目立たなく出来たのにとは思います」
「……………………。」
男性は黙ったまま、私の顔を凝視している。
「この傷を見て、怖がられなかったのは初めてだ」
「これは、どれくらい前にできた傷ですか?痒みや痛みはありますか?」
「これは12歳の時に、暴漢に襲われてできたものだ、痛くもかゆくもない」
「じゃあ、ケロイドってわけじゃないのか、もう少し丁寧に縫ったらいいのに」
「縫う…………。 人間を縫うのか?」
「はい…………もしかしてここでは、縫ったりする治療は無いのですか?」
今になって、よくよく馬車の外を見てみたら…………暗い。
「あのここは…………あ、えっと、お名前を教えていただいてもいいですか?」
男性は髪を整えてから、真直ぐに私を見る。
「アレキサンダー・ブラックウッド公爵家の次期公爵だ」
「わあ。剛力より強そうな名前ですね、ところでここは何処ですか?」
「ライド王国だ」
「んー私、地理が苦手だったもので、ヨーロッパのどこかですか?それも凄い田舎ですね、外が真っ暗」
「お前、いや、コハルは何処の国のものだ?」
「日本です」
「二ホン?近隣諸国に、そのような名前の国はない」
「そうですね、日本は島国ですから、もしかしてアレキサンダーさんも、地理が苦手ですか?」
「…………。」
また……むちゃくちゃ見られてる。
「アレキサンダーさんは、俳優さんですか?それ衣装ですよね?」
「いや、私は役者などではない、それにこの大陸の国々はすべて把握している、王太子の側近だからな、そしてここはこの国でもっとも発展している、ライド王国の王都だ」
「王太子?王都?」
私はごくりとツバを飲む。
この古めかしい馬車…………アレキサンダーさんの服装、町並み。
いやいや。私はあのスペシャルハードな夜勤を終えて、アパートのお布団に入ったはず…………ん?死んだの?それとも夢?
私は思いきり、自分の頬をつまんで引き延ばす。
「あはははは、コハル。何をしてる?不細工だぞ」
「ぶしゃいくとは何ですか!」
私は、引き延ばすのをやめて頬を摩る。
痛い…………。
「あの、今は西暦何年ですか?」
「西暦とはなんだ」
「えっと、今年何年とか年号とか年表とかないんですか?」
「ああ、今年は王歴972年だが」
そうよね、アパートで寝ていたはずなのに、夢でないなら…………。
中学の頃、よく読んでたな~異世界転移もの。
いや、もしかしてもう一度、眠ったら戻れるとか…………。
百面相の後、クッションを枕に眠ろうとする私を、アレキサンダーさんが止める。
「おい。馬車の中だし、俺は男なんだぞ、警戒心を持て」
「わかってますよ、眠れば戻れるかなと思っただけです、それにアレキサンダーさんも、どこの馬の骨ともわからない私を、助けて馬車に乗せたじゃないですか!」
「お 俺は、武道にもたけている、それにお前が丸腰なのは、見て直ぐにわかる」
今までいっぱい私のこと、眺めたくせに、アレキサンダーさんは、恥ずかしそうに目を伏せた。
「まあ。武器も持っていないし、助けてくれた人に、牙をむくなんてしませんけど」
今更ながら、ジャージにTシャツが恥ずかしい。
「その手首のものはなんだ?」
あー、いつもの癖で、手首にゴムがるのに、別のゴムで髪を結んでた。
「これは、髪を結ぶゴムです」
「ゴム…………。」
「あーえっとアレキサンダーさんは、今何を使って髪を結んでいるんですか?」
「ああ、リボンだ」
「リボンだとめんどくさくないですか?」
「リボン以外に何があるんだ」
「このゴムです」
「…………。」
私は、アレキサンダーさんの隣に移動する。
「じゃあ、ちょっと横向いてください」
素直に横を向いた、アレキサンダーさんのリボンを解き、ゴムで結びなおす。
アレキサンダーさんは、自分の髪を触り確認する。
「これは凄い、リボンのようにゆるみがないな」
「そのゴム、差し上げます」
私の返事に、アレキサンダーさんは勢いよく振り返り、私の手を握る。
「いいのか?」
「はい。どうぞ」
私が、にっこり微笑むと、アレキサンダーさんの顔が急に赤くなった。
「あれ?熱があります?」
手は熱くないけど…………。
「だ 大丈夫だ、熱など無い、そして俺のことはアルと呼べ」
ん?まあ、アレキサンダーは、言いにくいから…………。
「アル?大丈夫なの?」
急に赤くなったから心配で、腕の方までガシガシ触ってみると、アルはさらに赤くなり破顔した。
ゴンゴン!
馬車のドアが、大きな音でノックされる。
「アレックス坊ちゃん!いつまで馬車に居るんです!」
ガチャリとドアが開くと、ぽっちゃりしたメイドさん?と、燕尾服を着た中年男性が立っていた。
「まあ!それも女性の手を握って破廉恥な」
「や!グレタ。俺は何もしていないぞ。今、コハルに、ゴムを貰ったからその礼をだな…………。」
「言い訳無用!さあ、お嬢さんをこちらに渡しなさい」
「グレタ落ち着いて、坊ちゃんも年頃だからね」
燕尾服の男性が、グレタさんの肩をポンポンと叩く。
「しかし坊ちゃん、いつまでも馬車の中にいないで、屋敷に入ってください」
「ああマテオ、グレタ。待たせてすまなかった、彼女はコハル、ニホンというところから来た。俺の客人だ、丁重に頼む」
アルは、私の手を握ったまま、馬車を下り屋敷に入る。
お屋敷は見上げるほど大きく、使用人の方が大勢アルの帰りを待っていた。
なんだかみなさんお待たせしてしまい済みません…………。
剛力 小春 25歳。看護師4年目の夏…………どうやら異世界に転移したみたいです。
✿ ✿ ✿
アレキサンダー 視点
コハルの支度をグレタに任せ、俺はマテオと執務室へ急ぐ。
大陸中の小国まで、名前を確認したが、二ホンなどという国はない。
それにあの服装…………。
俺は、左目の傷にそっと触れる。
例えどこの国の者でも、怪物と言われる俺に、躊躇なく触れて笑いかけてくれる女性など…………コハル以外いない。
「どうされました、痛むのですか?」
「マテオ。コハルは、俺の傷を見ても、まったく怖がらなかったんだ、その上この傷に触れ、痛くないかと聞いてきた」
「左様ですか」
マテオが、ほほ笑んだのがわかる。
俺は12歳の時、領地に向かう途中で暴漢に襲われ、一緒にいた母上は命を落とし、俺は顔に大きなケガをおった。
創は大きく、止血の薬だと医師に薬を塗られたが、傷はジンジンと痛んで晴れ上がり、5日間も高熱に苦しんだ。
幸いにも、左目の視力は保たれていたが、大きな傷が残り、傷の赤みも消えないまま。
それまでは、公爵令息である俺に付きまとい、ゴマすりをしていた連中は、化け物だ、怪物だと陰口を言いい。
令嬢達は、公爵夫人目当てで、声はかけてくるが、俺の1メートル以内に近ない。
そして裏では、やはりこそこそと恐ろしい顔、恐ろしくて触れたくないという声が聞こえてくる。
侍女達ですら、腫れ物に触るような扱いで、マテオとグレタ以外の人間と、ケガ以降何年も、触れ合ったことなど無かった。
髪もグレタが忙しい時は、自分で結ぶ。
コハルを、誰にも渡したくない…………。
✿ ✿ ✿
なんだかグレタさんに、ピカピカにしてもらって…………。
ヒラヒラのルームワンピを着せられ………知らないお家で爆睡してしまった。
「一度寝てみても、ダメだったか…………。」
今日は夜勤明けで休みだけど、明日の日勤はどうすれば…………というか連絡もできないし、無断欠勤なんて嫌だ…………。
コンコン!
「コハル、起きているか?」
ん。アルの声。
「はい、起きています」
「では、失礼する」
声と共にドアが開き、アルが入ってくる。
!!!
「ややや。すまない、まだ起きたばかりだったか」
慌てるアルの後ろから、グレタさんが現れる。
「坊ちゃん!寝起きのレディーの部屋で、何をしているのです!はい、とにかく部屋を出る」
グレタさんに、追い出されるアルを見て、クスクス笑っていたけれど…………。
「ぎゃあーーーー。」
姿見に映る私は、スケスケヒラヒラワンピだった。
真っ赤になる私を見て、グレタさんが豪快に笑う。
「ははは。コハル嬢も真っ赤ね。さあさあ、堪え性の無い坊ちゃんが待ってますから、着替えましょうね」
自分んで着替えます!とは言ったものの、ウエディングドレスみたいな服ばかりで…………結局グレタさんに着せてもらった。
グレタさんは、髪も香油をつけて上手にまとめてくれた、私のくせ毛は取り扱いが難しいのに、完ぺきな仕上がり。
「グレタさんありがとうございます、この髪型凄くかわいいです」
「どういたしまして、それじゃ朝食にしましょう。きっと坊ちゃんの首が二倍くらいに伸びちゃってると思いますから」
「ん?アルは首が伸びるんですか?こちらの世界ではそれが普通?」
「ふふふ。コハル嬢は面白いわね、待ちわびてるってことですよ」
!!!待ちわびてる?
グレタさんに案内されて、ダイニングに着くと、まだ耳が赤いアルが待っていた。
「あ、コハル、先ほどはすまなかった」
「いえ、私も迂闊でした」
「さあさあ、コハル嬢はこちらにおかけください、直ぐにスープをお持ちしますから」
グレタさんに椅子を引いてもらい、腰かける………本当にお嬢様にでもなった感じ。
私は、広いダイニングと、大きなガラス越しに見える、整えられた庭を眺める。
…………どうやったら帰れるかわかるまで、ここに置いてもらえるだろうか……何日も無断欠勤したら、クビになるかな~。
そうだ!今日はお給料日だったのに…………。
この世界で、私ができる仕事ってあるかしら……病院とかあるのかな…………。
ぐるぐる考えを巡らせていると、アルに声をかけられた。
「コハル、食事が口に合わないか?ニホンとは食べえるものが違うのだろうか?」
アルの優しい眼差しと眼があった。
「すみません、少し考え事してました」
ちらりとアルを見ると、また目が合う。
昨日は、薄暗い馬車の中でよくわからなかったけど……アルは凄いイケメンだ。
じっと見つめると、アルが左目を手で覆い、俯いた。
「アル?傷が痛むの?」
広いダイニングなのに、小さなテーブルで二人だけで食事をしているから、直ぐにアルに手が届く。
「やはり明るいところで、俺の顔を見たら、不快なのではないかと思って」
「や…………凄いかっこいいなって思って、つい見ちゃってごめんなさい」
!!!
弾かれたように、アルは顔を上げる。
「怖くないのか?」
「昨日も言いましたけど、怖くないし、痛くないかなって思うだけです」
「そうか」
アルの口角が少し上がる。
ん~。傷が気になるなら、コンシーラーとかで隠すこともできるけど、この世界にコンシーラーとかあるのかしら?
そうだ、仕事よ!
「あの、アル?お願いがあるのだけど、元の世界への帰り方もわからないし、当然この世界に知り合いはいないし、私にできる仕事があれば、紹介しえ貰えないでしょうか?」
「いや、コハルの状況は理解している、別に仕事などしなくても、この屋敷に住めばいい」
「道で倒れているところを、助けてもらった上に、ただでご飯を頂くわけにはいきません、何か仕事を下さい」
私は勢いよく立ち上がる。
「私こう見えて、元の世界では、看護師をしていました、医師の診察のお手伝いをする仕事です、だから傷の手当てや、病人の看病なんかが出来ます」
「なるほど、だから俺の傷にもあまり抵抗がないのか……しかし、いつも世話になっている医師のところは、人手に不足はないし、それ以外となると…………。」
「はいはいはい!それ以外なら、私そろばん検定2級です!履歴書にも書ける奴です」
「そろばん?」
私の勢いと、わからない言葉に、アルがぽかんとする。
「えっと計算ができる道具ですが……そろばんがないとダメでした」
シュンとして椅子に座った私の肩に、グレタさんが手を置いた。
「まあまあ、それなら私のお仕事を手伝っていただけませんか?」
勢いよく立ち上がり、グレタさんの手を取る。
「何でもやります、よろしくお願いします」
…………そんなこんなで、私に与えられたお仕事は、アルとお買い物に行ったり、お茶を入れたり、アルの簡単な事務仕事を手伝ったり、髪を整えてあげたり……お庭を散歩したり…………。
これほんとに仕事かしら?
「あの、グレタさん?私、窓ふきとか、洗濯とか、庭の手入れとか、メイドさん達がしてる仕事もできます」
「あらあら、グレタは坊ちゃんのお世話から解放されて、本当に助かってるんですよ」
グレタさんは、しっかりと私と眼を合わせ、話し始める。
「掃除や洗濯は他の者でもできますが、坊ちゃんのお世話は、今まで全部このグレタが引き受けておりましたから、コハル嬢が助けてくれて、私の仕事はだいぶ楽になりました、坊ちゃんは、あの怪我をしてから、私とマテオ以外の人間を近づかせませんから」
やっぱりあの傷跡、気にしてるのよね、ジャージのポケットに、コンシーラーやファンデーション入れとけばよかった!
「ねえ、グレタさん。この世界のお化粧品はどんなものがあるんですか?」
「まあ、今まで化粧などしなくても、十分かわいらしいので、お勧めしませんでしたが、お化粧してみますか?このグレタ、腕によりをかけて可愛く仕上げますよ」
「いえいえ!私は別にどっちでもいいのですが、アルのあの傷跡を、んー。私のいた世界では、コンシーラーって言って、シミやそばかすを隠す化粧品なんですけど……そんな感じの化粧品があれば、アルの傷跡を、目立たなくすることが出来るんじゃないかなーと思って」
グレタさんが、私をぎゅうぎゅうに抱きしめる。
「あの事件で、一人ぼっちになってしまった坊ちゃんに、こんなに優しくてかわいい人が現れるなんて!も~。このグレタ!神様への供物を、少しだけ増やすことにします」
私は、グレタさんに抱きしめられたまま、話を進める。
「グレタさん、喜ぶのはまだ早いです。日頃からお世話になっているお礼に、全力でコンシーラーを作ろうと思いますが、このうる覚えの知識でできるかどうか…………。」
「コハル嬢!二人でそのコンシーラーなるものを作りましょう」
グレタさんとガッシリ握手を交わすと、アルが私を呼ぶ声がする。
「コハル?どこにいるの?」
「まあまあ、寂しがり屋の坊ちゃんが、探していますね」
ふふふ。
私はグレタさんと小さく笑って、アルの元に急ぐ。
それから空いた時間で、私とグレタさんは、コンシーラー作りと、アルの肌色に合う、白粉作りに打ち込んだ。
「コハル嬢。この保湿に使う油は使えるんじゃない」
「ああいいですね、ワセリンみたい♪使えそうです、アルの傷は少し凹みがあるから、この油と、化粧の粉を混ぜて少し硬めにして、これで凹みを埋めてその上に白粉を重ねましょう」
「早速混ぜましょう、直ぐに白粉を有るだけ持ってきますね」
私とグレタさんは、何度も試作を重ね、コンシーラーとファンデーションを作り上げた。
「やったー。グレタさん♪完成したよ~」
グレタさんに抱き着いて、ぴょんぴょん跳ねる私の後ろから、いつもと違うアルの低い声がする。
「俺を仲間外れにして、何をしている!」
「まあまあ。坊ちゃん私にまで嫉妬ですか?」
「嫉妬などしていない」
ぷんぷんして横を向く、アルの手を取り、テーブルの前に連れてくる。
「パンパカパーン♪みてみて」
「なんだこれは?」
「いいからここに座って」
私はぐいぐいとアルを引っ張り、椅子に座らせる。
「目をつぶってて、少し触るけど動いちゃだめよ、あ!あともし痛かったら言ってね」
アルは、素直に私の指示に従い、眼を閉じる。
眼を閉じて静かに待っているアルの顔は、やっぱり男前!
私はなんだか熱くなる自分の頬をごまかして、コンシーラーを手に取る。
「痛かったら言ってね」
少しづつ丁寧に塗り重ねる。
「大丈夫?」
「うん。大丈夫、痛くないよ。コハルに触ってもらうの気持ちいいし」
ぐぅぅぅぅ~。涼しい顔してなんてこと言うの。
真っ赤な顔の私を見て、グレタさんの肩が大きく揺れている。
「もう。アルは黙ってて」
もうもうもう。最近のアルは距離も近いし、平気で好意を示してくる。
私が勘違いしたらどうするのよ!
思わず、ファンデーションを塗る手に力が入る。
同時にアルが、私のドレスをぎゅっと握った。
「ごめん。痛かった?」
「違う。眼を閉じているから、コハルが居なくならないか心配で」
私が固まって赤くなると、ついにグレタさんが噴き出した。
「ひー。ふたりが可愛すぎる。ははっはははは」
「もう。グレタさん!鏡を持ってきてください」
「はいはい、畏まりました」
私はグレタさんを待つ間、アルの髪を結びなおす。
アルはあの日あげたゴムを毎日使っている。
「いや、コハル………そんなにきっち髪を後ろですべて結んだら、公爵邸の中とはいえ、みんな怖がるから」
そこに、グレタさんが手鏡を持って戻ってきた。
「まあそう言わず、ご自分の顔を見てみてくださいな」
グレタさんが、アルの前に鏡を差し出す。
!!!!!
「コハル!なにこれ魔法なの?」
「私が暮らしていた世界では、古傷や火傷の後を隠すお化粧方法があるんです。専用の化粧品がないので、グレタさんに協力してもらって、作ってみたんですけど…………違和感はないですか?」
「ああ。赤い傷がない顔など、久しぶりに見た」
アルは、まじまじと鏡の中の自分を見つめている。
「坊ちゃん。遠くから見たら、傷などわからないくらいですよ」
「ああ…………。」
「痒くなったりしない?」
覗き込むと、いきなり立ち上がったアルに抱き上げられる。
「わー。」
足が宙に浮いてるよ!
アルは私を高く持ち上げてくるりと回ると、今度は自分に引き寄せて、固く強く抱きしめる。
「これ坊ちゃん!婚約もしていないレディーを、抱きしめてはいけません」
グレタさんが、アルのシャツをグイグイ引っ張るが、アルは私を離さない。
うー。アル!ドキドキで心臓が破裂する。
「まー困った。マテオ~。手を貸して、マテオ!」
マテオさんの登場で、漸く私から離れたアルは、ふたりにガツンとお説教された。
「ところで坊ちゃん、コハル様に夜会のことは話されましたか?」
「いや、伝えに来たら、グレタとコハルが仲良くしてて、その後傷を隠す化粧をしてもらい…………。」
「坊ちゃんは本当に、コハル様のこととなると…………。」
マテオが大きなため息をついて、私に向き直る。
「王太子殿下より、コハル様に夜会の招待状が届いております」
マテオさんは、切れな花が飾られた、白い封筒を私に差し出す。
「あー。以前にコハルの話を、王太子殿下にしたらだな……どうしても会わせろと、何度しつこく言われていて、コハルはまだこちらの世界になれないからと、断っていたのだが…………。」
「まあまあ、ついにハリー王太子殿下も、直接招待する強硬手段に出たのですね」
グレタが腕を組む。
「そうですな、これなら内々のお茶会などに出向いた方が…………王家からの直接の招待状は、断れませんからな。」
「仕方ないだろ、コハルを他の者に会わせたくなかったんだ、それに殿下は俺が女性をエスコートする姿が見たいと………毎日毎日懲りずに言ってくる」
いろんなことに………動悸がしちゃうけど。
私は、アルの手を握る。
「それなら、アルも夜会には出るんでしょ?傷の無いアルの、かっこいい姿をみんなに見せましょうよ!」
「しかしコハルは、夜会になど出たことが無いだろう、あの魔窟の様な場所に、コハルを連れて行きたくない」
「魔窟…………。」
私がつぶやくと、グレタさんが声を上げる。
「さあ坊ちゃん!夜会はいつの予定ですか?」
「…………10日後だ」
「まあ忙しい、断れないことなら、全力でやりますよ、コハル嬢!」
「はい」
「さあ、今日から衣装合わせに、マナーとダンスのレッスン!頑張りますよ~」
「えええ。ダンスなんてフォークダンスか創作ダンスしかしたこと無いよ、この世界のダンスって社交ダンスでしょ」
「もちろんです、さー四の五の言わない、まずはマッサージから始めましょう。マッサージの間に、グレタが、レッスンの準備をしておきますからね」
グレタさんが手を上げると、侍女の皆様が大集合。
「コ コハル…………。」
アルが私に手を伸ばしたが、私はあっという間に、侍女の皆さんに連れ去られた。
「さあ、坊ちゃん。坊ちゃんもダンスは久しぶりですよね、コハル嬢を、ちゃんとリードできるようにしてくださいよ」
「…………。」
「マテオ殿!任せましたからね」
「ははは、グレタさんには誰も敵いませんな。ダンスの件、承知しました。入念に仕上げさせていただきます。さあ坊ちゃん参りますよ」
✿ ✿ ✿
それからの毎日は、眼が回る忙しさだった。
「あー。グレタさん、私の足……倍くらいに腫れてない?」
「大丈夫ですよ、毎日入念なマッサージを施していますから」
「そうね、このマッサージが無かったら、歩くのも無理かも、背筋を伸ばすって大変なのね、全身の力が必要だわ」
「明日はついに、アレックス坊ちゃんと、合わせたダンスのレッスンですね」
「はい。アルは背が高いから、私と踊ったら、子供と遊んでるみたいに見えるんじゃないかしら」
私がクスクス笑うと、グレタさんがマッサージの手を止めた。
ん?
起き上がると、グレタさんが私の手をそっと両手で包む。
「コハルと呼んでもいいですか?」
「もちろんです」
「コハル。少し昔話をしますね。3年前の嵐の夜に、奥様と12歳のアレックス坊ちゃんは、前公爵夫人。アレックス坊ちゃんの祖母にあたるお方が、危篤だとの知らせを受け、ブラックウッド公爵領に向けて馬車を走らせていました」
私は、グレタさんの手を握り返す。
「その途中で、馬車は暴漢に襲われ、奥様は命を落とされ、アレックス坊ちゃんはあの怪我を………公爵様は、お母様と奥様を同時に亡くされ、坊ちゃんの傷を見るたびに、そのことを思い出してしまうのか、坊ちゃんから眼をそらし、仕事ばかりに熱中する様になりました」
「……………………。」
「それからの坊ちゃんは、あの傷が原因で、ご学友たちから遠巻きにされ、寂しい日々を送っていたと思います。そんな薄暗い、坊ちゃんの毎日にコハルが現れた」
グレタさんが、瞳を潤ませてほほ笑む。
「まー私は、不出来ながらアレックス坊ちゃんの乳母だからね、コハルが来てくれたことが嬉しくて」
「アルにしてみれば、グレタさんは、きっとお母様以上の人だと思います」
グレタさんが握る手に、力がこもる。
「これは、私が独断で考えた事なんだけど、こう見えて私は、伯爵家の人間でね、主人はいるけど、子供がいない」
話が掴めずにグレタさんを見ると、真剣な瞳と眼があった。
「元の世界に帰る方法が無くて、ここで暮らすことになるなら、コハル。私の娘にならないかい?」
「あの…………突然のことで、どうすればいいのかわかりません」
グレタさんの眼を見たまま、私は正直な気持ちを話す。
「もちろん返事は今でなくていいよ、そんな居場所もあると知っていてくれたらいい」
私は、グレタさんに抱き着いた。
そいえば…………いろんなことがあって、みんなが優しくて忘れてたけど、この世界に私の家族は居ない。
元の世界のことや、今の私のことや、アルのこと、グレタさんのこと…………いろんな気持ちが混ぜ混ぜになって、私は声を上げて泣いた。
✿ ✿ ✿
朝起きると、泣いたせいで顔がパンパンに張れていて………侍女の皆さんに、お手数をおかけしてしまった。
「コハル。支度はできたかい?」
「はい!今日は一緒のダンス練習、よろしくお願いします」
アルに差し出された手を取って歩き出す。
見上げると、アルの満面の笑み。
私と出会ってからのアルは、いつも笑っていたから、グレタさんが話してくれたみたいな、悲しいことが起きたなんて、アルから感じることが無かった。
傷跡のことは、気にしてるってわかってたけど……なんだか少し緊張しちゃう。
「コハル。ダンス苦手?緊張してるの?」
アルが、心配そうに私を覗き込む。
「大丈夫だよ!さあ、練習よろしくお願いします」
「よし、始めよう」
アルが私をホールドして、クローズドポジションをとる。
曲が流れ始めて、ふたりで一歩を踏み出す。
最初のうちは、ちゃんとステップの順番、手の角度、今まで教わってたことを、ぐるぐる頭で考えてたけど、アルのキラキラした笑顔を見ていたら、なんだか楽しくなってきて、ステップなんてどうでもよくなった。
アルと眼を合わせているだけで、行きたい方向も次の動きもわかる。
わー。
楽しい。
曲が止まって、決めポーズ♪
ジャーン。
「ははは、コハルと踊るのは楽しいな」
「私も、今までのレッスンの中で一番楽しかった」
パチパチパチパチ。
ホールの隅から拍手が響く。
音の方に眼を向けると、マテオとグレタさんが並んで拍手をしている。
更にグレタさんは、大号泣だ。
「アレックス坊ちゃんもコハルも立派になって~。」
「グレタ、泣きすぎだぞ」
アルは、そう言いながら嬉しそう。
マテオさんも、グレタの背中を摩りながら笑う。
私……転移してきた先が、ここで良かった。
✿ ✿ ✿
3日後、私とアルは、お揃いの衣装を身にまとい、王宮に向かう。
「アル。このキラキラの衣装、派手すぎない?」
私達は、アルの瞳の色であるシルバーをベースに、私の瞳の色であるヘーゼル色を差し色にした、きらびやかな衣装……。
アルは美男子だから良いけど、私は…完全に馬子にも衣装。
「コハルは、何を着ても可愛いよ」
私の片側に流してた髪を、アルはさらりと手に取りキスを落とす。
もー。
いつもより輝きが倍増してるアルに、そんなことされたら、心臓が爆発しちゃう。
あの楽しいダンス練習以降、アルは私との距離が、かなり近くなり、髪や手にジャンジャン触れてくる。
そして私はその距離に、いつもドギマギしてしまう。
「アレキサンダー様、王宮に到着しました」
御者に声をかけられて馬車を下りると、そこはまさに、ドラマや映画で見た世界。
ブラックウッド公爵家も凄いけど、王宮さらにキラキラで、艶やかなドレスに身を包んだご令嬢や、正装の紳士たちが大勢いる。
アルのエスコートで、会場の足を踏み入れてそのまま、王族の皆さんの前に進む。
「まあ、あれはもしかしてブラックウッド次期公爵様?」
「いえいえ、お顔に見るに堪えない傷があったはずよ」
「隣のご令嬢も初めて見る方ね」
「顔も見たことないなんて、下級貴族のご令嬢かしら?」
私達を避ける様に、広がる人の波から様々な声が聞こえる。
アルの腕にぎゅっと力が入り、私の耳元に顔が近づく。
「あいつらの言うことは聞かなくていい、俺だけを見てて」
アルがふわりとほほ笑むと、「素敵ね~」が混じる悲鳴が聞こえた。
私達は、国王ご一家の前に進み出る。
アルが頭を下げると同時に、私もカーテシーをする。
………できたかな。とりあえずこのまま待つのよね。
「本日は、コハル・ゴウリキ共々お招きいただき、ありがとうございます…………。」
アルが長い挨拶を終えると、国王陛下に声をかけられる。
「二人とも頭を上げなさい」
顔を上げると、穏やかなお顔の国王陛下。
「コハル。今日は、王太子がわがままを言ったようですまないね、慣れない場で、気苦労もあるだろうが楽しんでいってくれ」
「ありがとうございます」
私がもう一度カーテシーをすると、ハリー王太子殿下と婚約者のご令嬢が、ニコニコしながら近づいて来る。
「やー。アレックスのかわいい人に、漸く会えた」
「コハル、僕がアレックスの上司で、王太子のハリー。こちらは僕の婚約者でファロム公爵家のセイラだ、よろしくね」
王太子殿下がにこやかに笑うと、セイラ様にがっしりと手を握られる。
「コハル様、あなたのお化粧の技術は凄いのね、この技術は、アレックスだけに使うのはもったいないわ、是非是非国のためにもその知恵と技術を、そして何より私の悩みも相談にものってくださらない?」
私がセイラ様の勢いに驚いていると、家臣の方が声を掛けてくる。
「ハリー王太子殿下、セイラ様。ファーストダンスのお時間です。ご準備をお願いします」
「あーもう。コハル様、また今度お茶にお誘いしますから、必ず来てくださいね」
セイラ様は、名残惜しそうに手を振りダンスに向かわれた。
「かわいらしい方ね」
「ああ。王太子殿下はセイラ様を溺愛している」
「…………溺愛」
私の腰も、さっきからがっちりと、アルにホールドされえるけど…………。
「コハル。王太子殿下達のファーストダンスが終わったら、俺達も踊ろうか、コハルとのダンスをみんなに自慢したいんだ」
公爵家のホールも広いけど、ここはその何倍も広いし、人もいっぱいいる。
少しだけ心配になって、アルを見上げると、アルは私をさらに自分に引き寄せた。
「心配?」
私は、軽く首を振りほほ笑む。
「アルが一緒だから、大丈夫」
王太子殿下達のファーストダンスが終わり、多くの人がダンスホールに集まる。
曲の開始と共に、ドレスの花が幾つも広がる。
私達もホールに出てステップを踏む。
「まあ、やっぱりブラックウッド次期公爵よ」
「傷の治療が出来たのかしら」
「ご一緒の令嬢もかわいらしい方だな、ダンスを申し込むか」
「いつも顔の半分を隠し照らしたけど、あんなに美丈夫だったのね」
周囲の声がザワザワ聞こえるけれど、私はアルに言われた通り、アルだけを見てダンスを楽しんだ。
最後のポーズを決めると、数人の令息令嬢が私達を取り囲む。
その中から、ゴテゴテギラギラの令嬢が一人前に出る。
「お久しぶりです、アレキサンダー様♪グラント侯爵家のシャーロットです。この美貌をお忘れではないですよね」
そう言いながら、シャーロット様とやらは、私とアルの間にグイグイと入ろうとする。
同時に私の腕も誰かに掴まれた。
「お嬢さん、私と一曲、踊っていただけませんか?」
ややや、どちら様で?
「あの………私、少し喉が渇いたもので、ダンスは失礼させていただきます」
グレタさんに教わった、お断りの文句をちゃんと言えた!
「まー、アレキサンダー様は私と踊るから、さっさと飲み物でも貰いに行きなさいよ」
私を肘で押しのけようとするシャーロット様を、アルが押しのけ、私を腕の中に収める。
「ダンスは、コハルとしか踊りませんので、失礼します」
「この私が踊って差し上げると申しておりますのに、公爵家に嫁ぐにふさわしい家格を持つ私を、蔑ろにするおつもりですか?」
シャーロット様は、扇子を私達に向け、大きな声で騒ぎ立てる。
「家格など関係ない、コハルは私の最愛だ」
シャーロット様の顔がゆがむ。
「はあ、まだ婚約もしていないのに、続けてダンスを踊るのは、社交上マナー違反でしょう、とにかく私と一度踊りましょうアレキサンダー様♪そうすれは、その、どこの馬の骨ともわからない娘より、私の方がいいと、お分かりいただけますわ」
「お前達が今まで、私を何と呼んでいたか知っているぞ、今更ダンスをしたいだと!近づかれるだけで寒気がする」
何を言われてもシャーロット様は引かない。
「まあ。怒った顔も素敵ですわ、他の令嬢はそうかもしれませんが、私はずっとアレキサンダー様をお慕いしておりました」
シャーロット様が、またも私を押しのけ、アルにしなだれかかろうとすると、王太子殿下とセイラ様が声をかけてくる。
「あら、ミンミンとうるさいセミがいるかと思ったら、グラント侯爵令嬢でしたの、私の友人に何か問題でも?」
「やあ、アレックスも発表より前に、コハルを最愛だって大きな声で宣言しちゃって」
「セイラ様、このものと知り合いなのですか?」
「ええ、彼女はローゼン伯爵家の養女で私の親友、コハルよ」
セイラ様が、私の腕と腕を組む。
「コハル様、あの令嬢は社交界の問題児ですの、私達に話をあわせてくださる」
回りに聞こえない様に、セイラ様が私に耳打ちする。
私はこくりと頷いた。
「アレックスにも困ったものだ。ブラックウッド公爵令息である、アレキサンダーと、ローゼン伯爵家令嬢コハルとの婚約は、社交シーズン最後の夜会で、発表する予定だったじゃないか」
!!! 婚約!
私は驚いて、隣のセイラ様を見る。
セイラ様は、かわいくウインクした。
アルとハリー王太子殿下に目を向けると、満面の笑み…………。
なにこれ、えっとお芝居よね。
「やー。もう王太子殿下も認める婚約なのか」
「まあ、それにセイラ様のご友人ですって、素敵な方ね」
「また騒ぎの元は、シャーロット様ですのね」
「誰からかまわずお声をかけて、節操のないことで」
シャーロット様の扇子が、ミシミシと音を立てる。
「私、気分がすぐれませんので、これで失礼しますわ」
シャーロット様が会場を後にすると、会場は元の賑わいに戻る。
「はあ~。」
私は緊張から解き放たれて、一気に脱力する。
セリア様が私の背中を押して、アルが私を引き寄せる。
「さあ、積もる話があるでしょう。あちらの庭を貸し切りにして差し上げますわ♪ ねえ、ハリー」
「もちろんだよセイラ♪、さあアレックス行ってこい」
私とアルは、ハリー殿下とセイラ様に見送られ、会場の裏手にある庭に足を運んだ。
ふたりでベンチに座る。
「はー。すごかったね、アル。本当に夜会は魔窟だね」
「はは、そうだな」
空を見上げると、こぼれんばかりに星が輝いている。
「コハル」
アルのつぶやくような声と同時に、私はきつく抱きしめられる。
「アル?」
「さっき言った、俺の最愛は本当の気持ちだ…………馬車の中で、俺の傷にコハルが触れた時、俺の顔を怖くないと言った時、俺の気持ちはコハルに奪われた」
「アル…………。」
「それから一緒に暮らす中で、どんどんこの気持ちは大きくなって………できれば本当に、このシーズンの終わりには、コハルと婚約したいと、ハリー殿下に相談していたんだ」
「アル!私の気持ちより先に?」
アルのぎゅうぎゅうの腕から、何とか顔を上げると、綺麗なシルバーの瞳が揺れている」
「コハル、俺とずっと一緒にいて欲しい、世界で一番大切にする」
「アルの知らない国で生まれた、日本人でもいいの?」
「どこの国の人でも、コハルがいい」
私はアルの背中に手を回し、ぎゅっとアルを抱きしめた。
「私も、異世界の人でもアルがいい」
✿ ✿ ✿
次の日、眼を覚ました私は…………。
「わーやったわー。私のかわいい娘よー」
ベッドに飛び込んできたグレタさんに、潰されそうな勢いで抱きしめられている。
「おい、グレタ!俺のコハルから離れろ」
「ダメです、私の娘ですから、アレックス坊ちゃんには差し上げませんよ」
「おい!グレタ!コハルが潰れる」
「そうだ♪ところでコハルは何歳なの?18歳?もしかしてもッと下?」
グレタさんの笑顔の質問…………。
「あ あの25歳です」
「なんだ、コハルは俺と同じ年か」
「あらあらまあまあ、もう少し娘との時間を楽しみたかったのに!コハル。この国では25歳は立派な行き遅れよ、アレックス坊ちゃんしか、もらってくれないかもしれないわ」
い 行き遅れ…………。
「仕方ないわね、私が元気で面倒を見られるうちに、孫の顔を見せてもらわないといけないから」
そう言ってグレタお母様は、私をアルに押し付けた。
入り口で、マテオさんがクスクスと笑っている。
私が迷い込んだ異世界は、暖かな家族が待つ場所でした。
~ 終わり ~
(*^-^*)




