プロローグ
――狼は見ている。
目の前で己から逃げようとする弱者を。
震えている。いかにも恐怖でいっぱいだ。
そらっ、背を向けて逃げるぞ……キタッ!!
――ガヴルッ!ガヴルルッ!!
ずっと怖いヤツらに昏いところに閉じ込められてた。たまに出られても、またすぐ閉じ込められてた。
イマは違う!体が!血がとてつもなくハヤイ!チョット近くにいくと…ホラァ!ニゲダシタ!!
壁に囲まれた円形の中を弱者は必死に走る。
狼は、ニタァ…と広がった口の端をさらに引き上げて、弱者を追う。
ハッ、ハッと息を荒くして、四つの足が地面をおもいきり蹴り跳ねる。
タノシイ!タノシイ!カンタンなオ肉を追いかけるの!キモチイイィッ!
ヴァン!と吠えると弱者は転び、後ずさりをした。
ア~~~~~~タノジイ!ゴハン!ゴハンッ!
さらに大きく口角を上げ、その流れで口を薄く開く。いやらしく光る牙の中に、ポワァ~と灯がともった。
マズは、アツくする。アツくしてヨワラセル。
そう計画すると、狼はゆっくりと狙いを小さくおびえる弱者に定めた。
ボァン!!
縦に大きく開いた顎から勢いよく火の球が放たれた。火の球は狙い通りの線をなぞり、そして――
ズ バ
分裂した。
アレ?おかしい。
ジ ャ キ ン !
――エ?
狼は驚くよりも先に考えていた。
自分の体に“正面から”向き合っていたからだ。これはあれだ。自分の爪でよくやるやつ。
アツイのを、斬られた。
自分がされてようやく、火の球がどうなったかを理解した。
狼は結局、自分が斬られたことまでは驚くことができなかった。
強者は、魔法と魔物を斬っていた。




