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雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる  作者: もちもちほっぺ


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9/17

歩み寄り

翌朝、フェリシアは夜明け前に起きた。

いつもの習慣だった。


ルミナリス家でも、庭の様子を確かめるのは決まって朝一番だった。誰かに頼まれたわけではない。ただそうしないと、落ち着かなかった。


窓から外を見ると、空が白み始めていた。

庭が見えた。昨日の夕暮れに芽を出した枝が、薄い光の中でまだそこにある。夢ではなかった。


フェリシアは急いで着替えた。





庭に出ると、空気が冷たかった。

昨日の雨の名残が土に染みていて、足元が少し湿っている。フェリシアは手袋をはめ、まず昨日触れた花壇の前にしゃがんだ。


土に手を当てる。

目を閉じる。


植物魔法というのは、派手なものではない。光が出るわけでも、音がするわけでもない。ただ、指先から何かが流れ出る感覚があって、土がそれを受け取る感覚がある。それだけだ。


フェリシアにはそれが、呼吸と同じくらい自然なことだった。


しばらくして、土が変わった。

固く締まっていたものが、少しずつ解けていく。水はけが改善されて、空気が入り込んで、眠っていた何かが目を覚ます。


花壇の端から、細い緑が顔を出した。

一本。また一本。


フェリシアは立ち上がり、隣の花壇に移った。





気がつくと、二時間が経っていた。

庭師のヨハンが三人の助手を連れて現れたのは、フェリシアがちょうど中央の古い木に触れているところだった。


「奥様、もうお始めで」


「おはようございます。土を耕していただけますか、こちらの区画から」


ヨハンは庭を見回して、目を丸くした。


「……昨日と、随分違いますね」


「少し手を入れました」


昨日まで灰色だった土が、今朝は色を取り戻していた。

黒々と湿って、柔らかい。花壇のあちこちから緑が顔を出している。まだ小さい芽ばかりだが、確かに生きている。


「これは……」


ヨハンが呟いたが、フェリシアはすでに次の場所に移っていた。





屋敷の中では、ギルバートが朝食を終えたところだった。


「公爵様、奥様は夜明けから庭に出ておられます」


ホレスが報告した。

ギルバートはカップを置いた。


「……夜明けから」


「はい。庭師たちより早くいらっしゃいました」


ギルバートは立ち上がり、窓の方へ歩いた。


庭が見えた。

フェリシアが、花壇の間を歩いている。


手袋をはめた手で土に触れながら、時折しゃがんで、また立ち上がる。

庭師たちがその後ろで土を耕している。


ギルバートは窓枠に手をついた。

昨日と、庭の色が違った。

確かに違った。


「……何も言わなくていい」


ギルバートはホレスの方を向かずに言った。


「はい」


ホレスは口元に手を当てて、静かに下がった。





昼になり、フェリシアが屋敷に戻ってきた。

手袋は土だらけで、ドレスの裾も汚れていた。頬に土がついているのを、本人は気づいていない。


「奥様、お昼の用意が」


「ありがとうございます。少し手を洗ってきます」


フェリシアが廊下を歩いていると、角でギルバートと鉢合わせした。

二人は向き合った。


ギルバートの視線が、フェリシアの頬に止まった。


「……顔に、ついている」


「え」


「土が」


フェリシアは慌てて頬に触れた。指先に土がついた。


「す、すみません、気づかなくて」


「……いい」


ギルバートはそれだけ言って、廊下を歩き始めた。


二歩進んで、止まった。

振り返らずに、言った。


「……昼食は、一緒に食べろ」


フェリシアは少し驚いたが、頷いた。


「はい」


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