謎の沈黙
公爵邸の門をくぐったとき、使用人たちが雨の中に整列していた。
十数人が頭を下げる中、ギルバートが馬から下り、それからフェリシアに手を差し伸べた。
フェリシアは借りたままの外套をどうすればいいかわからず、胸の前で掻き合わせながら馬を下りた。
使用人の一人、初老の執事が進み出た。
「奥様をお連れくださいまして」
「……案内しろ」
ギルバートが短く言い、踵を返した。
奥様、という言葉が、フェリシアの耳の中で小さく反響した。
通された部屋は、フェリシアがそれまで使っていた部屋の三倍はあった。
暖炉に火が入っていて、温かかった。
天蓋付きの寝台と、窓際の小さなソファと、鏡台。どれも上等な調度品だったが、埃っぽくはなかった。
使用人たちが急いで整えてくれたのだろう。
「お着替えをご用意いたします」
侍女が言った。フェリシアより少し年上の、落ち着いた雰囲気の女性だ。
「ありがとうございます。あの、鞄の中に着替えが……」
「濡れておりますので、乾かしております。こちらをお召しください」
差し出されたのは、薄い水色のドレスだった。装飾は少ないが、生地が上等だった。
フェリシアがこれまで持っていたどのドレスより、きちんとしている。
「これは」
「公爵様がご用意されたものです」
フェリシアはドレスを見た。それからそっと触れた。柔らかかった。
着替えを済ませ、髪を整えてもらい、暖炉の前で温まった頃には、外の嵐が少し収まっていた。
フェリシアは窓の外を見た。
公爵邸の庭が見えた。
広かった。ルミナリス家の庭とは比べものにならないほど広い。でも、荒れていた。
木々は枝だけになり、花壇には枯れた茎が残るばかり。土が固く締まって、色も悪い。雨に打たれてなお、生気のない灰色をしていた。
「……随分と、長い間」
フェリシアは呟いた。
これほどの荒廃は、一朝一夕ではない。何年も、何も育てられなかった庭の色だ。
扉が、ノックなしに開いた。
フェリシアは振り返った。
ギルバートが立っていた。着替えていて、軍服ではなく、黒い室内着を着ている。雨は拭いたようだが、髪がまだ少し湿っていた。
二人は、しばらく無言で向き合った。
昼間の光の中で見るギルバートは、夜会の庭で会ったときとも、馬の上で見たときとも、また少し違って見えた。
背が高い。肩幅が広い。顔の造りが、彫刻のように整っている。そのすべてが圧として迫ってくるような気がして、フェリシアは思わず窓枠に手をついた。
(気絶、しそう)
「……座れ」
ギルバートが言った。
「は、はい」
フェリシアは素直にソファに腰を下ろした。ギルバートは向かいの椅子には座らず、暖炉の横に立ったまま、フェリシアを見ていた。
沈黙が続いた。
長い沈黙だった。
ギルバートが口を開きかけて、閉じた。また開きかけて、また閉じた。
フェリシアは膝の上で手を組んで、待った。
やがてギルバートは、踵を返して部屋を出た。
フェリシアは取り残された。
(……何だったのだろう)




