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雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる  作者: もちもちほっぺ


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10/18

花が咲く

昼食の席で、フェリシアは庭の話をした。


どの区画から手を入れるか。

土の状態はどうだったか。どんな花を植えるといいか。


ギルバートは向かいに座って、黙って聞いていた。時折、短い相槌を打つ。


「北側の区画は日当たりが悪いので、陰でも育つ植物を選ぼうと思っています」


「……何を植える」


「リンドウはどうでしょう。秋に青紫の花が咲きます。それから、ヘレボルスも。冬でも咲くので、雪の中でも庭が寂しくなりません」


ギルバートは少し考えてから、頷いた。


「……好きにしろ」


それがギルバートの賛成の言葉だと、フェリシアはもうわかってきていた。


「公爵様は、お好きな花はありますか」


ギルバートが手を止めた。


「……俺が」


「はい。せっかくですから、公爵様のお好きなものを植えたいと思って」


しばらく、沈黙があった。

ギルバートはフォークを置き、窓の外を見た。


「……子供の頃、白い花が庭にあった」


「どんな花か、覚えていますか」


「……小さかった。群れて咲いていた」


フェリシアは少し考えた。


「スノードロップでしょうか。早春に、うつむいて咲く白い花です」


ギルバートは何も言わなかった。

でもその目が、遠くを見ていた。


「植えてみます」とフェリシアは言った。


「来年の春には、きっと咲きます」


ギルバートがフェリシアを見た。

来年、という言葉に、何かを確かめるような目をしていた。


フェリシアはまっすぐ返した。


「来年も、ここにいますから」





午後も、フェリシアは庭に出た。

今度は中央の古い木に集中した。

幹が太く、根が深い。おそらく屋敷が建てられた頃からある木だ。


枝はすべて枯れているが、根の奥の方にまだ何かが残っている。昨日触れたとき、確かに感じた。


フェリシアは幹に両手を当てた。

目を閉じた。

ここが一番深い。一番長く、眠っている。呼吸をするように、魔法を流した。急かさないように、ゆっくりと。起こすのではなく、傍にいるように。

どのくらい経っただろう。


風が吹いた。


パキ、と小さな音がした。


フェリシアは目を開けた。

頭上を見上げた。


枯れ枝の先に、緑があった。


一つではなかった。

見る間に、枝の節々から芽が吹き出した。どんどんと、連鎖するように広がっていく。緑が枝を伝って、幹の上まで駆け上がっていく。


それだけではなかった。

花壇の緑が伸びた。蕾が膨らんだ。白い花が、ほころんだ。


庭師のヨハンが声を上げた。助手たちが立ち止まった。

庭全体が、息を吹き返したように動いている。


フェリシアは木の幹から手を離した。手が少し震えていた。これほど一度に使ったのは、初めてだった。


後ろで、足音がした。

振り返ると、ギルバートが立っていた。

いつからいたのか、わからなかった。ただ、庭師たちより少し離れたところで、木を見上げていた。


フェリシアは黙っていた。

ギルバートも黙っていた。


古い木の枝が、風に揺れた。その先に、小さな白い花が咲いていた。


「……これは」


ギルバートが、低い声で言った。


「この木は、枯れていたはずだ」


「根が生きていました」


フェリシアは答えた。


「どんなに枯れて見えても、根さえあれば、また咲けます」


ギルバートは花を見ていた。

長い間、見ていた。

その横顔に、フェリシアはこれまで見たことのない表情を見た。


怖いわけでも、冷たいわけでもなかった。

ただ、何か古いものが、静かに解けていくような顔だった。


「……公爵様」


「なんだ」


「根が生きている間は、大丈夫です」


ギルバートはフェリシアを見た。

フェリシアはまっすぐ、ギルバートを見た。

庭の話をしているのか、そうでないのか、自分でもよくわからなかった。ただ言いたかったから、言った。


ギルバートは何も言わなかった。

でも視線を逸らさなかった。

風が吹いて、白い花びらが一枚、宙に舞った。フェリシアの頬を掠めて、ギルバートの肩に落ちた。


ギルバートは動かなかった。

ただ、花びらが肩に乗ったまま、フェリシアを見ていた。





その夜、ホレスがギルバートの書斎に入ると、主人は窓の外を見ていた。

月明かりに照らされた庭が、昼間とは違う静けさで広がっている。白い花が、暗がりの中でぼんやりと光っていた。


「公爵様、明日の執務の書類をお持ちしました」


「……置いておけ」


「かしこまりました」


ホレスは書類を机に置き、下がりかけた。


「ホレス」


「はい」


「……宝石商を呼べ。明日」


ホレスは一瞬、動きを止めた。


「宝石商、でございますか」


「それから、仕立て屋も」


「……奥様に、でしょうか」


ギルバートは答えなかった。

窓の外を見たまま、口を閉じていた。


ホレスは深く頭を下げた。口元に手を当てて、書斎を出た。

廊下に出たところで、ホレスは小さく息をついた。


十年ぶりに、この屋敷に花が咲いた。

そしてどうやら、もう一つ別の何かも、今夜芽吹いたらしかった。


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