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魔道譚 ヤツザキの魔女と炎の騎士 ーTales of the Mystic Path ― The Witch of Yatsuzaki and the Knight of Flame―  作者: 夏乃緒玻璃


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雪の中にいる①

【Picaresque Fantasy】


雪の中にいる

 その依頼に柚木亜瑠花が同行したのは、「定例会」での鏑木進一郎の余計な一言のせいだった。


「魔道具を作る才能があるって事は、使いこなす才能もあるんじゃ無いか?」


「鏑木さん、あの本の事も感謝してますし、そんな持ち上げたらメル友飛び越えてチャッ友からでもいいかもですよ、負けヒロイン確定したらの話ですけど」


 奢りのドリンクバーのメロンソーダを飲みながら、亜瑠花がトリケトラの端を持って「えいっ」と念を込めるーーが、何も起こらず、シュンと肩を落とす。


「うん、本の事感謝してくれてるなら、僕の奥さんが嫌がりそうな発言やめてねー」


「なあ、レイ「くん」あのアホ娘が言ってる負けなんとかってどういう意味だ?」


 奢りのドリンクバーであまり野菜の味のしない野菜ジュースを飲みながらアルカがレイに聞く。


「ああ、それはねーー」


 奢りのドリンクバーでアイスコーヒーを、飲む前に「すいません、すいません」と何度も鏑木に礼を言ってから飲もうとしたレイの額に、向かいの席の亜瑠花からトリケトラがぶつけられる。


「そんな事、真顔で答えないで」


 そのままレイの横のアルカを睨みつける。


「あんたも余計なこと聞くな、矯正ブラ!」


「んー?」


 胸元を確かめながら、動じないアルカ。


「どうも我が本体に比べて、この体は貧弱で、こうしないと落ち着かない」


「くっ」


 ブーメランだった。


「あのー、そろそろ僕の提案、話していいかな」

 ホット・モカのカップを置きながら鏑木が言う。

「ダウジング・ロッドって知ってるよね?」


 ダウジングは、振り子やエル字型の2本の棒を使って、水脈やら埋蔵物やらを探知する方法だ。


 効果があるのかどうかはわからないが、正式な技術として採用されている場合もあるという。


「金鉱とか探せてしまうんじゃないか?練習すれば」

 鏑木は軽口のつもりだった。


 しかしーー


「棒ならアルカの使う伸縮ペンの予備がたくさんーーえ、金って見つけたら発見者のものになるんですか?」


 表情が変わらないだけに、その食いつき方は不気味なほどだ。


「その上げ底のをつかわなくても、ペンデュラムならあるし!棒の方がいいなら編み棒があるし!」


 亜瑠花はどちらかというと金そのものより、新たな能力が認められる可能性に浮かれているようだ。


「ふん」


 唯一、興味なさそうなアルカ。


「豚にトリュフを探させた他が可能性ありそうだけど」


「というか、あんたは探せないのか?トリュフだって高く売れるらしいぞ」


「豚扱いされたぞ。ほら怒れコピー元」 

「あんたが喰っちゃ寝して勝手に太ったんでしょ」


 話を振った鏑木は、やれやれと言った表情で若者たちの言い合いを、少し面白そうに眺めていた。


 金にしろトリュフにしろ、日本では発見しても土地所有者と国の物にしかならないのだがーー今、教えたらがっかりするかな、と思いつつコーヒーを飲み干した。


 ◇◇


 多摩川沿いの閑散とした広場。


 とりあえず、通販で買った1セット1599円のダウジングロッドを構え、亜瑠花が立つ。


 見守るレイとアルカ。


「いい、いくよ?いくからね?」


 目を閉じて、棒を水平に持ち歩き出す亜瑠花。


「むぎっ!」


 数歩も歩かないうちにーー派手に転んだ。


「ほらほら、目を瞑らなくていいから」


 レイに助け起こされ、「ゔん」と涙目で頷く亜瑠花。


 アルカは離れた場所に立ち、表情を変えぬまま、しかし確実に笑いを堪えている。


 結局、その日に亜瑠花が見つけたもの。


 犬の骨ーー亀の甲羅ーー50円玉

 ーーそれから、人骨。


 ◇◇


 新堂優士しんどう ゆうじが目覚めた場所は、洞窟、あるいは縦穴の様な場所だった。


 記憶を辿る。


 確か、雪道を歩いていた。

 バディにして恋人の御厨凉子と一緒に。


 そして、落ちたーー落とされた?

 落下の感覚が最後の記憶だった。


 今、どうなっているーーどこか折れているようだ。

 痛みがある。


 元々、痛覚の鈍い特異体質の自分が、かなりの痛みを感じている。状況は良くなさそうだーー。


 周囲をみる。

 これは、雪洞かーー壁が白い。冷気が漂う。


 凉子は無事かーーなんとか首を動かして周囲を見て、そして優士は絶望し目を閉じた。


 すぐ横に、凉子が倒れている。


 ありえない角度でーーその首は曲がっていた。


「凉子ーー」


 優士は呻いたがーーただヒョウヒョウと風が答えただけだった。


 ◇◇

 その日の根津ミコトは、いつぞやの廃寺護符を売りつけた時に一緒だった女性を連れていた。

 今回のスポンサーなのだそうだ。


 彼女は「マオ」と名乗った。


 中国人のような響きだな、とレイは思ったが、しかし彼女の日本語は流暢だった。


「助けて欲しい人は、私の恩人なんですよーーでも、もう手遅れかもしれない。その場合は、その人の『魂』を回収して欲しいの」


「わかった。報酬額を聞こう」


 アルカが即答する。

 レイがその頭を軽く叩く。


「全然わからない」


「だから魔女の頭を叩くな。最近そういう突っ込みは批判されていると聞いたぞ」


「変な動画ばかり見ないでねーーで、マオさん? 魂の回収とは?」

「ーーそして報酬額は?」


 答えようとするマオさんを根津が制し、引き継ぐ。


「報酬は100万。経費別。魂ーーについてはマオちゃんはああいったけど、あまり深く考えなくていいよ」


 根津は、100万と聞いて無表情のままガッツポーズをしているアルカと、指を折りながらブツブツと学費や家賃の計算を始めたレイを見比べて、薄く笑った。


「引き受けてくれそうだね。依頼内容は失踪した新堂優士という男と、その相棒御厨凉子の救出。無理な場合は魂ーー遺体の回収」


 やはり言い方が、引っかかる。


「さっきから、その魂と言うのが引っかかりますがー」


「うん」


 根津はもったいをつけるように、しかし少し寂しそうな笑顔をマオに向けながら、答えた。


「新堂優士と御厨凉子は、君らと同じボクのバイト仲間さ。君らが「魔女と騎士」で依頼を受けているように、彼らは霊媒士メディウムと護衛、というバディで知られているーー新堂は、ある意味、不死身だから肉体が朽ちていても遺体を回収できればいい。それで、魂と言ったんだ」


 ◇◇


「すまなかったな、凉子ーーもう死んでいるか?」


 優士は、呟く。


(ええ、即死だったわ。大丈夫、苦しまなかったーーありがとう優士)


 遺体から、感情が流れ込む。

 死者との会話ーーそれが霊媒士 新堂優士の一つ目の「能力」だった。


「きみとは、もう三年になるなーー今までで一番長く続いたコンビだった。残念だよ」


(私もよーー優士ーーああ、あまりこっちを見ないで頂戴。首が変な方に曲がって、気持ち悪いでしょう?)


「いや、そのポーズはなかなかセクシーだよ。でも、話を進めよう。僕が死ぬまで、あまり時間もないかもしれない。何があった?ーー優秀な「護衛」の君が、あっさりと殺されて、僕はこの始末だ。攻撃された?」


 血が流れている。

 口を開きたくはないが、死者との対話には言葉を発する「縛り」がある。厄介だなーー肉体の死が早まらねばいいが。


 優士メディウムは考える。


 しかし、痛覚が乏しいせいで正気を保っていられるのだとは知りつつも、その体質のせいで自己の正確なダメージを推し量れないーー不便極まりない。


「ふう」


 息が白いーーここはどうやら、寒いようだ。


「煙草が吸いたいな」


 優士はどちらかの手が動くか確かめる。

 しかし、どちらも折れているようで、動かせなかった。


「助けを待つしかないかーー間に合うか? まあ仕方ない、凉子。凉子ーー敵は誰で、何をされたかは分かるだろうか」


(おそらくは雪妖の類。攻撃というより、深い雪洞の入り口をカムフラージュしただけ。だから、殺気もなかった。だから、落ちて、死んだーー死んだ。首が曲がって、血を吐いてーー死んだ、死んだ、死んだ)


「ストップ。思考を停止しろ凉子。感情に飲まれるなーー怨霊化してしまう。君は僕がそうせよと命じた時だけ、命じた事を思考し、答えるのだ。君自身の感情はいらない」


(‥わかったわ。ごめんなさい、優士)


「わかればいい、愛しているよ」


(嬉しいわ)


 さて。

 埒があかない。


 結局、自分達はなぜ、誰に殺されるのか、それがわからないーーだが。


「だが、僕がまだ生きていると知れば、そいつはまた現れるかもしれない」


 優士はその、鋭く切れ上がった端正な漆黒の瞳を閉じ、思案した。


 微動だにしない彼の顔は、美しい仮面ーーデスマスクのようでもあった。




挿絵(By みてみん)

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