鬼の首と糸の魔法使い⑤
息を切らせながら園内に走り込む亜瑠花。
「あるかちゃん?」
とことこと心配そうに駆け寄る拓郎をギュッと抱きしめて頭を撫で、向き直る。
「門を閉めて下さい。早く!オバケがきます!」
「えー!」
「おばけー?」
「なにそれー?」
口々に騒ぎ出す園児達。
「ちょ、君、何をいきなり」
「いえ、八潮さん、言う通りにして!」
恰幅の良い八潮誠司ーーせいくん先生が問いただすのを、制したのは七瀬はるかーーはるちゃん先生だった。
「なにをーーえっ!」
七瀬が門の外を指差すーーそこには、ゆらゆらと迫る黒い影や、青白いいくつもの人魂が迫っていた。
「た、大変だ。非常ベル!警備会社に通報を」
「八潮さん、それよりまず門を!」
門が閉められる。
泣き出す子供達を八潮と七瀬がなだめ、屋内に連れていこうとするが収集がつかない。
それを見て、亜瑠花が声をかける。
「バスケットの中のお守りを子供達に持たせて下さい。少しでも効果があると思います!」
「え。こ、これか。あっ、なんか確かに暖かい!」
「ほ、ほら、みんな。これを持って、集まって。天使さんが守ってくれるから」
門の内側には優しい顔の天使の像があった。
「天使ーーま、まあ、ここの天使は大丈夫だよね」
「天使」にトラウマのある亜瑠花だったが、今はそんな事は言っていられない。
「糸!」
どこにしまったかーー
ショルダーだ。
アルカは白い糸を取り出す。
閉められた門に走り寄り、門のあちこちに白の糸を結び付け始める。
「入ってくるな!入ってくるな!」
念じながら結ぶーー一瞬、微かに光の幾何学模様が亜瑠花には見えた。
白い糸の守護結界。
門に押し寄せる影たちが、それに触れて、弾かれたように押し戻されている。
「数は多いけど、一匹一匹はそんなに強くない!やれる。ううん、やらなくちゃ!」
「い、いま、門の非常通報ボタンを押した!すぐ警察とSACOMが来てくれるーー」
「下の道は岩が塞いで通れないんです。上から回るように伝えられますか?」
更にいくつもの糸を結びながら、亜瑠花が叫ぶ。
しかし、八潮が絶望的な悲鳴をあげた。
「なんだって!上の道は昼の崖崩れで、明日以降まで通行できないって、さっき連絡がーー!!」
「ーー!!」
絶望的だ。
どうしようーーどうしたら。
その時。
「あるかちゃん!危ない、上っ!」
拓郎が叫ぶ。
火の玉が門の上から侵入し、亜瑠花に向かう。
「え、えいっ!ニンニンっ」
ローワン・アンド・レッドスレッドの十字手裏剣を投げつける。
手裏剣は命中し、火の玉は弾け飛ぶ。
「す、すごーい!」
「拓くんのお姉ちゃん、すごい!」
子供達が喝采する。
手にしたトリケトラの護りと、亜瑠花の活躍を見た事で、パニックから脱したようだ。
「えいっ!えいっ!」
次々と侵入してくる火の玉を、手裏剣で撃ち落とす亜瑠花。
「あるかちゃんすごい!お嫁さんになって!」
拓郎が興奮して叫ぶ。
「た、拓ちゃんも負けヒロイン救済キャラだったのね!なんで年齢差が微妙なキャラクター配置ばっかりなんですかね?」
火の玉を倒しながら答える亜瑠花。
「あるかちゃんが何言ってるのかわからなーい」
「拓ちゃんのお姉さん、おもしろーい」
ガヤガヤとする園児達。
火の玉の襲来が一段落すると、亜瑠花はようやくハアハアと息をつく。
七瀬がペットボトルの水を差し出してくれる。
「今のうちに屋内へ?それとも天使像の前の方がいいかしら。ああっどうしたら」
「いま、助けを呼びますーーレイくん、繋がって!」
スマホを取り出し、電話をかける。
が、圏外だった。
しかたないので、住所と「たすけて。オバケ」とだけ書いたメールを送信状態にしておく。
一瞬でも電波がつながれば、送信されるはずだ。
しかしアテにはできない。
レイの家は都内の品川区付近。
ここは都下、府中市だ。
どんなに急いで駆けつけてきてくれても、一時間、いや二時間はかかるだろう。
ましてやーー
「タクシー代とかなさそうだし」
亜瑠花は溜息をつく。
「今のうちに中に逃げましょう。聖堂の方が安全です」
八潮が叫ぶ。
確かに、軋む門の糸結界はいつまで持つかわからないし、新たな火の玉も迫ってきている。
「そこでまた糸の結界を。ああっ、でももう白と赤が少ない」
「あ、青が沢山あるじゃないですか」
覗きこむ八潮。
「青は、安産祈願の糸なんですっ」
なんで持ってきてるんだよ、そんなのーー八潮は頭の中で毒づいた。
「さあ、聖堂まで走るわよ、みんな!」
七瀬が促し、皆が走る。
園児たちがとことこ走っていく小さな後ろ姿を見つめる亜瑠花。
「大丈夫だ。朝が来るまで、絶対に私が守る!」
キッと口を結び、胸に誓った。
【folktale fantasy】
鬼の首と糸の魔法使い




