鬼の首と糸の魔法使い③
25.10.04
「か、完成。これは強そう!」
亜瑠花がまた新しい結びを完成させた。
Rowan and red thread
ナナカマドの枝を十字に組み、赤い糸で結ぶ。
見た目は木製の十字架のようだ。
悪霊を祓う、最強の民間魔法だと図面には書いてある。
胸から取り出すのは物理的に無理だとわかったので、亜瑠花はこれをたくさん作って、手裏剣のように飛ばそうかと考えた。
「えいっ!ニンニン!」
ドアに向かって投げたとき、タイミング悪く亜美が入ってきた。
コツン。
「痛っ!」
「ああ、ごめんなさいーニンニン!」
「ニ、なに?まあいいわ。ノックしなかった私が悪いーーちょっと頼み事があったのよ。6日の日にねーー」
◇◇
亜瑠花に6日の幼稚園へのお迎えを頼み、部屋を出た亜美は、少しぼうっとしていた。
疲れているのか、変なものが見えた。
亜瑠花の周りを、ゆっくりと、時に弱々しく、時にはしゃぐように飛び回る光。
それは小さな蝶のように見えた。
そんなもの、10月の室内にいるはずがないのに。
「そういえば、あの子、小さい時によく、妖精を見たとか言ってたけどーーまさかね?」
◇◇
25.10.05
シルバー人材センターから派遣されてきた堂島と田中
。年に数回、墓地や塚の周辺の雑草処理に、地主から呼ばれている。
「結構生えてきてるなあ。こりゃ夕方までかかりそうだーーおい、田中。頼んだもんは探してきたか?」
恰幅の良い先輩の堂島老人は、痩せて気弱な後輩の田中に対して、当たりが強い。
「壊れた鬼瓦の代わりになるものって言ってもサァ、ウチにはこんなもんしか‥」
取り出したのは、セトモノの招き猫。
「上等上等、鬼よりゃ猫の方がご利益ありそうだし、地主さんには後でうまく言っておくよ」
「でもなあ、堂島さん」
不安気な田中。
「いいのかねえ、こんなんで。ここ、元々は百人塚だろ」
「なんだそりゃ。知らねえぞ」
「昔はさ、伝染病で死んだ人間や、行き倒れなんかを、大きな穴を掘って放り込んだんだとよ。ほら、吉原の遊女みたいに。その塚が東京の開発地にあって、そんでここの地主が扱いに困ってここに移管したんだと」
「まあ、墓地の横だからちょうど良かったんだろな。ーー吸うか?」
草むらに腰掛け、マールボロに火をつけ、田中にも一本差し出す。
「さんきゅ。ほら、昔から百鬼夜行って、満月にバケモノが練り歩くって話があるべよ」
もらいタバコに火をつけながら、続ける田中。
「まさか、この塚で?」
「うん、塚から這い出したバケモノどもが、満月の日が来るごとに這い回って、子供だの老人だの弱いもんを引っ張って仲間にしようとするんだとさ」
「オチがわかったぞ。それをあの鬼瓦で封じてたっていうんだな?」
「一時期結構有名になったんだよなあ、その話。3-40年前」
「3-40年前に、ここらで大事故や大量殺人があったなら、信じるけどなあ。ハハハッ」
「まあ、違いないわな。ハハッ」
結局、老人達は招き猫を台座にのせ、ゴミ袋の鬼瓦の破片は、処理した雑草と一緒に持ち帰った。
◇◇
その日、しんあい幼稚園では、高齢の園長先生が発熱で休み、八潮と七瀬の二人きりで約二十人の園児達を見る事になった。
子供達に異変はなかったが、七瀬が登園した時に、飼育していた三匹のウサギが同時に死亡しており、園児達がそれを見つけてしまう前に処理をした。
園児達には、「檻がこわれていて、山に逃げていったが、きっと自由になって元気に生ているだろう」と説明した。
◇◇
「できたできた!可愛い。天才!」
編み上げた亜麻糸のストールを巻きつけ、はしゃぐ亜瑠花。亜麻糸で編んだ魔法のストールは、無病息災や回復促進の魔力を持つという。
本来は「40年収穫されていない畑から採れた麻を使う」などの制約があるのだが、それは無視した。
「ハベトロットは1日でドレスを編んじゃうそうだけど、さすがにそこまではねえーー申し訳ないけど、顔とか足とか似ちゃっても困るし」
伝承のハベトロットは、巨大な足と突き出た下唇が特徴の老婆だ。足と唇でも糸を扱うから、その姿なのだという。
「あとは、できるだけたくさん、お守りを作って行こう」
明日、幼稚園児に、見せびらかす気満々の亜瑠花だった。
だが、それは同時に子供達に少しでも幸せを届けてあげたいという、優しさからくるものだった。
【folktale fantasy】
鬼の首と糸の魔法使い




