鬼の首と糸の魔法使い①
【folktale fantasy】
鬼の首と糸の魔法使い
スコットランドといえば、有名なハリー・ポッターの聖地エディンバラを筆頭に、さまざま魔法伝承が残る地である。
首都エディンバラから西へ約70キロの位置にある、大都市がグラスゴーだ。
グラスゴーはスコットランド北西部の山岳地ハイランドへの観光ツアーの拠点して有名だが、そもそもその山々の頂上を結ぶ線、ファイブ・シスターズ・オブ・キンタイルの自然を守ってきたのが、魔女達だと言われている。
キンタイルとは五芒星を形どる角度の事だ。
つまりこの地は、今も紛れもなく、魔法用語が当然のように公用される、魔法に満ちた土地だという事だ。
大都市グラスゴーでは、魔術師を名乗り商売をしている者は少なく無い。
ルポライター鏑木明美が追っていた、ガブリエラという男の出身地である。
ガブリエラは、各国の王家とも深い関わりがあった。
王家と親しいと言う事は、いまだに王立企業が少なくない欧州においては、経済の面でも影響力が強いという事だ。
財界にも「顔のきく男」として噂され、裏社会にも通じるとされ、様々な黒い噂も絶えなかった。
鏑木明美の取材チームの移動用車両に大型トラックが突っ込んで、関わった全員が死亡するという痛ましい事故が起きてから3年。
その時以来、足取りがしばらく途絶えていたガブリエラが、Mr.ミカエラと名を変えて東京、新港イリュージョンシティに現れた、あのセミナー初日から一か月後の話である。
◇◇
「魔法の指先が綴る、運命の糸ーー著書 Habetrot」
柚木亜瑠花は、一冊の古い図解書と格闘していた。
ラテン文字辞書を横に置き、図面に記されたいくつもの糸を紡ぎ、解き、そしてーー
「むぎー!また失敗したあ!」
と叫び、また結んでいく。
部屋の中には赤白のおびただしい量の糸や、石、木の枝、金属のスピンドルなどが散らばっている。
家主の柚木亜美は最初その光景に、いよいよ可愛い姪の頭がおかしくなったかと絶句した。
しかし、どうやらそれがグラストンベリーの魔女学校に続く亜瑠花のオカルト趣味で、なんとかそれで失恋の痛み?から立ち直りつつあるようだと察したので、一切の文句は言わなかった。
◇◇
「柚木ちゃん、これを君にあげるよ」
サラリーマン鏑木進一郎34歳、愛妻家。
亡き妻明美の意思を引き継ぎ、巨大企業エンゼラグループを追うーー年収500万の一般人。
レイ、アルカ、そして亜瑠花とは、因縁の相手ミカエラ=名を変えたガブリエラを追ううちに共闘し、戦友のような関係になった。
彼はミカエラに危害を加えられつつあった亜瑠花を救い、その彼を偶然とはいえ守ったのは亜瑠花が渡した不恰好な手作りのタリスマンだった。
その日は、「定例会」と称して、幻影都市事件に関わった四人が集まり情報交換する日だった。
年長者の鏑木は、魔女アルカには手土産だと言って、ウェッジウッドのアソートセットを渡して歓喜の声を上げさせた。
次に、柚木亜瑠花に渡したのが、古い装丁の分厚いこの本と、ジュンク堂の袋から出したばかりのラテン語辞典の二冊だった。
「え、ありがとうございます。鏑木さん。ええと、いつも親切にして頂いて。私の負けヒロインが確定したらメル友から始めるのは全然構いませんが、でもまだこんな高そうな本をいただくわけにはいきません」
「相変わらず君が言ってる事はよくわからないけど、とりあえずその、負けなんとかにならないよう祈っておくねーーそれは、グラスゴーの古書市で明美が偶然、入手した本なんだよ」
「ほお」
ウェッジウッドの箱を抱きしめたり、崇めるように掲げたりして、レイに嗜められていたアルカが覗き込んだ。
「珍しいな。ハベトロットの魔力の残滓が感じられる。その本は本物だなーーまあ今となっては、そいつの価値がわかる人間はいないだろうが」
「ハベトロットって知り合いかい?」
そろそろっとアソートセットに手を伸ばして中身を見ようとしたレイの手を叩き、「私のだ」とばかりにまた胸にぎゅっと箱を抱いて、アルカはどうでも良さそうに言った。
「知らないよ。ハイランド辺りでは有名らしいーー糸の魔法使いと言われていたが、正体は妖精だったとも言われているね。スコットランドは古くから土着の妖精達が住んでるからーーそういう事も、あるかもね?」
鏑木は言う。
「あのとき、ミカエラを怯ませたのは君のタリスマンだ。もしかしてーー君、そういう魔道具みたいなのを作る才能、あるんじゃないか?」
◇◇
2026.10.01
しんあい幼稚園。
柚木亜美の家のすぐ近く。
山の切り通しの脇にある、ごく普通の小さな幼稚園。
幼稚園バスが入るのが困難な山道なので、近隣の父兄と職員が交代で、集団登園している。
山を抜けると、隣町の整地された住宅地に出るが、そちらのエリアの子供達はバスの完備された別の幼稚園に通う者が多く、しんあい幼稚園に通う子はいない。
山中には墓地や塚なども多く、子供達は迷うと危険なため、絶対に分け入ってはいけないと厳しく言われていた。
しかし、どこにもヤンチャでルールを守らない者はいる。
「シンちゃん、いけないんだー。そっち行ったら、はるちゃん先生に怒られるよ」
「大丈夫大丈夫。この前パパと来たとき、凄いのみつけたんだ。ゆうくんにも教えてあげる」
細い道を入って行く二人の園児。
草むらを抜けた先にーー。
「うわー、なにこれ!」
「ビビるっしょ。パパもビックリして、脅かすなって蹴り入れてた」
シンの父親は、他人の私有地に山菜やキノコなどをしばしばとりにに行くような、少しお行儀の悪い大人だった。
子供らの前にあったのは、鬼瓦の乗った古い石碑だった。
立て札には「鬼首塚ーー平成元年、新港街開発に際し、所縁あるこの地に移管」と刻まれていたが、子供たちには読めない。
「おどかしやがってー」
子供達は、塚を蹴ったり揺すったりして「鬼退治」だと笑い合った。
やがて塚の上の鬼瓦ーー鬼の首が落下し、砕け散った。
◇◇
「むぎっ!むぎゅ?ーく、こうか!」
修行を始めて一週間。
亜瑠花は、ようやくいくつかの簡単なーー木の枝に赤い糸を巻きつける情け無いほど簡単な作業ができるようになってきた。
通販でイギリスから取り寄せたスピンドルも届き、修行は順調だった。
ーー食欲も進み、座り作業ばかりのせいか、体重が2キロ増えていて、半泣きで近所をジョギングした。
ハベトロットなんてドマイナーなローカル妖精なんか引っ張ってくるのは私くらいのものだろうウフフーー
などと思っていたら、まさかのソシャゲの人気キャラだと知った時のショックよ。。。
しかも、カブったとしてもお婆さんだし、まあーーと思っていたらまさかの美少女化。
一応ーーヤツザキ魔女に対しての紡ぐ魔法使いで対になってます。




