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魔道譚 ヤツザキの魔女と炎の騎士 ーTales of the Mystic Path ― The Witch of Yatsuzaki and the Knight of Flame―  作者: 夏乃緒玻璃


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血と蜜①

【Gothic Romance】


BLOOD & HONNY

「話しかけないでくれ。死にたく無いならな」


「あ、ああ、私はこんな恐怖に晒されたのは、幼少期にアングルシー島でローマ軍に囲まれた時、以来なのだが――ああっ」


「だから、話かけないでくれっ。ふざけている場合じゃない――この真剣な表情がわからないのか――地図だけ見ていろっ」


 砂利をタイヤがすり潰す。


「表情なんかいつも通りだ――あなたもそういう洒落た皮肉(アイロニー)をいうようになったのだな――あっ、右っ!次、右の路地!」


 眼前に迫る切り通し。


「せ、狭い、これ車で行けるのか」


「しっかりしろペーパードライバー!」



 ◇◇


 山道をゆくレンタルカローラ。


 根津ミコトが持ってきた、今回の依頼は単純明快。


「あるペンションに、何か怪異が発生したみたいでね、退治してきて欲しいのよ――報酬は経費別で、20万。夫婦なんだから取り分はそっちで分けてね」


「‥‥」

「‥‥」


 無反応。


「あれ、なんか滑った?反応がないけれど」



「夫婦じゃ無いっ!とかいうリアクションを期待しているのかネズセンパイ――我々に」


 無表情のアルカ。


「駅前ハンバーガーショップで、すでに『怪奇!無言無表情の人形カップル』として、怪異扱いされてる俺たちに?」


 無表情のレイ。


「なんかごめん――まあ、条件というわけじゃ無いんだけど、夫婦って事で受けて欲しいんだよねん、今回の依頼はさ――あ、あと場所がかなりの僻地だから、電車もバスも無いからね。レイちゃん、免許あるよね」


 えーー。


 レイは一瞬戸惑った。


「ペーパーですけど」


 ◇◇


 レイが運転が苦手なのには理由がある。


 動体視力や反射神経が良すぎて、ハンドルやブレーキの方が追いつかないのだ。


「逆に良く免許が取れたね、とよく言われるが――18の頃はまだそこまで能力が突出してなかった」


「心臓が食べ頃じゃなかった頃……」


「いまも昔も、心臓は食べ物では無いけどね」


「ん――人間も心臓は串刺しにして、レモンを絞って食すのだろう?――オジサンカブラギが好物だと言っていたと思うけれど――」


「俺の心臓はハツなの?――傑作だ。鏑木さんはアルカと気が合っていたな――うあっ!ぶつかる!」


 木の枝を削いで、カローラは行く。


 イリュージョンシティの事件以来、鏑木進一郎とは定期的に情報交換をしている。


 とはいえ、大した進捗があるわけでもなく、互いに全ての事情を打ち明けているわけでもない。


 結局、互いに求めるもの――決着点が違うからだ。


 レイが求めるのは瑠璃川エリカの消息と、連中がベリアルの鍵と言っていた心臓の情報。


 鏑木は巨大企業エンゼラグループへ一矢報いる為の情報。


 互いを結ぶのはミカエラという男。


 何かわかったら、互いにできる範囲で協力しようという、ゆるい協定のようなものが結ばれていた。


 アルカは特に鏑木に懐いていた。


 というより、彼の手土産のウェッジウッドのアソートセットがお気に召したようで、しばらくはカブラギカブラギとうるさかった。


 毎日アパートに呼べば毎日手土産を持ってくるに違いないから、何か理由をつけて呼べと、とても高貴とは思えない情け無い発言までする有り様だった。


 わずか数千円の手土産で魔女を虜にするとは、サラリーマン鏑木は侮れない。


 まあ、アラフォー営業マンにとっては、グラストンベリーの魔女も田舎町からでてきたばかりのキャバ嬢と同じようなものなのかもしれない。


「チョロ女」


 レイはボソッと呟いてみる。


 日頃、甲斐性なし、クズ、ケダモノ呼ばわりされていた鬱憤もあったのかもしれない。


「ん?何か言った――すまないが、いま地図を、あれ、こっちが北?」


 ……こんな時に限って、健気だ。


 レイは非常にバツが悪くなって、カーラジオのボリュームを上げる。


 CDもBDも絶滅しつつあるがカーラジオはいまだに安泰なんだな、そんな風に思いつつ、ようやく慣れてきたハンドルを握りアクセルを踏む。


 洋楽チャンネルから流れて来るのはa-ha。


「The Living Daylights」


(どこに行くつもりだ、運転手――)


 歌詞が問いかけてくる。ふん、こっちが聞きたいよ。


 ◇◇


 田舎道をゆく。


「アルカ。横のバッグにグミがあるから、食べていいよ」


 ようやく広くなった道。

 余裕ができた。


「な、なにっ?何か企んでいるの?」


「――いらないなら、いーけど」


「いらないわけないでしょう。おお、いちご果汁が入っている奴だ。食べてしまうからな、食べてしまうからなっ」


 グミを三つばかり口に放りこんで、幸せそうにモグモグしている。


 いやしい。


 逆にいえばそれだけ普段、ろくなものを与えていないという話なのだがーー母からの仕送りも途絶えたまま、バイト代も学費で消える現状では、我慢してもらうしかない。


 あるいは――根津の持ち込む怪異絡みの、今回のようなバイトをするしかないという事になる。


「はい、一個あげよう。あーん」


 アルカがレイの口に、一粒放り込む。

 元々レイの物なのだが、所有権はすでにアルカに移ったようだ。


「…酸っぱいな」


「それがいいのでしょう」


「ん!今回の事件が終わったら、色々買おう」


「おー!」


 曲がりくねった山道を車はゆく。

 曲はJohn Denver。


「Take Me Home, Country Roads」


 に変わった。


 ◇◇


 目的地はペンション「CA」。


 女主人と数人のスタッフのみで経営している。


 近隣の養蜂場から仕入れる新鮮な蜂蜜をふんだんに使った料理と酒が人気との事。


「CA」は、なんの略かと聞いたら、語呂合わせだとの事。


 この辺りの地名は、雁掘庭かりほるにわ

 熊野系神社にも同様の地名があるが、関係があるのかどうかはわからない。


 カーラジオの曲が変わる。Eagles。


「Hotel California」


 陰鬱で最高に美しいイントロが車を導く。


 見えてくる白い屋根。

 Hotel Californiaならぬ――ペンション雁掘庭(CA)


 新婚の夫ばかりが、宿泊後に既に4人も変死している、呪われた白い館。



 ◇◇


「いらっしゃいませ。当ペンションは、いつでもお好きな時にチェックアウトを承りますが、精算前には立ち去る事はできません」


 オーナーの青山ケイと名乗る女性が、そう言って笑い、ウィンクした。


 本家本元の悪魔的ホテルと違って、精算すれば帰れるようだ。

 良心的といえるのか。


 青山ケイは、根津が渡してくれた特集雑誌の「オーナー紹介」によれば、年齢は42。


 自然の中のペンションオーナーのわりには、少し化粧が厚い気はするが、スレンダーで、美しい女性と呼べたろう。


「1969年もの以降のスピリッツもワインもありますので、運転なさらないなら、お楽しみくださいね――ただし、当ペンション自慢の蜂蜜酒の方を、強くお勧めいたしますけれど」



挿絵(By みてみん)

まさか雁掘庭という地名が実在するなんて、調べてオドロキ。更に「蜜蜂信仰」と関わってるなどとは、少し恐怖ーー。書いてる時は知りませんでした。

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