蜃気楼の街と壊された乙女③
【Allegorical fantasy】
The Mirage City and the Broken Maiden
イリュージョンシティ
イリュージョンタワー(E棟)26階 特別展示会場
開場AM11.00〜。
現在10.25
「ま、間にあった」
亜瑠花は開演準備中の受付の女性に駆け寄った。
「あの、すみません。本日アシスタントの派遣で来ました。柚木と言います」
「柚木さま、伺っております。お待ちください」
◇◇
Mr.ミカエラ。
若く見えるが、プロフィールを見ると50歳とある。
軽くカールした肩まで伸びた金髪、アングロサクソン特有の長い鼻、二重の温和そうな青い目、薄い口髭、口元には常に微笑をたたえていた。
特筆すべきはその巨躯で、おそらく190cmはあったろう。
(こういう人の娘に生まれてたら、こんな、ちんちくりんじゃなくて、スラッとした美少女になれてたかなあ)
亜瑠花は158cm。16歳としては決して低い方ではないが、190cmのミカエラと並ぶと、まるで自分が幼稚園児になったような錯覚すら覚える。
「では、柚木さん。もう一度繰り返しますが、決して危険もないし、怖くこともない」
ミカエラは亜瑠花の肩に優しく手を置きながら、続ける。
「このビジネスが失敗すれば、我々も痛手を被るし、無理はしないからね。今日、君に降ろすのは最下級の天使だ、心配いらない」
「はい」
「既に私たちは、一つ上の大天使まで降ろすのに成功しているからね? 私の娘は、その力を今は自在に使いこなしている」
「‥‥」
ミカエラの笑みは、どこまでも優しい。
「娘は天才だったが、君だって正式な資格をえた魔女。徐々に慣らしていけば大丈夫だ。大天使の力があれば、魔女も悪魔も恐るるに足りないよーー私の提案を受けてくれて、感謝するよ」
天使の力を授けるという、誘惑にも似た提案を受けた。それは、魔女を滅したいアルカにとっては渡りに船のはずだった。
そして、バックアップしてくれるというエンゼラグループはMSCI ESG格付けAAAの巨大企業。提案者のミカエラはどこまでも優しい。
何一つ不安はない。
それなのにーー
柚木亜瑠花は今、自分が蜘蛛の巣に絡まった蝶になったかのような不安を覚えていた。
それでもーー
別に、もうどうでもいい。
天使の力が手に入らないなら、もう騙されてどこかへ連れて行かれようが、怪しげな霊媒実験のモルモットになろうが、どうだって構わない。
自分はもう、壊れているんだから。
ーー亜瑠花は、自嘲的に微笑んだ。
「じゃあ、着替えてきます。更衣室、どこですか」
「すまないが、奥の用具室を使って下さい。棚の上にアシスタント用のセパレーツがあります。サイズが合うのを使って下さい。貴重品は持っていて結構」
「はい」
用具室か。
盗撮とかされないかな。
一瞬、不安になるが、すぐにーー
「こんな貧相な体、盗撮する価値もないよね」
亜瑠花はまた、とぼとぼと歩いていく。




