ゆいこのトライアングルレッスンM——自覚
『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』のコーナー『ゆいこのトライアングルレッスンM』(むっくん)へ投稿した作品です。
ゆいこ・たくみ・ひろしの原案者は巽悠衣子さんです。
いつから俺は——
◇
「おじゃましまーす! あれ? むっくん、かなちゃんは?」
「ねーちゃん? ビターチョコ買い忘れたって出てったよ」
「そっか……」
ゆいこねーちゃんは一拍置いて、カバンの中から荷物を取り出す。
俺は読んでいた本に集中できなくなって、リビングのソファにもたれかかった。
ゆいこねーちゃんは手際良く髪の毛をひとつに縛り、エプロンの紐を背中でキュッとリボン結びして、丁寧に手を洗った。
陽光が差し込むキッチンが眩しくて目を閉じたけど、幸せそうな鼻歌がより一層聴こえるだけだったから、潔く降参した。
「手伝う」
「いいの?」
栞を本に挟み、キッチンへ向かう。
「かなちゃん待ってようかな〜と思ったんだけど、私の分はいつもと変わらないし先に作っちゃおうかな〜って」
俺はエプロンをかぶり、手を洗いながら話を聞く。
えへへと笑うゆいこねーちゃんが思い浮かべてる二人を俺は知ってる。
「いーな……」
「へ?」
「あ、や、チョコ作るの楽しそうだなって——」
「うん! 二人で作ったらもっと楽しいね!」
「……ふーん」
顔が熱くなったのは生クリームを火にかけたからだと思うことにする。
◇
「そろそろいいんじゃない?」
「うん。あ、ごめん。袖落ちてきちゃった、まくってくれる?」
俺はモカ色のセーターの柔らかい袖をくるくる巻いてたくしあげた。
「はい」
「ありがとう」
「あ。ねぇ、いつからつけてたの?」
「へ?」
「ここ。チョコついてるよ」
左頬を指差すと、ゆいこねーちゃんはお揃いだねと俺の右頬を指差して笑った。
「ほんとだ」
親指で拭うとチョコがついていた。
無邪気に笑うゆいこねーちゃんを見て思う。
いつから俺は——あなたといるのがこんなにも楽しいと思うようになってたのかな。
◇
「ひろし、たくみ、これあげる」
「ありがとう、ゆいこ」
「ありがとなっ! 嬉しい」
チョコをもらえた二人は大事そうに受け取った。
「3月14日は空けておいて。一緒にご飯食べに行こう」
「抜け駆けはずりーぞひろし! その日は車で迎えに行くからドライブしようぜ」
「だったら俺が車出す」
「悪いけど俺は抜け駆けするよ。来年もチョコ一緒に作ろうね、ゆいこねーちゃん」
それでまた、その笑顔を独り占めさせてよ。
お読みいただきありがとうございます!
「自覚」は自分のことでもあります。
大好きなラジオ『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』が本日2026年3月27日(金)最終回を迎えるとのこと。まだ信じられません。
楽しい時間はあっという間。
この時間がずっと続けばいいのに。
寂しさが、どれだけの幸せをもたらしてくださっていたか教えてくれて、感謝の気持ちでいっぱいになります。
皆さまどうぞ素敵なときをお過ごしください。
(2021年2月26日放送の『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』にて、ご自由にとのことでしたので投稿しました。もしも投稿の仕方に問題がありましたら、すぐにお知らせください。よろしくお願いします。)




