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空からの落とし物

作者: 西園寺歩
掲載日:2025/12/21

 こんにちは。ぼくはクリストファー。ぼくの家族を教えるね。おいしいビーフシチューを作ってくれるパパとどろだらけのぼくをやさしくあらってくれるママ。そして、ゴールデンレトリバーのジョン。ぼくが生まれるよりずっと前に産まれたお兄ちゃんだ。家ではいつも笑顔であったかい。だからこの家が好きだ。

 特にぼくとジョンは仲がいい。休みの日は朝から夕方までずっと外で遊び続ける。

 「ジョン、勝負だ!」

 かけっこでは、ジョンにいつも負かされる。悔しい。かけっこ終わり、ぼくに笑顔で突進してくるジョン。そしてぼくの顔をペロペロ舐める。くすぐったいって。自然と笑顔になる。晴れの日も雨の日も雪の日も僕らは遊び続けた。大きなしっぽは左右ににぶるんと揺らしている。遊ぶたびに笑顔が溢れる。そんな友達が大好きだ。


 でもひとつだけ嫌いなことがある。

 「クリストファー、ジョンの落とし物を拾って!」

 散歩の時にパパはぼくに言う。ジョンの散歩は朝と晩、2回する。そのときにジョンは落とし物をする。

 「いやだよ、きたないもん。」

 茶色くて、どこかキラキラしてる。

 「ジョンは自分で拾うことができないんだよ。生き物には出来ること、出来ないことがあるんだ。クリストファーは手を動かせる。言葉もしゃべれる。ジョンはできない。でもジョンは早く走れるだろ。みんなを笑顔にしてくれる。助け合いだよ。」

 ぼくだって早く走れる。家族も笑顔にできる。ジョンだけズルいじゃん。


 季節はすっかり寒くなって、雪が降っていたある日。ジョンをいつもみたいに遊びに連れて行こうとする。けれども元気がない。

 「ジョン!ごはんだよ!」

 大好きなごはんも食べない。しっぽも下がったまま。パパとママは今にも泣きそうで、ぼくはこの後どうなるか不安だった。何か伝えなきゃとわからないけどそう思ったんだ。

 「ジョン、かけっこは454回全部負けたよ。でも、まだ負けてない。毎日走ってるんだ。学校では一番になれたんだ。あとジョンを抜かすだけだよ。だから今からかけっこするぞ。」

 少しだけ、ほんの少しだけジョンは目を開けて、しっぽを振った。そしてぼくのほっぺをひと舐めして、目を閉じたまま動かなくなった。その日はじめて家族に笑顔がなくなった。

 「ジョンはどうしたの?」

 「ジョンはな、頑張ったんだ。楽しかった毎日を過ごして、空でお友達と楽しく過ごしてるんだ。空から見届けてくれるのさ。場所が変わっただけだよ。」

 何日か経って、ジョンのお葬式が行われた。ジョンの写真を見て、ぼくは思わず伝えた。

 「ずっと後悔してることがあるんだ。ジョンの落とし物、拾ってあげなくてごめんなさい。生きるために必要なことで、ジョンができないことをしてあげられなくてごめんなさい。ぼくはジョンにできたこと、家族を笑顔にすることができない。ジョンといっしょに走り回りたいよ。ジョン…」

 ジョンはこっちを見たまま動かない。ずっとうつむいたぼくは、外の空気を吸いに家を出た。パパもついてきた。

 「クリストファー、上を向いて!」

 ぼくは空を見上げた。満点の星空。そして星が何度も何度も通り過ぎる。

 「きれい。あれは何?」

 「あれは星の落とし物って言うんだ。」

 ジョン、空からでも落とし物するんだね。とってもきれいで、君を感じるよ。

 ぼくは前を向いた。お腹の大きいママを助けられることはないかな。

 「ありがとう!クリストファーのおかげでたすかったよ。」

 できることを自分からするようになって、家族にまた笑顔がでてきた。


 春になってぼくに妹ができた。まだしゃべれなくて、でもいるだけで笑顔になる。もちろん、落とし物はする。たくさん泣く。ぼくはその落とし物を片付ける。泣いてる妹をあやす。ジョンみたいに、お兄ちゃんとして。ジョン、ありがとう。

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