97話 メイド。マリア
──蹴散らしてくれよう。
海に生息する魔物達が、橋の上にぞろぞろと姿を現す。
境界を越える者を、拒む存在。
“海の門番”。
橋は、セレスティアの魔術により、今もなお沖に向けて作られていく。
橋の幅は100m
沖合5キロの、うねる水の竜巻まで一直線に続く道。
海を割るように。
まさに橋頭保。
巨大な橋の先。
泡立つ水面の彼方より、異形の群れがさらに上陸。
海に生息する魔物が補給であるため、その量は事実上無限。
橋に上陸する魔物に、怯むことなくグランディール兵は進撃。
魔物の群れを容易く切り裂いていくのは、レベルの暴力だ。
魔物の悲鳴が、風に紛れて聞こえてくるようだった。
地形制御を遠隔で操作しながら、セレスティアは感心する。
「さすがグランディール領兵。
橋には、一切の迎撃装置はついていません。
ゆえに橋は、人類と海の魔物達両方に、フェアに恩恵を与える。
ですが彼らは、それをものともしない。
まさに魔王の軍勢すら貫く人類の剣。
彼らは、時代を切り開いた。」
「単なるレベルの暴力だけどね。
まあ、うちの奴らなら、あの程度は朝飯前でしょ。
平均レベル30程度。
一人一人がオーガの上位種みたいなもんだし。」
クラリッサは冷静に観察し、戦況を分析する。
──まずは滑り出しは、順調。
(ここまでは計算通り。
セレスティアの化け物じみた魔力で、竜巻までの5キロの橋を一気に作成。
橋は、すぐに上がってきた海の魔物に占拠されるけど、グランディール兵の突破力をもってすれば対処可能。
だって王国最強だし。
そして不確定要素を生みかねない天候と海象の制御は、あらかじめ終わらせてある!!)
戦況は安定している。
数値は優勢で、損耗は軽微。
(兵の疲労……
橋の耐久力……
次波到達予測で、不確定要素が増幅するから……
まあ、それでも最初だけか。順調なのは……
相手の補給は、海そのものである以上は無限。
よって長期戦は論外。)
短期決戦一択
一気に決めてやる
「すっご。」
マリアは、唖然としていた。
海を割る橋は、今も沖に向けて伸びていく。
水の竜巻までの到達には、多くの時間はかかるまい。
橋の上を戦士達が貫いていく。
鎧袖一色。
折り紙をナイフで切り裂くように。
砂浜に立つセレスティアが杖を掲げると、彼女を中心に戦場全体を光が抱きしめた。
その光は、1㎞程に間延びした陣形の全てを覆い、戦局そのものをさらに塗り替える。
巨大な光る鳥が、海岸全体を優しく抱きしめるようだった。
「これがセレスティア様の支援魔術……すさまじい……」
「いえ、そうでもないんすよね。これが。」
「あ……セレスティア様。
普通に会話できるんですね。」
「そうですね。
これくらいは、いつもやってますし。
というか、クラリッサの持ってくる案件は、大抵無茶振りばかりですし慣れました。」
「お気持ちお察しします。
慣れでどうにかなるんですね。」
儀式陣の上、セレスティアがすんとしながら言う。
「出力は、段取の通りです。
橋を盛り付け用の大皿と見立てた時に、バフはオーブン。
天候操作は風味の調整。
海象操作は塩梅の調整。
海を二つに分ける調理をしている感じでしょうか。
誰だって、料理中に世間話くらいしますから。」
「な、なるほど。
勉強になります。」
──というか、聖女様、料理好きなんだ。
(というか、やっぱり例えが家事なんだ。)
マリアも準備を始めた。
具合を確かめるように重力大剣の素振りを始める。
重力大剣運用には、装着認証が必要だが、完全に満たしていた。
斬撃と重力が完全に同期している。
完全に使いこなしていると言ってもいいだろう。
今回の戦闘において、マリアに割り振られた役割は大きい。
超越種の討伐。
──お嬢様は、グランディール兵ではなく、私や≪竜の牙≫のみんなに、討伐推奨レベル60の超越種の対処を任せた。
(それは、海の魔物を一蹴するグランディール領の兵より≪竜の牙≫が、個に対しての対処に優れていると評価している事を意味している。
というか。
私ってメイドなんですけど。
なぜ強さに関して、戦を専門とする騎士より評価されているんでしょーか……)
マリアは首をかしげた。
戦場は騒がしい。
セレスティアとは、別の儀式陣。
セドリック・グランディールはそこで天候操作と、海象操作をこなす。
──さすが我が妹。クラリッサ。
(その道は嵐のごとく激しい。
ならば兄として、その一助になろう!!)
きっとクラリッサは、これからも破天荒な運命の定めに従い、破天荒な道を歩み続ける。
決して生半可な道ではないだろう。
その身を顧みず。
(というか、運命などなくても、元々その身は顧みていないのだが……よく地雷踏むし……
本当に心配ばかりさせる、困った我が妹だ。)
嵐を制御し、海象を操作することは高度な魔術制御能力が必要だが、クラリッサの歩む道に比べたら、その難易度はきっと比ぶるべきもない
魔王戦線より持ち帰られた、黒曜の魔杖の狂気じみた魔力極大増大効果を、セドリックは巧みに制御し続けた。
魔法陣により光りの祭壇となった海岸線と巨大な橋を、さわやかな風流れる青い天が見下ろす。
天候は解消し、完全に安定していた。
海は凪ぎ、暁を過ぎて青くなり始めた空が見守る。




