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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
後編。海合宿収拾編

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93話 トレザール領

寝台にこびりついた療養の香。

よれよれの外套。

そこから、血の気のない顔色を覆うために化粧を施し、

戦装束とも見紛う、貴族然とした衣装を纏う


先ほどまで療養していたとは思えないほど、軽やかにクラリッサは歩いた。


──瞳は強く、別の何かを射貫くように鋭い。

──実際、別の戦場を見ている。


海に呑まれたあの光景。

暴走する水精霊。

崩れ落ちたるシナリオから派生する絶望。


「さて。ローウェン伯爵。

本日は、取引に参りました。」


(破滅から零れるピースをかき集めて、絶望を計算式に変換し、全てを取り戻す!!)




にこっ。

クラリッサの開幕前の笑顔の牽制。


ローウェン・トレザール伯が、長卓の向こうに立つ

年の頃は、三十後半。

長い黒髪を後ろへ撫でつける。


(これが噂のクラリッサ・グランディール……

笑顔が凶器だな。

下手をすれば国が傾くぞ。)


「は……?」

そして、声にならない声が、喉から漏れる。


――ありえない。

ローウェン・トレザールは、その場で完全に固まった。


――これは、ありえない……!!


単なる伯爵令嬢からの交渉に、“この人物”がいるのはあり得ない。


(これだけは、ありえない……!!!)


「ローウェン伯爵?」

クラリッサが言う。

動かないローウェンにもう一度。


「おーい。

ローウェン伯爵?

もしもーし。」


「失礼っ……!」


ようやく視線を戻す。

そこにいた人物を、もう一度“確認”するために。


聖女セレスティア。

第二王子アルヴェルト。

二つの影。


王国の理は、神学の正統性の上に立ち、その正統性のほぼ頂点である聖女。

王国騎士団。王家の勅令。国家予算などへの直接な影響力を持つ第二王子。


ゆえに導き出される答えは一つ。


――この交渉は、教会と王国の意思である。


伯は至る。

至らざるを得ないとも言っていい。


それに目ざとく気づいたクラリッサは、手を合わせて微笑んだ。


「良かった。

察していただけたなら、戯れは終わりですね。」


政治の時間は、終わりを告げた。

伯爵である彼は、聖女と第二王子の威光に、秒で屈した。


それを後ろで見ていたセレスティアは、思ったという。


なんかずるい。






伯爵はすでに屈した。


よって領主の間は「私室」から「王命の仮設司令部」へと変質する。


壁には潮の香。

海図を壁に打ち付ける。


窓の向こうには荒海。

重厚なカーテンは、半分だけ開ける。


象徴的に玉座を配置し、伯爵の椅子を一段下げて中央卓を据える。


──権限委譲は、完了する。


クラリッサ地図を広げた。


バンッ!!


無駄に熱い。


「すいません。トレザール伯。

状況を説明しますが、内容が不敬にあたるかもしれません。

よろしいですか?」


彼は頷く。


「続けますね。

トレザール港は、近年、限定航路・中継交易・観測拠点としての価値が見直され、小規模ながらも不可欠な港として機能しています。


港町としては、地味。

交易拠点としても、二流がせいぜいといったところ。


発展が阻害される原因としては、海象と海底の地形が極端に悪い事があげられます。


そんな中、私たちは、水位の上昇の原因と考えられる、水柱への到達しなければならない。


作戦目標は3つ。

①水柱へと近づくものを攻撃する、空中回遊型大型魔物、レヴィヤタンの排除。

②止まない嵐と荒波。

③モンスターパレードのごとき魔物の群れの対処。


これらを達成し、今ある災厄に関する課題を、全て排除します。

水位上昇。交易停止。民の不安。それら全てです。」


言葉にすれば、思っていた以上に課題は多かった。

どれ一つとして生半可な課題ではない。


──それら全てをクリアした上で、そしてようやく、暴走したリーシャを止めるスタートラインに立てるにすぎない。



「通常の方法では、不可能ですな。」


そこで、トレザール伯爵がようやく発言した。


彼は、視線が集まる中で流暢に告げる。

海の専門家ならではの、要領を得た説明だった。


「現在の沖合は、水の竜巻の影響からか、三方向からの逆潮流が衝突している。

通常でも難所。現在は、その三倍以上。

嵐は続き、上空の気圧差が固定されているような、明らかな異常気象。

帆は裂け、舵は効かぬ。そのため、海上機動は成立ない。


空はレヴィヤタンが回遊。

そして、途切れない魔物の群れが、海流に沿って誘導され、港へ向かって流されている。


控え目に言って通常の方法では接近は不可能です。」


伯爵であり、海の男の、断言。

正しく現状を捉えており、決して誇張ではないだろう。


「正攻法では、死ぬということですね。

肝心の精霊の器を止める手段はなんですか?クラリッサ。

貴方の事です。当然、解決手段を用意しているのでしょう?

でなければ、わざわざ脅威を確認する意味はありませんし。」


セレスティアの質問に、クラリッサは大きく頷いた。


「どうぞこれ。

多分、これで一発。」


「羊皮紙ですね。

あなた……これ……」


セレスティアはひくついた。


その羊皮紙には魔法陣がかいてあり、複雑な幾何学模様を描いていた。

古語の符が星座のように散りばめられている。


セレスティアは思案する。


──確かにこれを使えば、半精霊と化した者も以前の状態へ、引き戻す事ができるかもしれない。


だけど、教会の教義に触れている。

ぶっちぎっていると言ってもいい。


必要は法をもたず。


とはいえ確実に、一発破門案件。


「ねえ、クラリッサ。あなたこれ、いつの間に……」


クラリッサは、にこにこと、無言を通した。


言外に言っている。

──破門でもなんでもすれば?

──その代わり、世界が終わるけど?


「……まあいいです。

それで?肝心の水柱への接近の手立ては?」


「準備を最速で整えて、正面突破。

魔王戦線の時と同じよ。」


「つまり、マンパワーですね。」


「効率的でしょ。」


それ以外ない。

パワーは全てを解決する。


クラリッサは、拳を握っていた。


──ついでにトレザール領の整備も行い、グランディール領との結びつきも強めてやる。


(戦争の知識もないのに、領地戦で私に刃向かったことを後悔させてあげるわ!!

リーシャ!!)


リーシャは刃向かってなんかいないけど!!

ただ水精霊に飲まれちゃっただけなんだけど!!!


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