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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
中編。夏合宿

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88/128

87話 二つのトリガー

高位魔族の瞳が、冷たく燃えていた。


「人間が……生意気な。

魔族より高い所に立つとは。

レヴィヤタン、行け。」


巨躯が、命令に応じ、奔流の中から跳躍する。

巨躯は風を裂き、空間を制圧する。



水精霊の化身ともいえる水龍が、リーシャを守るように召喚されていた。


その体は水。

全長は、あまりに膨大。


巨大な水の竜は、レヴィヤタンを巻き込むように、常識外れの力で襲いかかる。

鱗は波の奔流、

牙は潮の力、

吐息は冷たき霧雨。



高位魔族が歯噛みをするように、リーシャに魔術を放つ。

詠唱は黒紫に輝き、魔法陣は幾重にも重なり、毒のごとき濃密な魔力が凝縮する。


リーシャには、深海に落とされた火種のように何も効いていない。


「何よ。この女!!!」


「ゔゥゥゥゥ■■■■───ァァァァァァァ!!!!!!!!!」


高位魔族の怒声

帰ってくる咆哮は高位魔族の怒声を打ち消す。


深海の叫び。

海そのものが口を通し、世界に轟く。



──魔力の規模が明らかにおかしい!?

(戦場を塗り替え、常識を押し潰すほど膨大!!!

空気を、岩を、血潮を押し潰す奔流!!!)


リーシャの髪が、静かに浮かび上がる。

潮風などないのに。


内には荒れ狂う嵐。


リーシャは明らかに暴走していた。





洞窟の天蓋が砕けていたので、空より落ちる海が確認できた。


マリアは、素早く周りを確認する。


アルヴェルトは膝をつき剣を支えに、辛うじて姿勢を保つ。

その周囲に、騎士達。生きている。


────圧力から身を隠せ。

(……洞窟の中は論外。

水圧は奥へ奥へと押し込み、流れ込む水で空気溜まりを奪う、棺桶。)


「マリア、上だ。」


アルヴェルトの言葉。

高レベルの恩恵を用いて、マリアは洞窟の天井より空いた穴より外へ出ていた。

岩壁を蹴り、天井の裂け目へ。


──空に海……。まるで世界の終わり……


(これをリーシャちゃんがやったんだ……

クラリッサお嬢様は、しきりにリーシャちゃんを気にしていた。

これを予見していた……?)



洞窟は山にある。

山の斜面に足を踏み入れれば、あとは衝撃を受け流せる場所を探すだけで済む。


洞窟を抜けた先、鋭く尖った岩稜帯の上。

巨岩が積み重なる谷間。


──時間がない。


斜面の森。

素直だがこれが1番いいだろう。


「山頂側へ移動。

斜面を使う。直撃を受けない角度に。

耐えるな。やり過ごせ!!

伏せろ!重心を下げるんだ!」


やがて海がおちる。


騎士達の腕も、王子アルヴェルトの肩も、濁流に揉まれながらも繋がれたまま。

水は轟き、岩を揺らす。


海の水がはけるのを待ち、マリア達は、なんとか生存することに成功した。


「殿下!!大丈夫ですか!?」

「ああ……」


騎士達。アルヴェルト。

次々と身を起こす。

みんな生きている。


上空からの海は、無人島そのものからは、わずかに逸れていた。

それも大きかった。


岩は砕け、洞窟は削られ、地面は泥濘と化していた。


「お嬢様……。」


高台から見渡す。


砂浜に火がたかれていた。

脇に人影。


クラリッサだ。




トーチの魔術を使えば、火を起こすことはできた。


クラリッサは砂浜に膝をついていた。


濡れた金の巻き髪は重く、細い首筋に貼りついている。

普段なら香油と櫛で整えられる髪だが、今は塩を含み、硬い。


「しょっぱい……派手に塩水のんだ……」


クラリッサの声は、掠れていた。

海水を飲み、喉は痛んでいる。

細い肩が震えた


木々の表面は濡れている。

表面は水を含み、火を容易くは応えない。

だが中を割り、乾いた芯を使えば、火を起こすことは可能だった。


白い手が、容赦なく木を砕く様は、令嬢のそれではなく、ボーイスカウト。

手刀で木を割りまくり、火を大きくしていると、マリア達が合流してくる。


泥と水を纏ったアルヴェルト。

騎士達もまた、傷だらけだが、健在。


「お嬢様……リーシャちゃんが。」


「わかってる。」


クラリッサの姿もまた、大海嘯を泳いでやり過ごしたのでボロボロ。

衣服は裂け、袖口はほつれている。


岩に打たれ、それでも浮上した。

そしてクラリッサは海を抜け、マリアと合流し、歯噛みをする。



クラリッサは、ここにきて思い出していた。


──ドキドキ海合宿編。


選択肢と好感度で分岐する、軽やかな青春の娯楽イベント。

クラリッサの死亡するルートはクリアした。


リーシャが誰とも恋愛フラグを立てない場合、クラリッサが遭難死する分岐。


それについては、合コンイベントを強制発生させ、恋人フラグを世界に承認させ、死亡回避。


これは計算通りだった。


だがもう一つあった。


水精霊制御失敗ルート。


これは、リーシャが水精霊の力に飲み込まれ、アルシェリオン王国そのものが滅亡するという、おふざけみたいな遊び心でつくられたエンドだ。


成立条件は、リーシャが初期レベルである事。


水精霊を制御できず暴走。

神格化。

そして王国滅亡。


ゲーム進行において、これはきわめて発生しにくい状況下にある。

意図的に狙わなければ発生しない。


ゲーム開始時点のチュートリアルで、示されるレベル上げ。

そのレベル上げを示すカーソルをわざとスルーして、シナリオで魔物と戦っても、わざわざ教会で祝福を受けてレベル上げをせず、縛りプレイの先に起きるイラスト収拾用のエンドだ。


リーシャは夏合宿で魔物を倒したが、教会設備でレベルをあげていない。

そのレベルは、初期レベル10。


初期レベルのまま。


つまりアルシェリオン王国破滅トリガーを踏んだ。


クラリッサは歯を噛みしめる。


──なんで気づかなかった……


(リーシャは、水精霊の力の奔流に乗っ取られ、意識はもう焦点を持たない。力の暴走に抗えない状態にある。

あの空に満ちる海は、演出じゃない。

エンド分岐の確定演出。)

 

クラリッサは悟る。


──失敗した。全て滅ぶ。

(アルシェリオン王国滅亡ルートに入った。

全てが海の藻屑と消える。

……終わってたまるか。

計算しろ!!盤面をひっくり返せ!!)


この世界は、ゲームのようにシナリオに沿って進む。

クラリッサは、物語に愛されないポジション。


──分岐は認識できている。

──物語を書き換えろ。






「クラリッサ様……あれ……」


マリアは、遠くを見た。

指先が、震えながら遠くを示す。


海が膨張し、島を囲む水平線が盛り上がる。

世界の縁が、せり上がる。


島ごと飲み込む壁のように。


クラリッサの喉が鳴る。

(……最終段階。)



津波だ。


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