84話 イベント攻略道中
思いのほか地上付近にレヴィヤタンがいたという事もあって、クラリッサは、走り幅飛びをする事を躊躇わなかった。
数刻の眠りによって、軋み、折れかけた繊維は、再び火を灯している。
クラリッサは肉薄する。
トルク。
圧縮。
解放。
そこまでを一息。
それだけで十分
重力を裏切り、クラリッサは弾丸となって魔族へと肉薄する。
──うげえ。乳酸たまりすぎて、膝折れそう。
(まあ、なんとかなるでしょ。
うしっ。届いた。)
雲海を泳ぐ巨獣の鱗をつかむと、ロッククライミングの要領で一気のぼり詰める。
たどり着いたクラリッサは、屈伸をする。
体の動きを確かめるためだ。
そして頷く。
血流。
呼吸。
震え。
筋力。
──よし。コンディション確認は終わり!!!
(控え目に言って体調最悪!!
レストタイム推奨!!!
早く休ませてくれ!!)
内心を隠すようにクラリッサは笑う。
「さっき、空から砲撃すればよかったのに。
そうすれば私達、成す術がなかったおもうけど?」
「ゴキブリは叩いて潰すに限る。
どこに潜んでいるか、わからないから。
向かってくるなら都合がいい。準備を終えたなら叩き潰す。
絶対に逃さない。」
「同感。スプレーかけても、ゴキブリって時間経つと動くものね。至言ね。」
「ゴキブリが何か言ってるわ。
惨たらしく殺してやる。」
クラリッサは内心で頷く。
――なるほど。
(空爆しなかった理由は、慢心じゃない。
見えない何かを残したままの広域殲滅は、不確定要素を増やす。
だって単なる打撃で、通常はゲロ吐くほどの破壊力は生まれない。
通常ならば。)
魔族は腹をさすっていた。
まだ痛むのだろう。
──本来の盤面はこうだ。
(レヴィヤタンは、制空権そのもの。
その巨体が動くだけで、空域は魔族のものとなる。
対してこちらは、消耗と睡眠不足と乳酸に満ちた状態。)
──うん。つまり普通に考えれば詰み。
──慎重になり過ぎたわね。ありもしないカードを想定して、勝機を逃してる。
冷ややかな愉悦が、クラリッサの胸奥でひそやかに咲く。
クラリッサは、地面に手をつき、指を食い込ませた。
つまりレヴィヤタンの背中へ。
「――揺らすわよ。」
ドゴオォ!!!!
得意の地形破壊。
構造を読み、最も脆い節を穿つ。
一点から生まれた振動が、波紋のように暴力的に内部へと走り、大陸がたわむようなレヴィヤタンのみじろぎとともに、クラリッサの身体は宙へ投げ出された。
同じように宙へと投げ出された、高位魔族の首元を、雷光のような速度で掴む。
「は、離せ!!」
「釣れないじゃない!!
ランデブーといきましょうよ!!
高みから落ちるのは、嫌いじゃないでしょう!!?」
「誰が貴様などと!!
レヴィヤタン!?!?今は待て!!」
レヴィヤタンが見境なく暴れはじめる。
己を揺らした存在を、ただ排除せんとする本能の暴威。
クラリッサを狙って。
つまり高位魔族を巻き込んで。
高位魔族の雷の魔術が、至近距離でクラリッサを襲う。
雷蛇が肉が焼き、神経を叩く。
「そんな電気ショック。
マッサージにしかならないから!!」
「なわけない!!離れろ!!
離れろと言っているだろうがァァァ!!」
「離せばいいじゃない!!
ほら、あなたのペットの攻撃がくるわよ!!」
返す声は、風を蹴る怒号。
その瞬間に閃光。
レヴィヤタンのビームが、一直線に2人を貫いた。
クラリッサは、魔族の身体を軸に、強引に回転し、盾にする。
高位魔族の、多層の魔法陣と幾何学の鎖に阻まれ、光条はわずかに角度を変え、夜を裂いて逸れる。
闇が焦げ、空が悲鳴を上げた。
2人は落下し、2つの影がもみ合うように砂浜に叩きつけられ、クラリッサはすぐに立ち上がる。
魔族は気づいた。
布が手首に繋がれていた。
クラリッサの制服が破られ、それを使用されていた。
これでは飛んで、距離を離す事は出来ない。
──と、とんでもない女。
──意地でもこれでごり押す気だ。
魔族は戦慄していた。
戦術上、確かにそれは成立していた。
にもかかわらずそれをやるか。
レヴィヤタンの攻撃は、魔族といえども直撃すればただではすまない。
レヴィヤタンの攻撃範囲は広い。
怒りを煽り、
攻撃を誘導し、
その範囲内で戦闘を継続する。
巧に戦闘調整を行い、レヴィアタンの攻撃から盾になるような位置に配置する。
下手をすれば、道連れ。
頭がいいのか悪いのかよくわからない作戦。
砂浜に魔力が奔る。
空が裂ける前兆。
レヴィヤタンの喉奥で、嵐が圧縮される。
雷撃。魔族からの魔術。落下。
それら全て、クラリッサにしっかりダメージは入っている。
効いていないように見えるのは、たんなる痩せ我慢だ。
だが不敵に笑う。
──いい気味。
先刻は絶望の淵だった。
そこから希望がなかったところからイーブンだ
レヴィヤタンの怒りに攻撃がふり注ぐ中で、彼女達の戦闘の行方は揺蕩う。
──先行するリーシャ一行
その道は、死で飾られていた。
無造作に積み重なる魔物の亡骸。
その量は過剰で、その質も異常。
「さすがです。お嬢様……3年前より、格段に研ぎ澄まされている……」
「なにそれ。殺戮機械の事!?」
「いえ、お嬢様のことです!」
「ですよね!?」
(……でも、これをクラリッサさんが行ったと、受け入れ始めている自分が怖い!!!!)
生き残った魔物が、影から這い出る。
飢えた牙。
濁った瞳。
最後の悪意。
骸狩虎。
生き残った魔物に対して、マリアが剣閃の銀光を走らせ、露払いをしていく。
だが、リーシャの目には結果しか映らない。
獣が跳び、銀光が走り、血飛沫が時間差で空に咲き、マリアの剣閃が残像だけを置いていくという過程があったはずなのに。
なんかマリアは、普通にリーシャの隣で走っていた。
「リーシャちゃん。魔力は!?」
「まだ大丈夫!!
……てゆーか本格的に動きが見えないんだけど!!!」
「私が道を切り開きます!!走って!!」
「うん!!!」
──最速で終わらせてみせる!!
(だって動きが全く見えないから!
始まってるか終わってるかもよくわかんないから!!
もはや一刻も早く終わらせるしかなない!!)
リーシャの杖に導かれ、一向は進む。




