83話 作戦
すでにクラリッサのまわりには、マリア、リーシャ。
そして第二王子アルヴェルト。その騎士達がいた。
クラリッサは頷く。
──みんな揃ってる。悪くない。
(島は、見えぬ檻で閉ざされていた。
理不尽という名のイベント強制力が、クラリッサの脱出の可能性を頑なに拒否していた。
リーシャがアルヴェルト殿下とフラグ立てた。
だから結界が解けて、マリアが駆けつける事が出来たんだ。)
掛けに勝った。
恋慕という名の細い糸が、運命の結界を裂いた。
アルヴェルトとリーシャの邂逅が、島を封じていた水の檻を揺るがした。
恋のフラグが立てば、ストーリーが進む。
その法則に従い、島を封じていた見えぬ檻がわずかに軋んだ。
恋は、世界を書き換える。
救出フラグが立ち、結界は“絶対”ではなくなった。
眠いけど。
──あとで絶対に、下半身をガクブルにしてやる。
(ある意味ではそれが、一番重要といえるだろう。どう考えても、そこにつきる。)
第二王子アルヴェルトと目が合う。
「殿下。いつも本当にすいません。厄介ごとお願いしちゃって。」
「クラリッサ。君にはいつも驚かされるよ。だがまだ終わっていない。そうだろう?」
「はい。説明します。」
クラリッサはイベントを説明した。
ザ・レイディーファーストキスのファーストイベント。
★きらきら★♪ときめき恋の夏合宿編♪ ♥〜ドキドキが止まらないっ〜♥。
における中核であるクラリッサ行方不明イベント(※長い)。
その甘ったるい舞台装置は、そのシナリオを進めた。
──リーシャが、ここにいる事が決定的。
(リーシャの覚醒イベントの発生条件も同時に満たしたからだ。
夏合宿は、リーシャ最初の、強化イベント。)
仕組みは、難しくはない。
リーシャは天才だ。
その天才性と精霊への親和性をもって、この島に封じられし水の精霊とコンタクトをとり、契約する。
契約は力を生み、強化された水精霊の加護は、蒼黒の巨影すら縛り、魔族の術式すら飲み込む。
──つまり覚醒イベント発動後、レヴィヤタンも魔族も処理可能。
そして戦闘は、演出となる。
勝利は、既定路線。
そしてエンディングへ。
つまりクラリッサは死にかけたが、リーシャが覚醒イベントをこなせばイベントはクリアできる。
これが物語の構造。
同時に懸念点も解消されている。
クラリッサが生存したまま、リーシャがここに到着した。
クラリッサは生存。
リーシャは到達。
つまり、クラリッサ遭難における死亡ルートは消滅した。
世界は、クラリッサの生存を選び直した。
つまり、あとはこのクソ長かった、どこか甘ったるく装飾されたこのファーストイベントを収拾させるだけだ。
つまり、あのクソ魔族とクソデカ鯨をなんとかすれば終わりだ。
──あと、さっきは、眠気と疲労でらしくもなく熱くなってしまった。
怒りは、コルチゾールを分泌させて筋肉によくないからね。
気を付けないと。
クソ女なんて、なんてはしたない。
なんと粗野で、なんと著しく品位に欠けている。
白磁の器に墨を零すようなものだ。
てへ。クラリッサ失敗。
クラリッサはテヘペロをした。
全ての説明を終え、アルヴェルトは頷いた。
「理解した。
つまりリーシャがこの地に眠る水の精霊と契約すれば、魔族を撃退できる。」
「そういうことです。二手に別れましょう。
わたしはあの空のやつを足止めします。
調子は悪いけど、なんとかなるでしょ。
水精霊はリーシャ。よろしく。」
「いや、あの……無理。」
常識的に考えて、ぶっ飛んでいると言えるだろう。
「リーシャ。
教会が誇る聖女。その聖女セレスティアの啓示にあったの。
啓示に対する説明や質問は、時間がないから後。
精霊は休眠状態にある。
それを起こせるのは、聖女としての素養を持つリーシャだけ。
そしてそのリーシャが聖女としての力を覚醒させるトリガーは一つだけ!!」
「意味が……クラリッサさん!!いきなりそんな事言われても、私にはわからないから!!!
無理だよ!!
私、なんでこんな所にいるのかもよくわかってないのに!!」
「リーシャ聞いて!!
混乱してるのはわかる!!でも聞いて!!
このままレヴィヤタンが暴れたらアルシェリオン王国は崩壊!!みんな死ぬの!!!なんとかするしかない!!それができるのはリーシャしかいない!!」
「な、なんで私が……なんで私なの……!?」
「それが神の啓示だから!!!
今代の聖女セレスティアの啓示にあるのよ!!『アルシェリオン王国に光あれ。』それはあなたの事だと私は思う!!」
(リーシャがザ・レイディーファーストキスの主人公だからだ!!!)
「仮にそんな力が私にあるとして、どうしたらいいかわからない!!」
「愛よ!!!」
「愛?」
「ピンチを乗り越えるのはいつだって、愛に決まってるから!!!
いい!リーシャ!!水精霊の元へいき、愛を示せ!!
それがこの国を救う唯一の手段だと知りなさい!!!時間は稼ぐから!!!」
「愛ってそんな便利なものじゃないと思う!!」
「いいから、精霊の前でアルヴェルト殿下とイチャコラしなさい!!
愛なんてそんなもんだから!!!」
「無茶苦茶じゃん!!」
「啓示なのよ!!!時間がないの!!ダメだったら次を考える!!はやく!!!」
「わ、わかったっ!!」
具体的に取るべき行動がわかったからか、リーシャは走っていく。
迷いを振り切るように砂を蹴った。
アルヴェルトは、クラリッサに一瞥だけして頷く。そしてリーシャを追い掛けていく。
マリアも護衛だ。
静寂が戻った砂浜で、クラリッサは思い出していた。
ここでリーシャが水精霊の力と同調できないと、死ぬ。
というかバッドエンドへ突入して、国が亡ぶ。
──まあ、いい。
(運命がどちらに転ぶかは、まだ決していない。
とりあえずメインディッシュの時間だ。)
空よりレヴィヤタンが姿を現していた。
巨大な鱗は月光を鈍く反射し、その巨躯は、空そのものを歪めている。
高位魔族の姿も見える。
冷たい微笑を湛えた、異界の貴族。
残酷さすら、芸術品のように洗練されている。
クラリッサは見逃さなかった。
高位魔族は、お腹をさすっていた。
その立ち姿はあまりにも端正が故に、逆に発見は容易だった。
「悶絶は終わったのね?
いい顔で哭いてたわね。
ホントの羽虫みたいに。」
「殺す。」




