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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
中編。夏合宿

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82/129

81話 マリアが到着してぶん殴るまで

躊躇はもはや贅沢であった。


洞窟は深く、湿り気を帯びた闇が肺にまとわりつく。

滴る水音は、まるで死神の指先が時を刻むがごとく、冷ややかに反響していた。



魔族は影を纏い、額には二本の角。

瞳は赤く、背には翼。静かに嗤う。

その姿が言外に告げている。逃げ場はない、と。


──自分を俯瞰しろ!!逃げ場など、最初からない!!


(呼吸、乱れ。

視界、狭窄。

筋繊維、過負荷。

覚醒時間、臨界超過。)


戦力評価。

──すでに後がない。


(コンディション、万全時の1~2割。

瞬間出力のみ6割まで上昇可能。

持続時間、極短。

回避性能、著しく低下。

被弾許容量、極小。)


結論。


長期戦、不可能。

持久戦、論外。

最適解。


――初撃全振り。


立ち止まる事は。死の宣告を意味した。


ゆえに。

クラリッサは、奥に立つ高位魔族へと。全力で踏み込んだ。




岩床がひび割れ、衝撃が洞窟を奔る。

骨を軋ませ、腱を悲鳴させ、命そのものを推進力に変えるような踏み込み。

血を吐くような思いで放たれた、魔族への全力の一撃。


拳は流星。

衝撃は、岩をも砕くほど。


対して魔族の纏う結界は、光り輝く盾。

蒼白の光が円環を描き、拳を受け止める。


塵と光の線を描きながら、派手に吹き飛んだが、衝撃は通っていない。

衝突の衝撃で洞窟の壁が一部崩壊する。


──拳が、届いていない。

──結界を砕けなかった!!!


そして魔族は何事もなかったように起きてくる。

余裕すら浮かべながら。衣に塵を払い、余裕すら滲ませ。まるで夜の淵から響く悪夢のように。


「せっかちね。」


焦りがクラリッサの胸を刺していた。


──うまく体重が乗らなかった。

(あんな軟弱な結界一つ破れない!!

踏み込みが浅かった!!へこむっ!!

勝率は、深淵へと沈んだ!!)


「信じられない。

本当に人間?

生意気。絶対に惨たらしく殺す。」


それが言った。

クラリッサは拳を構えつつ、唇を薄く歪める。


「ウケる。羽虫が吠えてら。」


絶望を嘲笑し、首を鳴らす。

残ったのはただ一つ――戦意。筋トレでも最後に頼るもの。つまり気合。

それら全てを握り込むように拳へ。


そして枯れた声を吐く。


■■■■ーーーー!!!!


迷いを削ぎ、恐怖を砕き、精練された刃のように覚悟を研ぎ澄ます。

そうしなければ、重量には克てないから。





死が、洞窟の奥底で燃えていた。


高位魔族が指を鳴らす。

空間が裂傷のように口を開き、異常種を含む魔物が次々と這い出る。


鋭い衝撃が彼女の頬を裂いた。血が飛ぶ。

だが同時に、その爪を振るった魔物の喉は砕かれ、絶命の音を立てて崩れ落ちる。


──秒で死ねる。これ!!


(包囲。

多方向同時攻撃。

回避限界、接近中。

数。質。圧が増してる。

増援は不明。おそらくは無限。)


「やるじゃない人間!!

だけどいつまでもつかしら!!!」


言葉の通り、長くは持たない。


攻撃は重く、直撃すれば、クラリッサにダメージは蓄積する。

積み重なれば、足がとまる。

あとは終わりまでひた走る事になる。


──止まれば死ぬ。なら止まるまで走れ。


ちらりと状況を確認する。

取り巻きの処理は続けており、床には積みあがる残骸。


敵が減らない。

続々と追加投入され戦場を満たす。


──わかっている。これは理不尽なイベント戦だ。

おそらく無限沸き。

馬鹿げた強さを宿すボスに、その異常な強さの取り巻き。

倒しても、死しても、また現れるのだろう。


結末は二つ。


クラリッサが、死ぬか。

あるいはフラグを満たして、結界を解除するか。


そのフラグとは、リーシャの恋愛フラグだ。

リーシャが誰かと恋人になる事が、戦いそのものの鍵となる。


戦いの趨勢が、他人の恋で決まる。


──冷静に考えるとあまりに滑稽で馬鹿げてる。

けど、まあ、やれるだけやってやる。


魔族か、レヴィヤタンのどちらか、もしくはその両方を処理するまで戦闘は無限に続く。




配下の魔物を全て処理する。

惨殺された死体が、戦いの余韻と血の香りを満たす。


「人間にしては頑張ったわ。ほめてあげる。」


「……ぜぇ……ぜぇ……

とりまきに終わりあるんじゃないのよ……いいなさいよ……

最後までやっちゃったじゃないのよ……

……ぜぇ……ぜぇ……」


「もう、限界みたいね。オーガみたいな人間。

ううん。

オーガよりしぶとい。」


「あんな……軟弱な、筋肉と一緒にすんなっ……!!」


言葉だけは精練された刃のように鋭い。


場所は移動していた。洞窟の外。


そして、魔族に制御され、深い青の艶やかな鱗をまとう空飛ぶ巨鯨が首をもたげていた。


討伐推奨レベル60。

レヴィヤタン。


青い光が充足していく。


クラリッサの膝が折れる。

膝が悲鳴を上げ、砂や岩を噛みしめている。

自分の足ではないかのように、動かない。


──オールアウト!?!?

このタイミングで!?!?

まずいっ、立ち上がれない。


(本格的に疲労だ。

立てない。終わる!!)


「思いのほか楽しめた。ゴキブリ。」


「お嬢様!!!」


すんでのところで、マリアがクラリッサの体を抱えていた。


レヴィヤタンからのビームが、すさまじい光とともに地形を洗う。


「マリア……

助かったわ。間に合ったのね。」


「はい!!!みんなも来てます!!!」


「マリア!!!

とりあえず、あのクソ女の所に私を投げて!!全力で!!!今あいつはこっちを見失っている!!!今なら届く!!!」


「え……投げる?」


「そうよ。絶対にほえ面かかしてやる。

あのクソ女のところに全力でぶん投げて!!!」


「わ、わかりました!!!!」





マリアは、全力でクラリッサを投げた。


汗と血に濡れた顔を上げ、目に炎を宿し、クラリッサは弾丸となった。


「いいように、やってくれたわね!!この変態蝙蝠女!!

露出度多すぎなのよ!!!

水着きてれば殴られないっておもわないことね。私はジェンダーレスを体現しているんだから!!!

ジェンダーのコンプラは私の前には無意味なんだから!!!!」



ストレスが溜まっていたので、口撃がとまらない。


そして。


──どごおおお!!!!!


入った。今度こそ。

血のように熱い怒りを乗せて。


「宇宙開闢と等しい私の怒りパワーで、未来永劫、腹を殴られた腹痛に悶え続けろ!!!!」


オーガの内臓すら破壊する腹パンが、高位魔族に直撃する。


死ね。


いや、死すら生ぬるい。

絶対に殺す。

殺して尽くしてやる。クソ女。

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