62話 お料理回
次の学校の休日。
意気投合した彼女達は、みんなで集まり、今度は料理をすることになった。
その日、リーシャは決意を新たにしていた。
なぜなら以前に集まった時は、クラリッサの行動を受け止めきれず、リーシャは戸惑ってばかりだったからだ。
一体何度、それをしてしまったのだろう。
言葉を復唱するだけのリアクションを行ってしまったのは。
コミュニケーションにおいて、それは禁忌にも等しい!!
復唱には、疑問と戸惑いしかないからだ。
そこに興味はない。
だから、今日はちゃんと交流するのだ!!
リーシャはぎゅっと拳を握る。
(クラリッサさんが、水とか言っても頑張ってみせる!!)
クラリッサは強く頷く。
「調理道具、あと解体設備の為の環境は、一通り揃ってるわね。それじゃやりましょう。神聖なる食事の為の儀式を。
それすなわち、解体。フィールド・ドレッシングね。いわゆる。
野外じゃないけど。」
(※Field dressing……野外での解体)
早速爆弾が投げ込まれた。
──ま、待って。
(……解体設備?……フィールド……何?
ま、まずい。だめよリーシャ。
突っ込んじゃ負け!!!耐えて!)
リーシャは、事前にリサーチを行い、ケーキの材料を買ってきていた。
リーシャはお菓子作りには自信があった。
プランも完璧だった。
女子ならば、美味しいお菓子を食べれば、もっと仲良くなれるはずだからだ。
甘いものは正義であり、人間関係の万能薬。
それが女子における黄金率。
ケーキを作るのだ。
どんなことをしてもケーキを作るのだ。
そしてクラスの女子界隈における、自分の立ち位置を明確に示すのだ。
「早くタンパク質も摂取したいし、説明してる時間ももったいないわね。
早速、解体処理に入りましょう。
すでに作業台、排水、刃物の配置の確認は終えているから。
全て問題なし。
刃物の扱いに慣れてるなら、心強いわ。
今日のために猪を倒してきたの。」
あまりに奇怪な情報量が多い。
リーシャは、秒で固まった。
(だ、だめよリーシャ落ち着いて。
ここで戸惑ってしまっては、前回と全く同じになってしまう!!)
踏み込め!!
たとえ会話のチキンレースで敗北して、空気が凍りついても踏み込むのよ、リーシャ!!行け!!
リーシャは心の中のエンジンを、全力で回した。
「へえ!!おもしろそう!!
私でも手伝えるかな!クラリッサさんは、何をつくるの?」
「メニューはまだ決めてないわ。
でもマリアから聞いてる。リーシャは料理が得意なんでしょう?
折角みんなで集まるのだから、材料だけは潰しがきくものを用意してきたの。
きっとリーシャも気にいると思う!
さあ、解体処理に入りましょう。」
リーシャは、笑顔を作りながら冷や汗を流していた。
──てーか今更だけど解体って本当に何よ?
猪ってなんなのよ??
なんで乙女の集まりに、そんな世界の終わりみたいな単語ぶちこんでくるのよ!!!
(ま、まずい、
ツッコミがおいつかない。)
広々とした厨房には、業務用の大きな作業台がいくつも並んでいた。
クラリッサは調理場を一瞥し、満足そうに頷く。
パチンっ!!
クラリッサが指を鳴らすと、扉の向こうに控えていた騎士たちが、ライウェイと言いながら出現した。
無駄のない足運びと無言の連携で、彼らは迅速に大きな布で包まれた“それ”を運び込み、調理台の近くにそっと置く。
そしてそっと置いた瞬間。
ドゴオ……
静かに置いたにも関わらず、それは、圧倒的な質量を想起させた
そしてすごく獣臭い。
すごく。
いや。無理。
「あの、クラリッサさん。
これって……なんなの?
非常に大きいような……」
もうだめだった。
その視覚的効果の前に、一瞬でリーシャは敗北した。
「え?
単なる大きな猪よ。よく走ってるでしょ?
今朝森に出て締めたのよ。」
名称:森猪(大型個体)
重量:約600kg。
――狩猟者コメント:今日の料理には、少しだけ、贅沢すぎるかな。まあいいや。
両手を胸の前で合わせて、クラリッサは微笑んでいた。
花のように。
完全に固まってしまったリーシャに、クラリッサは強く頷いた。
「それに大丈夫。ちゃんと殺したてだから。新鮮よ?
腐っていないから。鮮度Sって感じ。」
リーシャから、だらだらと冷や汗が流れ落ちた。
へーそーなんだー




