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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
荘厳の議会

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57/80

57話 一時、別れて

グランディール領に馬車が到着した。

その馬車はこれから、魔王戦線の最前線まで、一気に移動する。


乗客は聖女見習い――クラリッサ・グランディール。

 

――ゲーム開始は3年後。

(とにかく魔王戦線を、可及的速やかになんとかするしかない。

そして破滅フラグをなんとか潜り抜ける。

そして――夢にまで見た筋トレ生活に入って見せる!


ボディビルの世界大会、オリンピア――それを企画し、その頂に、自らの存在を刻むまでは、止まれない!)


運命がきっとゲーム開始の地点にクラリッサを導くだろう。

たとえそれが、偽聖女の死亡フラグが立ち、行く先を暗雲が覆おうとも。

ゲームのオープニングには、クラリッサはいなければならない。



ゲーム画面的に。







馬車の前に立つクラリッサを、マリアはじっと見送っていた。

だが、マリアだけではない。

ほかにも多くの人々が、見つめている――まるで、英雄の旅立ちを見守るかのように。


クラリッサは、いつもの軽口を混ぜて言った。

「しばらくお別れね。マリア。

ミスってしまったから、聖女候補よ。

最悪よ。筋トレできるかなー。やだなーカタボリックしたら。」


「お嬢様。」


「マリア。そんな顔しないで。多分、15歳までには戻ってくるから。3年くらいかなあ。」


「なんでですか?」


「運命だから。」

(──ゲームが始まるのは15歳の、学園の入学式だからです。)


「神の啓示ですか?」


「まさか。知ってるでしょ。私にそんな力がないってことくらい。

私は戻ってこないとならないの。ここに。絶対に。

それまでグランディールをお願いね。マリア。」


「お嬢様。実は私、筋トレに興味がなくて、メニューもろくに覚えておりません。言われた通りに動くことしかできません……!」


「羊皮紙に書いてあるから。

あとバルド・ガルディウスを置いてくから、彼から教わって。

というか手紙を送って。彼の筋トレメニューを。」


「ところでお嬢様。お嬢様のレベルって。」


「5だけど?」


「……そもそも、お嬢様がレベル上げれば良かったんじゃ。」


「筋トレできなくなるから絶対に嫌!!ただでさえ頭のおかしい重量なのに!!!重りどうするのよ。バーベルのバーがもう耐久力限界なのよ!!!


「自覚なさってたんですね。

もしかして、あの、もしかしてなんですけど、レベルを上げたくないから、武術大会の件、全部私に任せたとか。

だって考えてみると、お嬢様が変装するとか他にも手段が……」


「……」


「お嬢様ああ!!!」




馬車の脇に立つエドワードは、影の中で静かに佇んでいた。


「父上。

思いの外大事になってしまいました。このクラリッサ、一生の不覚であります。」


「お前、仮に全てがお前の目論見通りに進んだら、どうするつもりだったのだ?」


「美容革命の利益で、教会勢力の買収に走るつもりでした。」


「……」


「この恨み、絶対忘れない。

レオナールめ!!!あとエルンスト!!」


──そうじゃない。

相対することは絶望と等しいと言われた魔王については、倒せる前提なんだなと、その時、エドワードは遠くを見ていたという。


魔王と相対することではなく、目論見通りに教会勢力を買収できない事に腹を立てているんだー。




アルヴェルトは、静かに風を受けながら、淡い光に輪郭を照らされていた。

その瞳には、険しい表情と、どこか少年のような不安が混ざっている。


「殿下。申し訳ありませんでした。」

「何を謝る。」

アルヴェルトのクラリッサに向ける視線は、誓いのようにまっすぐで、しかし少しだけ震えており、そしてどこか悔恨の影もあった。


「殿下との婚約は難しそうです。」


「すまぬ。力が足りぬばかりに。筋トレの大会どころではなくなってしまった。」


「婚約は破棄してしまっていいですよ。

事実上、婚約破棄みたいなものですけどね。」


「破棄はしない。生きて帰ってきて、僕を王にするんだろう?」


「殿下。

初めてあなたの兄上、レオナール殿下と話しましたが、あなたのお兄様は本当に手強い。ちょっとびっくりしました。腹黒さで並ばれたのは久しぶりです。」

(──ありゃやべえわ。命がいくつあっても足りない。)


「負けるかもしれない。だけど、クラリッサ。手を握ってもらえるかい?いつかの時のように」


手を差し出すアルヴェルトの指先は、緊張と期待に微かに震えていた。

そして手を握るとアルヴェルトは、小さく笑みを含ませた。


「動かないな。あれから僕も鍛えたのだけど。」


「ふふ。私も鍛えてるので。甘いですね。」


「僕は、この畏怖を忘れないよ。クラリッサ。」




馬車の輪が石畳を踏み鳴らし、ゆっくりと動き出す。

軋む車輪と遠ざかる足音、揺れる幌の隙間から光が差し込む。


その向こうでみんな手を振っていた。


父エドワード。

母マルグリット

兄セドリック。

第二王子アルヴェルト

多くのグランディールの領民。


そしてマリア。


クラリッサには静かに燃える強い覚悟があった。

どう、転んでも、3年後にはこの地へと帰ってこなくてはならない。


いたずらに時を過ごしていては、この命は無慈悲に散る。

だからこそ、運命に抗う術を、必ず見つけねばならない。

悪役令嬢としての運命に押しつぶされないように。






クラリッサは馬車に揺られ、消えていった。








3年が経った。


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