55話 激しくやさぐれた聖女の仕事
クラリッサは、お願いをした。
聖女のお願いは小聖だとして、大きな権限を持つ。
「掃除班Aは業務の割り振り。作業効率化。」
「書類整理は書庫担当2名。承認ルートも明確化。」
「信者対応は問い合わせと相談の窓口を一本化。混乱削減。」
流れるように指示をしていく。
クラリッサはやさぐれていた。
──グランディール領に帰ったクラリッサは、やさぐれたまま、やけになって教会内の業務改善を本格的にはじめた。
クラリッサは、司祭マルセルに羊皮紙を渡す。
「これを。」
「あの……これは?」
「設計図です。
グランディール領内に教会を移転します。
規模はこの教会の10倍。
大聖堂に加え、施療院、孤児院、倉庫、宿泊棟……
教会の本部から聖女権限で人員を要請し、移転に当たる費用は全てグランディール領が負担します。司祭、修道者、施療士、書記、管理官……」
費用は膨大だが、すでに美容品における利益の試算は出ている。
原価、流通、継続購入率。
貴族夫人層から下町までを網羅した需要曲線。
それらをすべて踏まえれば、この移転計画にかかる金など、端金に過ぎなかった。
思わぬ大事業に、司祭マルセルは目を潤ませ、胸に手を当てて感謝の祈りを捧げている。
──クラリッサは、それを少し離れた位置から、冷めた目で見る。
(信仰? 悪いけど100%ない。
いや、120%ない。全て下心だ。
影響力拡大のお膳立ては全てしてあげるよ。)
教会の建築が進む。
白亜の外壁は陽光を跳ね返し、基礎は旧来の神殿とは比べものにならないほど深く、広い。
施療棟、孤児院、倉庫、訓練場――すでに街の景観そのものを塗り替えつつある。
その名は、マルセール大教会。
司祭マルセルの名を冠した、グランディール領最大にして、教会史上例を見ない施設だ。
「教会の活動の進捗は?」
「施療と救貧は、計画比九割。
孤児の受け入れは定員拡張中。
巡礼対応は、来月より本格稼働となります。」
「よろしい。報告書は?」
「ここに全てまとめてあります。」
クラリッサは、頷く。
クラリッサは、司祭室の窓からそれを確認しつつ、ティーカップでお茶をたしなみながら、手元の書類を確認する。
孤児院や学舎での信頼。
領民診療や薬草治療。
祭り、集会、炊き出し――共同体の中心としての機能。
活動はそのままに、教会関係者は、知らぬ間に、この領の財と判断と決裁を前提に動くようになる。
世間には、「グランディール領と教会は一体である」
という印象だけが残ればいい。
領民の忠誠。
貴族社会での評判。
後援者の獲得。
――それだけで、十分に元は取れる。
──働け!!神の犬ども!!!神の名を掲げた、従順な歯車ども
(信仰など無駄だ。祈りも、救いも、幻想にすぎない!
そんなものはいらない!!全て殺してやる!!必要なのは、管理できる組織と、掌握できる人心!!)
逆らう者は全て放逐してやる。
さらに改革を進める。
──とはいえ、ボディビル大会の為の教会教義の変更への道は遠のいていた。
……だって既存のものを中から変えるには、派閥作らないと駄目だから。
(面倒くさい……)
その果てしのない道にクラリッサはやさぐれつつ、人員配置、業務改善、資金繰りの方針にさらなる修正プランを加えていく。
一つ一つは、小さな修正。
誰も反対しない。
誰も危険だと思わない。
だが、それらを積み重ねていくと、
組織の“力の流れ”だけが、静かに変わっていく。
信仰心はそのままで、判断と決裁を全部、こちらに寄せる。
──極力今までの教会内の構造を変えないように、気づかれないように見えないところの構造を全部変えて、最終的には教会関係者全員、骨抜きにしてやる!
(秩序は保つ。
混乱は起こさせない。
――その上で、完全掌握。
まあ、過剰になりすぎて内政に影響が出ない範囲で、治安に貢献していただこう。)
すでにクラリッサのお願いと指導が功を奏して、今まで誠意と信仰でしか動かなかったグランディール教会関係者の働きからは、無駄が消えていた。
意味のない往復。
慣例だけで続けられていた手順。
責任の所在が曖昧な作業。
それらが、音もなく削ぎ落とされていく。
(便利ね。適当なことでも神が言っていることにすれば、聖女の啓示扱いで全部一発だもの。誰も疑わない。誰も反論しない。
実際には啓示なんて聞こえた事ないけど。)
無駄な動きが消え、教会関係者たちはへーこらと動きながらも、クラリッサの思惑通りに“最適配置”を作り上げていく。
拒否は許さない。聖女見習い権限のお願いだからだ。
動線、
タスク配分、
優先度、
役割分担。
それらを効率、成果最大化、リスク軽減を第一に据えてられた、教義ために最適化された職業集団。
時がたち。
家族や、領に対して、周囲の貴族が手を出しづらくなった頃。
さらに伯爵領が聖女候補を輩出したという事実が伝わり、グランディール家に、教会勢力の後ろ盾がついた事を示せた頃。
魔王戦線へ遠征する軍部を編成することになった。




