54話 クラリッサの、楽しい聖女見習いの仕事。
後日。事情聴取。
関係者――貴族、教会、王国側の監察官が一堂に会し、「レベル上昇の秘術」について正式に共有されることになった。
クラリッサは席に座りながら、内心で頷く。
(ふむ。ちゃんと専門家をそろえてきたみたいね。準備の良いこと。まあ、数値が異常なら、まず測定環境と再現性を疑うのは当然ね。
そもそもザ・レイディーファーストキスではレベル35は中盤。
なんか思ってたより、強くなっちゃったけど、戦闘経験の少ないマリアだったし、まあいいかなと……でもアウトだったのね!!どんまい!私!!!)
「小聖(※聖女見習い)クラリッサ殿。君はレベルをあげられる。それは再現性がある。そう言ったね?」
「そうですね。普通ですね。」
「「「どこが普通なんだ!?!?」」」
監察官達のツッコミが合唱のように重なり、クラリッサは肩を竦めた。
「控えめにやりましたし。」
「「「控えめ……? あれで控えめ……!?」」」
情報漏洩対策の契約魔術は、彼らはすでに済ませている。
レベル上げの秘術は王命であり、その役目は重たい。
貴族側。老獪な交渉を生業とする監察官
王族側。数々の異常事例を処理してきた重鎮。
そして教会側。神学と禁忌に精通した立会い高位司祭が、顔面蒼白のまま震える声で口を開いた。
「過去にドラゴンを討伐した国の英雄と、同じレベルなのですよ!?控えめとは一体……」
「そんなの、基準が単純に低いのでは。」
沈黙。
逆に驚いた顔をするクラリッサに、観察官たちは額を押さえた。
――こいつ……自分がそこまで異端であるという自覚が無い……!
――しかも、悪意ゼロで事実だけを淡々と語っている……!
クラリッサは、その時、先日の議会での事を思い出していた。
――思い出される台詞。
「クラリッサ嬢を、聖女候補とする!!」
思い出される、第一王子レオナールと、教皇代理エルンストのしてやったり顔。
バキっ
思わず椅子の手すりを握りつぶす。
聖女候補認定──これは絶妙にこれからの活動を縛る妙手だ。
(表向きは名誉ある称号、だけど、権威があまりに大き過ぎて、あらゆる監視の目が集まってしまう!!)
そうならないように、目立たないように、石鹸の資金を使って教会連中を少しずつ順次、買収する予定だったのだ。
――そして教会への影響力が目標に到達した時点で、レベル制の本格的な拡大や、ボディビル大会開催のための教義改変に手を出す算段だった。
(だがそこに聖女の肩書きがあれば、動きは筒抜け。
知らぬうちに“見えない鎖”として、全ての行動を制約されてしまう。
というか、奇行を重ねて教会から破門されたら、それこそ教会への影響力が失われる!それはボディビル大会開催の失敗を意味する!!)
──聖女という権威で完全に縛られた!!これでは、教会の意向を無視できない!!
まさに妙手!!
バキバキ!!!
クラリッサが手すりを再度ぶちこわす。
「ひいい!クラリッサ殿!?どうなされたのだ!?」
聞き役の一人が悲鳴を上げた。
「ひええ!!」
(──怒らせてしまったのか!?我らはクラリッサ殿を怒らせてしまったのか!?)
(クソがあ……しまった。完全にやられた!!聖女認定!?その手は完全に抜け落ちていた!!
魔王討伐の提案で、メリットを提示しすぎたんだ!!最後の最後で、詰めを誤った!!なんでそんな事で聖女認定なんてするんだ!!)
グランディールを中心に活動を始めて、やがては国中に筋トレを布教する。
クラリッサの中の、筋トレアルシェリオン王国布教計画がガラガラと、崩れる音が聞こえた。
クソ第1王子レオナール!!そしてクソ教皇代理エルンスト!!貴様らの顔は覚えたからな!!
覚えとけよ!!老害どもが!!
グランディール領の教会へ顔を出す。
クラリッサの到来に、教会がにわかに騒ぎ出す。
奥の告解室の方から、年老いた神父が杖を鳴らして現れた。
司祭マルセル。
クラリッサが、ちょいちょい買収している仲の良い司祭で、普段であれば、目が合えば苦笑いの一つも交わす相手。
だが、その司祭の顔が敬意と同時に、測りかねるものへの警戒が混じっていた。
「よ、よくおいでくださいました。小聖クラリッサ。」
「司祭。こちらを。」
「小聖の証……。本物でございますね。もちろん疑ってなどおりませんが。
白金に近い光沢を持つその証。間違えるはずもありません。」
「私は先日より教会に所属する事となり、今までのように喜捨はできなくなってしまいました。
ですが、この身は神に捧げる所存です。
今まで以上に、粉骨砕身にて活動しなくてはなりません!!」
「お、おお……それでは。」
「まずは教会の決算報告を。
そして業務フローチャートを全て組み直します。」
「……は?」
「神聖法第三百十二条。
教会に属するすべての司祭・助祭・修道者・並びに管理職は、当該聖女の指示・勧告・判断に対し、正当な理由なくこれを拒み、遅延し、または無視してはならない。
これに違反した場合、当該命令の履行を妨げる一切の慣例、前例、内部規則は、聖女の裁量により停止、改定、または破棄され得る。」
すらすらと読み上げる。
「聖女のお願いは聞かないとですね?司祭様っ!」
にこやかに笑う、名伏し難い悪魔が降臨した。




